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Logical Mystery Tour/論理の木になった男

 
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すべては消費されつくす。ただし、数少ないがそうならないものもある。消費を拒否するのは論理と記憶である。E-M-M


パラドキシカル・ロジック/逆説的論理を愛する男は無言で鬼首神社のある鬼首山に入っていった。パラドキシカル・ロジックを愛する男の立ち枯れたような背中を見送りながら、パラドキシカル・ロジックを愛する男がなにかしらの決意を胸の奥に秘めていることが手に取るようにわかった。

パラドキシカル・ロジックを愛する男は鬼首山の中腹あたりで倒木寸前の大樹になった。それは存在だけは以前から知っていた論理の木/ロジック・ツリーだった。

論理の木/ロジック・ツリーは不可視だが、世界中の路地という路地に立って人間を監視し、観察し、来るべき復讐の木/リベンジ・ツリーの叛乱のための情報を収集している。


Magical Mystery Tour - The Beatles (1967)
 
by enzo_morinari | 2019-03-27 15:37 | Logical Mystery Tour | Trackback | Comments(0)

天使の落書きをした9歳のカトリーヌは20歳になり、いくつかの恋をし、いくつもの夢をみたけれども、今でも9歳の夏休みに北の国の強い王子様といっしょに遊園地で木馬やシーソーに揺られたことを夢見ている。

 
天使の落書きをした9歳のカトリーヌは20歳になり、いくつかの恋をし、いくつもの夢をみたけれども、今でも9歳の夏休みに北の国の強い王子様といっしょに遊園地で木馬やシーソーに揺られたことを夢見ている。_c0109850_13453775.jpg

カトリーヌあなたが九つで あの子は十二の夏休み
おぼえているでしょ遊園地 木馬やシーソーが揺れていた

あなたがブランコを漕ぎ ブロンドがなびくと
あの子は頬を染めてあなたを見つめた

カトリーヌ あの子はその夜にあなたの夢を見てたのよ
あの子が北の国の強い王子で あなたは西の国の可愛い王女様
ふたりでペルシャの馬に乗り 砂漠を越えて行く夢を

カトリーヌあなたはもう二十歳 あの日のブランコも今はない
けれどもあの子はあの日から今日まであなたに恋をしてるのよ



夢はこどものときに砕け散る。粉々に砕け散るのだ。例外はない。しかし、夢がとっくの昔に砕け散っていたことに気づくのに何十年もかかる。気づいてからのちは、粉々に砕け散った夢のかけら、断片をひとつひとつひろい集め、つなぎあわせ、頬ずりし、そっと口づけ、数知れぬため息をつき、夢の墓場に埋め、あきらめきれずに掘り起こし、さらに埋めもどし、そして疲れ果ててゆく。成熟するというのはそういうことだ。


Catherine/カトリーヌ - Daniele Vidal/ダニエル・ヴィダル (1970)
 
by enzo_morinari | 2019-03-27 14:00 | 天使の落書き | Trackback | Comments(0)

流儀と遊戯の王国/青の時代を超えるために生涯でただ1度Turnbull&Asserで誂えたPrussian Blueのシャツを着て戦友に今生の別れを告げる紺碧の夜

 
流儀と遊戯の王国/青の時代を超えるために生涯でただ1度Turnbull&Asserで誂えたPrussian Blueのシャツを着て戦友に今生の別れを告げる紺碧の夜_c0109850_02153487.jpg

あなたの胸のぬくもりが恋しくて涙する私
情熱と哀しみの迷宮に消えたアラビアン・ナイト
Torah Hot Big E


ペルシアン・ブルーに染まるアラビアン・ナイトを超えて、虹の彼方で催されている青の舞踏会に手を取りあって出かけた女の命の焔がもうすぐ消えるというので、青の時代を超えるために生涯でただ1度Turnbull&Asserで誂えたPrussian Blueのシャツを着て今生の別れを告げに出かけた。

女は困難と困憊と裏切りにみちた青の時代をともに生きた戦友だった。死の床に横臥たわる女は青い骸骨だった。女にはもはや言葉を発する余力は残っていない。わずかに開かれた眼。目蓋をあけ、とじるたびに肩で息をするが、呼吸音は聴きとれないほど小さい。

「おれたちの青の時代はこれで終わりだ。おまえはよく戦った。いい兵士だった。」と私は言った。女はかすかにだがうなずいた。心なしか頬笑んだように思えた。はるか遠い昔に紺青に輝く豊饒の海を見おろす放課後の音楽室でみせた頬笑みとおなじだった。そして、女は静かに息を引きとった。やすらかな死に顔だった。音楽の女神/ミューズとともに逝け、戦友よ。

遠い日の私と女ふたりだけのアラビアン・ナイトは情熱と哀しみの迷宮に消え、永遠に止まらないはずの夢時計の針は午前零時、シンデレラ・タイムを指したまま止まっている。2度と動きだすことはあるまい。そのようにして、すべてのこと、あらゆることは動きを止め、死ぬのだ。


