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カテゴリ:一千億のランジェリエ( 1 )

一千億のランジェリエ/セーヌ左岸でフェチれたら

 
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ネットワークに咲いたとびきりの恋は静かに終わりを告げる。


わたしはもうすぐ死ぬのだけど、ひとつだけ心残りがある。それは、わたしのラ・マンに、けっきょく一度も会えなかったことだ。もっとも、会えなかったのはわたしがみずから望んだことだ。それでも、会えなかったのはやっぱり残念。

会いたかった。ワギナがよじれるくらいに、無性に会いたかった。そして、貪るような、掻きむしるようなメイク・ラブをしたかった。しかし、もはやそれは実現不可能だ。わたしは12時間後には死ぬし、わたしはいまパリにいて、わたしのラ・マンは日本にいるからだ。

ついさっき、タイマーにつないだ電気コードを体に巻きつけ、睡眠導入剤を飲んだ。どれくらいでクスリは効き目をあらわすのだろう。わたしはさっそくインターネットに接続し、検索エンジンを呼び出した。それから、クスリの名前と「死亡」と「時間」と「飲」を検索条件の欄に入力した。「検索」のラジオ・ボタンを押すと、WI-FIのLEDランプが軽快に点滅をはじめ、該当するデータがブラウザの画面に次々と現れた。

クスリが効きはじめる時間はすぐにわかった。インターネットはわたしにとって人生のリターン・マッチの場を与えてくれたが、同時に、最後にきて、さよならの10カウントを打ち鳴らしているようにも思えた。そう思うと、胸がいっぱいになった。そして、すこしだけ泣いた。

電気コードのビニルの皮膜を剥きながら、わたしは考えた。死ぬことは思っていたより簡単だ、と。もちろん、「死」は重いテーマだ。だが、「死」と「死ぬこと」はまったく意味がちがう。「死」は決して生やさしいものではないが、「死ぬこと」は、行為だけを取り出せば、笑っちゃうほどに簡単でお気楽だ。

死は容赦なくやってくるし、圧倒的な迫力で人間を襲う。しかし、死ぬことは死ぬためのいくつかの手順を機械的にこなしてゆけば、黙っていても実現できる。三角関数より簡単なことはまちがいない。下手をすると、因数分解よりやさしいかもしれない。そんなことを考えながらビニルの皮膜を剥いていると、鼻歌が自然と出た。サザンオールスターズの『YAYA あの時代を忘れない』だ。

いずれにしても、セットした時間がくる頃には、わたしは睡眠導入剤の効果で深い眠りについている。眠っているあいだ、わたしはなにか夢でもみているのかな。みているとしたら、それはどんな夢なんだろう。深い深い海の中を無呼吸でどこまでも泳いでゆく夢だったらいいのに。『グラン・ブリュ』のジャン・レノみたいに真っ青な海をどこまでもどこまでも、深く深く潜ってゆく夢。

それか、春の盛りの満開の桜の樹の下で、お月様を静かに眺めているなんてのもクールだ。ときどき、月に向かって吠えたりなんかして。ランボーの詩みたい。いい。すごく、いい。サイコーにいい。

いまごろになって気づいたけど、わたしには詩の才能があったんだ。もっと早く気づいていたら、別の人生を手に入れることができたかもしれない。アルチュール・ランボーは詩を捨てて砂漠の商人になったけど、わたしは自分を捨てて電子の海の海賊になった。電子の海はそれまでに味わったことのない快感をわたしにもたらした。そのひとつが、わたしのラ・マンとの出合いだ。

電子の海におけるわたしの海賊ぶりについては、いくつかの伝