Kind of Blue - Miles Davis (Kind of Blue/1959)
 
by enzo_morinari | 2019-03-27 02:24 | 流儀と遊戯の王国 | Trackback | Comments(0)

韻踏燈のあかりに照らされて/濡れた窓辺の化身のハル細胞のトルプスとオンタイム時の修羅イジョスが歩くシュルルシェ・シュラシュシュシュのデュルペン道は笑っている。

 
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気取り屋とセドリ屋とスカシ屋とA( )C屋とイーカゲソニシー屋とルクルトレベルソ屋と気むずかしがり屋と気恥ずかしがり屋は似て非なるどころか、のべつまくなしに別MONOである。少なくともUNIではないし、ましてや、Spiritual Unityではない。そんなふうに世界はできあがっている。

失踪した塩沢ときを探し求めて、逗子のユリ子はシーズーの仔犬とともにキサナオニキス鬼のキス魔のユリシーズと真桑瓜売りに瓜ふたつの鬼首村村民42号に道をたずねた。

アポストロフィもカタストロフィもウルトラマンゾフィもソフィーズチョイスも誕生する前から。もちろん、逗子のユリ子が鬼になる前から。マルセイバタサンドが伊達と富沢にタックルをくらって暢気な倒産をする前から。
 
by enzo_morinari | 2019-03-26 19:53 | 韻踏燈のあかりに照らされて | Trackback | Comments(0)

韻踏燈のあかりに照らされて/紙の月に仮の雁が咥えたカリフラワーと絵に描いた餅を描くカリグラファーがいてもIt's Only a Paper Moonはルーク・ジョータンのバースオブザクーループ神話だ。

 
韻踏燈のあかりに照らされて/紙の月に仮の雁が咥えたカリフラワーと絵に描いた餅を描くカリグラファーがいてもIt\'s Only a Paper Moonはルーク・ジョータンのバースオブザクーループ神話だ。_c0109850_17362759.jpg

絵に描いた田中の家の棚から牡丹餅が落ちてきたら、今年の七夕とダイエットと大殺界は台無しだ。細木数子はいっこく堂の後期高齢者型福なし腹話術式呪殺とフクシマ・クライシスで一刻も早く死ねばいいのに。淫蕩と淫悪と淫靡と陰湿の血は断たねばならない。


It's Only a Paper Moon - Miles Davis (Dig/1951)
 
by enzo_morinari | 2019-03-26 17:43 | 韻踏燈のあかりに照らされて | Trackback | Comments(0)

Audio of Dreams/JBLの夢告とJBL 4345と5次元スワンとMcIntosh MC275とMemories of Youとビートニク・ガールとKT-88


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これからここに書きしめすのはオーディオにおけるField of Dreamsである。いわば、Audio of Dreams. カネはかかるがえられるものはほとんどない。なにがしかの夢が完成し、再生されるだけである。ある種の満足なら少しはあるかもしれない。

Play, Play it again something. For Memories of You, Play it again, As time goes by.

Say it ain't so, JBL! (嘘だと言ってくれ、JBL!)

夢を完成し、実現し、再生すればJBLはやってくる。Audio of Dreams

夢は確実に粉々に砕け散るが、新しい夢を何度でもみればいい。In da Tokyo DaZone Raccoon Lagoon 2QQ7

なつかしい痛みだわ。ずっと前に忘れていた。でも、あなたを見たとき時間だけ後もどりしたの。失った夢だけが美しく見えるのはなぜかしら? 過ぎ去ったやさしさも今は甘い記憶。Sweet Memories…Tacassy Machaan

McIntoshのロゴがプリントされた真空管(出力管KT88×4, ミニチュア管12AX7×3, 同12AT7×4)を実装した1961年第1世代オリジナルのMcIntosh MC275でベニー・グッドマンのMemories of Youのモノーラル盤を聴くことが長年の夢だった。


JBL(James Bullough Lansing)の夢告により、オーディオの冥府魔道を再現し、再生することになった。今から40年近くも前に血道をあげた音世界を再現し、当時の機材、当時のソースを再生するのである。里程標/Milestoneは光悦のJade Platinum. Reference SourceはMiles DavisのMilestonesだ。

手始めに五味康祐/菅野沖彦/瀬川冬樹/江川三郎/長岡鉄男を召喚した。長岡鉄男には5次元スワンを持参させた。気取り屋A( )Cの傅”Foo Fou Fool”信幸については「おととい来やがれ!」だ。

Accuphaseがカミソリのような分解能と連帯を求めて孤立を恐れない粒立ちと根こそぎ露わにする解像度軍団を引き連れてやってくるフェーズはまだ先である。


プロローグとして付随するType Sputnik Spin-off Vostok 1
McIntosh MC275とMemories of Youとビートニク・ガール

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29歳になる春、奇妙でビートのきいたとびきりの恋がはじまった。恋の相手はビートニク・ガール。2歳年上だった。「恐縮です」と言って現れたビートニク・ガールは、初登場以後、私の前から忽然と姿を消すまで常に私の死角に入りこもうとする油断のならない人物であった。油断はならないがビートニク・ガールは見た目も性格もシマリスに似た愛すべき人物でもあって、いかなる状況下にあっても無条件でデコピン8連発をやらせてくれるところがすごく好きだった。

「あたしはシマリスだけど、あんたはアライグマだね。ぼのぼのは誰にする?」
「ふたりで東京中を走りまわって探そうぜ」
「すてきね! すてきね! アライグマくん」
「シマリス! これでも喰らえ!」

顔を輝かせ、全身を震わせるビートニク・ガールを押さえつけてヘッドロックをかけ、デコピン8連発を3セット喰らわせてやった。ビートニク・ガールは手足をばたばたさせてよろこんだ。白のパンダがやってくるのはまだ何年も先だった。

初めて会った次の日、われわれは千駄ヶ谷のサイクル・ショップで16段変速のロード・レーサーを買った。ビートニク・ガールはチェレステ・ブルーのビアンキを選び、私はミッドナイト・ブルーのデ・ローザを選んだ。もちろん、コンポーネントはカンパニョロのレコードを組みこんだ。このようにして、ビートニク・ガールと私のぼのぼのを探し求めて自転車で東京中を走り回る日々は幕をあけたわけだが、それはまた別の話だ。

ジャック・ケルアックの『路上』が世界中をビートきかせて疾走しはじめた翌年、私は生まれた。ビートニク・ガールが生まれたのはまだ『路上』がフランシス・スコット・フィッツジェラルドの書斎の紫色の揺り籠の中で静かな寝息を立てていた頃だ。アレン・ギンズバーグの蒼白い手が16ビートで揺り籠を揺らしていた。すなわち、われわれは『路上』を挟んで誕生した反逆反骨の前衛サンドウィッチというわけだ。そのことについては、ビートニク・ガールとも意見の一致をみている。

ふたりでひとつ。あるいは、ひとつでふたり。当然、われわれはBLTでおそいJBL風朝食をとるとき、かならずサンドウィッチを食べた。BLTでのおそいJBL風朝食のみならず、われわれはことあるごとに、それどころか、理由も動機もなく、やたらとJBL風サンドウィッチを食べた。おいしくて良心的で気のいいJBL風サンドウィッチばかりだったが、中には箸にも棒にもかからない性格の悪いJBL風サンドウィッチもいた。レタスの歯ごたえがまったくなくて、濡れたセロハン紙みたいだったり、ピクルスがすっぱすぎて安物のビネガーの味しかしなかったり、肝心のパンが岩波文庫味だったりするやつらだ。そういうたちの悪いJBL風サンドウィッチはひと口食べたあと地べたに投げつけ、ふたりで手をつないで思いきりジャンプし、踏みつぶしてやった。そのときの性悪JBL風サンドウィッチどもの湿った悲鳴は天上の音楽に聴こえた。

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私にはビートニク・ガールと出会う以前、はるか昔から、どうしても実現したいちっぽけな夢があった。McIntoshのロゴがプリントされた真空管(出力管KT88×4, ミニチュア管12AX7×3, 同12AT7×4)を実装した1961年第1世代オリジナルのMcIntosh MC275でベニー・グッドマンのMemories of Youのモノーラル盤を聴くこと。それが、私の長年の夢だった。

ベニー・グッドマンのMemories of Youのモノーラル盤はすでにミント・コンディションのものを米国のオークションで入手済みだった。音響機器についてはKSL-2/KRELL(Preamplifier/Control Amplifier)、TD-126/THORENS(Turntable Unit)、そして、The Voice of The Theater-A7/ALTEC(Speaker System)が主役のMcIntosh MC275がやってくるのを待ちかまえていた。

McIntosh MC275は75W/chの管球式のPower Amplifierだ。オリジナルの発売は1961年。私とほぼ同世代である。McIntosh MC275は力強さと温もりをあわせもった音質の素晴らしさもさることながら、とにかく美しかった。そのデザインは一見すると無骨そのものだがステンレス・スティール製の筐体は鏡のごとく完全無比に磨き上げられ、KT88をはじめとする11本の真空管が筐体表面に映りこむところに私は強く魅せられた。

私がMcIntosh MC275の存在を知ったのは17歳、高校2年のときだ。当時の私がMcIntosh MC275を手に入れることは新人DFがリーガ・エスパニョーラの初めての試合でリアル・マドリッド相手にハットトリックを達成するよりも難しかった。その後も経済的に入手できる状況であってもタイミングが合わなかったり、タイミングがよくても財布の中身が空っぽだったりという具合に私とMcIntosh MC275は幸福な関係を築けなかった。

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母親に連れていかれた横浜・伊勢佐木町の裏通りにある小さな映画館で観た『ベニー・グッドマン物語』が、私にとっては初めての映画だった。JAZZという言葉さえ知らない頃である。スティーヴ・アレン演じるベニー・グッドマンが舞台上から恋人にクラリネットの演奏で求婚するシーンには心打たれた。そのときの曲がMemories of Youだった。以来、愛の告白とMemories of Youは私にとっては蝙蝠傘とミシン同様にわかちがたいものとなった。

40年の月日が流れ、いくつもの春やら夏やら秋やら冬やらが去って私の恋と夢ははかなくも消えたが、それでもなお私には聴こえ、見える。私の胸をときめかさずにはおかないビートニク・ガールの少女のような笑い声と笑顔と遠く去ったMcIntosh MC275の甘くせつなく美しくあたかい音と出力管KT88の灯が映りこむ鏡面筐体が。私に残ったのはたった一度だけレコード針を落とされたベニー・グッドマンのビニルのレコードのみだ。それでも、後悔はなにひとつない。

不条理やら無常やらを感じることがなくはないが、いくばくかの記憶をたぐり寄せ、反芻することでたいていのことどもはやりすごせる。夢は確実に粉々に砕け散るが、新しい夢を何度でもみればいい。

サンドウィッチはいまでもよく食べる。だが、BLTには行かない。JBLは今でも好きだし、たまにMJBのアーミー・グリーンに輝くマグナム缶のコーヒーは買うが、飲まずに缶を眺めるだけだ。


Memories of You - Benny Goodman
Sweet Memories - Seiko Matsuda (1983)
JBL 4345 Restored Pair driven by KENRICK's Hi-End DAC, E1-KRS & McIntosh MC275 Original
 
by enzo_morinari | 2019-03-25 12:09 | Audio of Dreams | Trackback | Comments(0)

静寂は殺しのサイン/狙う者と狙われる者 アサシンはすぐうしろにいる。

 
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強固な信念を持つアサシンには死神も道をゆずる。

アサシンはどこからともなく現れ、どこへともなく消える。

狙う者はつねに勝者であり、狙われる者はつねに敗者である。

最強の兵士は失うもののない兵士である。失うもののない兵士はすべてを奪う。



群れているやつらをつぶすのは造作もないことだ。一人一人、狙い撃ちすればいい。世界は狙った者が勝つようにできあがっている。狙われた者に逃げ場はない。

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Assassin's Creed
Hitman 2: Silent Assassin
 
by enzo_morinari | 2019-03-25 02:17 | 静寂は殺しのサイン | Trackback | Comments(0)

Night Lights, Bay City YOKOHAMA/海賊稼業と港からみえる夜の街のあかりといつも聴こえていたGerry MulliganのNight Lights

 
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横浜の港にいるあいだは、昼間でもGerry MulliganのNight Lightsが聴こえていた。

地べたを舐め、這いつくばり、石もて追われた経験のけの字もない甘ちゃん/いい子ちゃん/マジメくんは、除菌されたクレゾールのにおいのする明るい表通りで二人でお茶を飲んできれいごとおべんちゃらおためごかしいいひとぶり善人ぶり仲良しごっこをやっているかママにキャラメルをおねだりするか極楽とんぼになってクソ田舎を飛びまわっているのがお似合いだ。


泡劇場崩壊後間もない海賊稼業の時代。山下埠頭や本牧埠頭や大黒埠頭で外国船の船員相手に中古の電化製品(早い話が粗大ゴミ)や中古車/中古バイクや中古自転車(いずれも廃車されたか放置自転車として処分されたもの)を8tのロングのトラックやトレーラーに満載して売りさばいていた。仕入れはすべてロハ。つまり、ただ。私の海賊稼業の時代、Bay Side on My Mindの時代だ。

1USドル=130円。実入りは1日に3000ドルを下らなかった。事務所と倉庫を借り、人手とトラックを増やすと倍々ゲームだった。手にしたUSドルはすべて本牧埠頭にあるUSS Seamen’s Clubで日本円にかえた。ビルが何本も建つほど稼いだ。毎朝起きると頬っぺたをつねって夢でないことを確認した。

危ない橋も渡った。塀の内側に落ちるまであと数歩ということが何度もあった。危ない橋を渡り、塀の上を歩く過程で海上保安庁第三管区海上保安本部の国際犯罪対策室の海上保安官とともだちになった。顔パスで国際犯罪対策室に出入りできるまでになった。麻取Gメンと税関のGメンは仕事仲間といえるくらい気心が知れる仲になった。情報提供をし、なにがしかの見返りを受け取った。デコスケだけは最後まで反りが合わなかった。

Under Coverのためにコロンビア船やロシア船やイラン船に泊まることもあった。船員は「訪船」を喜んで迎えてくれた。食い放題飲み放題ヤリ放題。おまけにオフィサーとおなじクラスの船室に泊めてくれた。大桟橋に停泊係留するロシアの貨客船には目の玉が飛び出るくらいの美人が大勢いた。中古の3ドア冷蔵庫1台でひと晩たのしめた。

ロシアの貨客船ルーシー号の船長であるセルゲイ・バシィーリーはチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で6位入賞というとんでもない経歴の持ち主だった。「音楽では食えない」というのがキャプテン・セルゲイがピアノを諦めた理由だった。

セルゲイはUSS Seamen’s Clubの調律のされていないYAMAHAのアップライト・ピアノでクラシカルやジャズ・ミュージックやポピュラー・ソングやスタンダード曲を弾いて聴かせてくれた。セルゲイが私のリクエストに応えて、ラフマニノフのピアノ・コンチェルト2番の第2楽章を弾いたときには不覚にも塩味のダイヤモンドが数粒こぼれた。セルゲイも塩味のダイヤモンドを流しながら弾いていた。故郷の親兄弟、国に残した妻や子のことが頭をよぎったか。

Gerry MulliganのNight Lightsをリクエストしたら、セルゲイは”My favorite songs!”と言ってから繰り返し繰り返しNight Lightsを弾いた。Seamen’s Clubの喧騒がやみ、Seamen’s Clubにいるだれもが息を殺し、神妙な面持ちでセルゲイの演奏に聴きいった。いつも陽気なフィリピン船の船員たちも。みんな心は疲れているんだなと思った。

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横浜の港にいるあいだは、昼間でもGerry MulliganのNight Lightsが聴こえていた。夜の帳がおり、昼間の喧騒が消えて沖仲仕たちも家路につく頃。横浜の港は濃密な静寂のうちに沈む。桟橋の先端のボラードに座り、フィリピン船の船員からもらったぬるいサンミゲルを飲む。そして、夜の光を浴びて夜光虫のように艶かしく光る横浜の街を眺める。

YOKOHAMA Night Lights ──。けたたましく忙しなくデンジャラスな日々の中で忘れかけていた”たいせつなこと”を取りもどし、見失わないための宝石のような時間だった。そして、それは私がおとなのとば口からちゃんとしたおとなになるための通過儀礼のような時間でもあった。実際、横浜の夜の港の時間を経験するごとに自分が少しずつだが確実にタフでクールでハードボイルドでスマートになっているように思えた。

海賊稼業の時代、Bay Side on My Mindの時代は商売がハネたあとは浴びるほど酒を飲み、遊んだ。本牧と野毛と中華街がメインの飲み場/遊び場だった。

中華街にはアブナイ店/場所、ヤバイ店/場所、アンタッチャブルの店/場所がいくらでもあった。ある意味で、中華街は解放区あるいはHard Dangerous Zone/超危険地帯、パニック地帯だった。

事情を知らずにディープな店/場所に隙だらけで足を踏み入れて、そのまま行方知れずになった例は山ほどある。死んだ場合は当然に死体は出ない。

地べたを舐め、這いつくばり、石もて追われた経験のけの字もない甘ちゃん/いい子ちゃん/マジメくんは、除菌されたクレゾールのにおいのする明るい表通りで二人でお茶を飲んできれいごとおべんちゃらおためごかしいいひとぶり善人ぶり仲良しごっこをやっているかママにキャラメルをおねだりするか極楽とんぼになってクソ田舎を飛びまわっているのがお似合いだ。


Night Lights - Gerry Mulligan (1963)
 
by enzo_morinari | 2019-03-24 11:30 | 横浜Night Lights | Trackback | Comments(0)

王様の耳はダンボの耳

 
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外交問題がこじれて、あわや断交となって、北の国のファッティー・ナッティー・キムティー王子との団交がうまくいかないときは、ダンボとスカイプレーのガモーと東京ぼん太とミル・マスカラスを呼んでジグソーパズルの名作、スカイ・ハイをやれ。


ダンボの耳の右
あまりにも寒いのでダンボの耳を燃やした。すると、いままで暖房担当だった暖炉と火鉢と七輪と囲炉裏とだるまストーブとマレーネ・ディートリッヒと西部戦線異状なしとB29とハッカラモケソケヘッケレピーとヤバイビシビイビとダウモスイマーとコジフネミとケスイダンゲジとソモエゴワカシイとジイヘタガニゼとソパル・ヌーセルアとFiat 500とワルサーP38とプロトコル・ドロイドのC3-POとアストロメク・ドロイドのR2-D2と浦辺粂子DEATH YODAとコルト45とターコイズ・コーダヨーダとトンビリとトンブリとドンブリとドン松五郎と街とその不確かな壁とランゲルハンス島の午後の最後の芝生と放火された納屋とオンワード樫山の表4広告と地下鉄銀座線における大猿の呪いとレキシントンの幽霊とトニー滝谷と夜のざるそばとTVピープルとデッド・ヒートにいそがしい回転木馬と踊るリップ・ヴァン・ウィンクルと沈没することが義務づけられた中国行きの貨物船と話好きな貧乏な小春おばさんと土の中の彼女の小さな犬と不幸せな象工場で働く非正規雇用労働者と罪刑法定主義と人的抗弁の切断面と人格責任論とダブル・ジョパディーとカルネアーデスの板と相続法の講義のときに分割割合の単純な計算で立ち往生した我妻榮先生と怒ると鳴神上人にクリソツの團藤重光先生とお地蔵さまのようなたたずまいの宮澤俊義先生とほぼ日刊カンガルー通信とチョソビレとンソベとパーヴォ・ミッチソゲソとポージ・ハジャ・マラ・カッシーナとマットンヤー・ユミーンとカトホナとカオリモとクルブルテペトクンサとクトスオジラウとクニトープスとSigue Sigue SputnikとカンターとマソジャーレとアマーレとアラブユとウォアイニとジュテムとQトラバユと寿限無とアッチョンブリケとウコンアンチウョチとイカツノウグウュリとラジクスガナロシとソャチパッハとスペリェフ・サロとオリザロとオリゴ糖と唐人お吉と吉田兼好と数寄者とオーベルジュ・ル・リキューと待庵主人とダウソ・タウソとウッチャソ・ナンチャソとナハノナとダボハゼとゼハボダとロサモタとアトレーユとファルコンとモモと北大路魯山人と蒲生氏郷と御成敗式目と春秋ツギハギダラケの五目炊きこみごはんとセパタクローとエムボマとUnabomberとアイノキボンバイエがものすごい勢いで怒って合体し、ついには河岸段丘に変身し、「ダボー。ダボー。ダボー。王様の耳はダンボの耳。バクダンたべちゃえ! 爆弾おとしちゃえ! ユナボマしちゃえ!」と叫びながら襲いかかってきた。春の珍事だろうが、こんなときこそ新華楼の焼売をソーカル事件のように爽快豪快狷介剣呑険悪に3皿食べたい。

ダンボの耳の左
ダンボ・キャップをかぶったハンドボールのスカイプレーの名手である蒲生安倍晴明が「ガモー。ガモー。ガモー。セメー。セメー。セメー。」と式神と海石榴とカメリア・ダイヤモンドを周囲に飛ばしまくりながらやってきて言うには「愛人は御懐妊するし、日本ハンドボール協会からは解任動議出されて辞任に追いこまれるし、還暦過ぎてからロクなことはないけど、背番号6は永久に不潔です。」だとよ。陰陽道一から修行してこい!

ダンボの耳の耳垢(カニに民事訴訟起こされたようなカニ味噌入り)
中山孝一こと中山秀征の実の父、本名東京ぼん太は作新学院野球部時代の野球賭博のボンプレーが元でカンピョウのほかに取柄自慢のない国を追放されて赤城おろしとカカア天下のほかにこれと言ってみるべきところのない馬の群れる国に流れ着いたが、井森美幸の踊りとも呼べない踊りと宇宙人レベルの音痴ぶりには鐘が鳴る鳴る唐草模様の放流時だし、夢もチボーもないねとチトー大統領二毛作偶蹄目。

ダンボの耳の蛇足
高校生の頃、1学年上に牛のしっぽの赤ワイン煮込み(Queue de Boeuf Braiser)と呼ばれている女の子がいた。乳白色の肌とブロンドに近い髪の色とオリヴィア・ハッセーに似た美しい面立ち。ネイティヴの英語の発音。欧米系の血筋であることはあきらかだった。牛のしっぽの赤ワイン煮込みというのはあまりにもだと思っていた。学食で配膳口に並んでいるときにすぐ前にクー・ド・ブフ・ブレゼがいたので、ホルスタジェンヌと呼んだらすごくよろこんでホルスタインのように豊満なオッパイをユサユサと揺すりながら接触寸前まで近づいてきた。その後、季節みっつ分恋愛関係になった。きわめて盲目的合目的的情熱的なメ・クー・ラ・ブーを100回くらいした。なにも残らなかったし、ホルスタジェンヌの顔も名前も憶えていない。(忘れてないよ、さおりちゃん。顔だって名前だって声だって匂いだって憶えてる。元妻1号だってことも。)


Sky High - Jigsaw (1975)
 
by enzo_morinari | 2019-03-23 19:36 | 王様の耳はダンボの耳 | Trackback | Comments(0)

静寂は殺しのサイン/長く強い痛みとアダージョ・ソステヌートの殺人者

 
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人生はラフマニノフの1小節にも値しない。G-G

アダージョ・ソステヌートの死。息は乱れない。常に平均律を保っている。G-G

嘘とごまかしと裏切りと変節と手のひら返しは断じてゆるさない。親兄弟、女、こども、友人であってもだ。手加減なし容赦なし。逃げても無駄だ。草の根をわけても探しだす。そして、長い時間をかけ、ゆっくりと、考えうるあらゆる種類の苦痛を与える。もがき苦しませ、のたうちまわらせ、むごたらしい死、アダージョ・ソステヌートの死をお見舞いする。それが私のModus Operandiだ。G-G


富士の樹海の近くのアジトに着いたのは夕闇が降りはじめた頃だった。いやな胸騒ぎが続いていたが、地下室に入ると胸騒ぎはきれいさっぱり消えた。男は虫の息だったがかろうじて生きていた。黒幕を聞きだすまで死なれては困る。男にはスカフィズムをはじめとする数々のTortureが待っている。私の趣味の時間、トーチャー・タイムだ。

地下室は完璧な防音処理が施されている。どんな音も外部には漏れない。やりたいことをやりたいだけできる。地下室にはいくつもの拷問具とともにほぼ完璧と言っていい音響設備が備えつけてある。

人生はラフマニノフの1小節にも値しないとひとりごちる。私の口ぐせだ。ひとは私を名うての殺し屋と呼ぶ。私は呼吸するように殺す。私にとって殺戮は呼吸と同じだ。私の殺戮で人口密度はいくぶんか減少し、私の呼吸で地球上の炭酸ガス濃度はわずかに上昇する。それだけの話である。

私は息を吐きだすようにトリガーを引き、息を吸いこむようにナイフを一閃する。私はゆっくりと殺す。手加減なし容赦なしで。眉ひとつ動かさずに。Adagio, Adagio. Non Troppo.

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樹海の樹々が軋む音を聴きながら思う。

「命乞いをするのは人間だけだ。人間以外の生き物は命乞いなどしない。不潔で覚悟なし。それが人間だ。」

人生はラフマニノフの1小節にも値しない。特にラフマニノフのピアノ・コンチェルト第2番 第2楽章の1小節には。当然、グスタフ・マーラーの交響曲第5番 第4楽章 アダージェットにも。チャイコフスキーの交響曲第6番『悲愴』にも。

アダージョ・ソステヌートの死。息は乱れない。常に平均律を保っている。Time Keep. Tempo Animato. Keep The Rhythm. I Got Rhythm. ジョージ・ガーシュウィンことジェイコブ・ガーショヴィッツは作り物のような静寂と豊饒に彩られた秋のNYで生まれ、狂った青空がなだれ落ちる夏の初めのLAで死んだ。

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人生に必要なのはリズムとバランスとエアロダイナミクスと確認である。これにいい旋律が加われば言うことなし。だが、ことはそうそううまくはいかない。変奏がある。どこのだれとも知らぬ馬の骨のせいで。チャーリー・パーカーが死んだのだって、元をただせばディジー・ガレスピーの変奏と変節に巻きこまれたからだ。No Confirmation, No Life.

スピーカーはイタリアの老練な家具職人が丹精をこめて作りあげたSonus FaberのAida. ジュゼッぺ・ヴェルティのオペラに登場するエチオピアの王女の名を冠した美しいスピーカー。イタリアのクラフトマンシップが生み出した傑作。音楽を奏でる宝石だ。リラの形状をしたRed Violin仕上げのエンクロージャーが艶かしく輝いている。明るくも気怠く儚く物憂げな古代ギリシアの街中にたゆたうように流れたリラの音色が聴こえてきそうだ。クレモナの偉大なリュータイオたち、アマーティやストラディヴァリやグァルネリも聞き惚れることだろう。CDプレイヤーはLinn CD12で、CardasのClear Beyondを使ってKrell KSLとウェスタン・エレクトリック社製のKT88をチュービングしたMcintosh MC275につないである。バイアンプ駆動。スピーカー・ケーブルにはEsotericの7N-S20000 MEXCELを奢ってある。

マイクロ精機の超重量級砲金製ターンテーブルがストリング・ドライヴによってゆっくりと回転している。ターンテーブル・ユニットSX8000+モーター・ユニットRY5400の最強無敵の組み合わせ。軸受部に無振動エアベアリング機構を採用したターンテーブルは回転しているにもかかわらず、静止しているようだ。ターンテーブル・ユニットのフレームとモーター・ユニットとパワー・ユニットは味わい深いブルーで統一されている。トーンアームはGraham EngineeringのPhantom II Supreme. ピックアップは光悦のBlue Lace Agate Platinum.

豊饒かつ優雅、そして峻烈。私の "仕事”の作法流儀 と寸分たがわない。いささかの迷いも狂いもためらいもない。精緻にして明晰。パーフェクトなノックアウト。たぶん、私は気づかないうちに世界を支配する極意を手に入れたか、万人から気づかれずに搾取するための美学を身につけたかしたんだろう。

ターンテーブルにはドイツ・グラモフォン盤のカラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニカー『グスタフ・マーラー 交響曲第5番』がのっている。

何年の録音だろうか。中学の音楽室で聴いたおぼえがある。放課後、クラーク・ケント似の音楽教師が聴かせてくれた。第4楽章の美しい緩徐の旋律に聴き惚れる。

仕事の前にはいつもマーラーの『交響曲第5番 第4楽章 アダージェット』かラフマニノフの『ピアノ協奏曲 第2番 第2楽章 アダージョ・ソステヌート』を聴く。そして考える。問う。"人生に確証はあるか? 啓示と福音に耳をすましているか?" と。仕事が無事終わったらナタリー・ドゥセが歌うラフマニノフの『ヴォカリーズ』を聴く。あとにはなにも残らない。残さない。後腐れなし。そんなふうにして、私は人生の日々の景色をよくする。

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弟子が問う。

「次のマークはどこのどいつですか?」
「おまえだと言ったら?」
「究極のオーディオ装置で戦慄の叙情を聴けたんですから心残りはありませんよ。できれば、1970年録音のウラジミール・アシュケナージとアンドレ・プレヴィン指揮 ロンドンSOのラフマニノフ Op. 18が聴けたら申し分ないんですけどね。」
「いい選択だ。ジメルマンとオザワ/ボストンSOのラフP-C No.2, Op. 18だと言ったら躊躇なくトリガーを引いていた。」

私はこともなげに言い、フレーム、銃身、スライド、弾倉のフィールド・ストリッピングとクリーニングを終えた38口径 FN ブラウニング M1910をホルスターに収め、ホルスターヘの収まり具合とホルスターから抜き出すときの滑らかさを確認し、再び、FN ブラウニング M1910をArflexの机の上に音もなく置いた。それから、ゆっくりとした動きでフィルターを外したソブラニーのブラック・ロシアンに火をつけた。深々と固形物のような烟りを吐き出すとヴァージニア葉の甘く濃密な燻香が部屋中に広がった。あとは未開封の箱の中の380ACP弾に瑕疵がないかひとつひとつ確認する作業を残すだけだ。

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FN ブラウニング M1910。私の長年の愛用銃にして、決して裏切ることのないよき相棒がポリッシュ・ブラックのArflexの机の上で鈍い輝きを放っている。

嘘とごまかしと裏切りと変節と手のひら返しは断じてゆるさない。親兄弟、女、こども、友人であってもだ。手加減なし容赦なし。逃げても無駄だ。草の根をわけても探しだす。そして、長い時間をかけ、ゆっくりと、考えうるあらゆる種類の苦痛を与える。もがき苦しませ、のたうちまわらせ、むごたらしい死、アダージョ・ソステヌートの死をお見舞いする。それが私のModus Operandiだ。

眉間にくっきりとS字の皺がよる。カービング・ナイフで彫りつけたようなS字のしるし。眉間のS字の皺の刻印は断固たる決意のあらわれだ。そして、私の冷酷と残虐の象徴。過去も現在も未来も変わらない。時制も時相も時法も問わないし、意味を持たない。場所もだ。

宇宙を支配する巨大な意志の力によってもたらされた私の理力はスカラー量もベクトル量もテンソル量も無化する。それが私のやり方、Modus Operandi. 私の意志の中心はメタルだ。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウの歌うクロード・ドビュッシーの歌曲集『Cinq Poèmes de Charles Baudelaire/シャルル・ボードレールの5の詩』をターンテーブルに乗せ、FN ブラウニング M1910の銃身を長く細く白い指先でゆっくりと繰り返し撫でる。シャルル・ボードレールの『悪の華』の中の詩の一節を暗誦でもするように。

「今夜のマークは女だ。それもとびきり美人のな。彼女はこれからファム・ファタールを気取って犯した数々の悪事悪行の贖罪をする。彼女は物事をアレグロ・アッサイに進めすぎた。人生はアダージョくらいでちょうどいい。漂えど沈まず、悠々として急ぐことも必要だがね。"夢魔世界の悪霊がユグドラシルさえ真っぷたつに切り裂く残酷にして冷徹な憤怒と憎悪の鉤爪を立てて汝を絶望と恐怖に彩られたモスケンの大渦巻のただ中に引きずりこむ。余は汝の呪われしアルビノの血がパストラーレの小川のようにファートゥムの瀑布のように軽快に激烈に流れ滴ることを熱望する" ということだ。」

言い終え、私はジャン=フランソワ・パイヤール室内管弦楽団が演奏する『アルビノーニによる2つの主題のアイデア及び通奏低音に基づく弦楽とオルガンのためのアダージョ ト短調』をかけた。

マークが "とびきり美人の女" と依頼主から聞いて少しだけ胸の奥が疼いた。しかし、ほんの少しだけだ。どうということはない。すべては過程のひとつにすぎない。

『アルビノーニのアダージョ ト短調』が終わり、再び、フィッシャー=ディースカウの正確無比、精緻明晰、ノイズ・ゼロのクリアな発声法に基づく威厳に満ちた声が部屋中に響きわたった。つづいて、マーラーの『交響曲第5番 第4楽章 アダージェット』とラフマニノフの『ピアノ協奏曲 第2番 第2楽章 アダージョ・ソステヌート』が交互に繰り返し流れた。

アダージョ・ソステヌートの時間が永遠につづくように思われた。それが逃げ場のない死のダ・カーポの始まりにすぎないことを知るのはまだ先だ。


S. Rachmaninov: Piano Concerto No. 2, Op. 18, 2nd mov. "Adagio sostenuto"
V. Ashkenazy, André Previn & London Symphony Orchestra (LSO)
Krystian Zimerman, Seiji Ozawa & Boston Symphony Orchestra (BSO)
V. Ashkenazy, Bernard Haitink & Royal Concertgebouw Orchestra (RCO)

S. Rachmaninov: Symphony No. 2 in E minor Op. 27, 3rd mov. "Adagio"
André Previn & London Symphony Orchestra (LSO)
Mariss Jansons & St. Petersburg Philharmonic Orchestra
Gennadi Rozhdestvensky & London Symphony Orchestra (LSO)
Pablo Castellano & Teresa Carreño Youth Symphony Orchestra of Venezuela

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by enzo_morinari | 2019-03-23 14:24 | 静寂は殺しのサイン | Trackback | Comments(0)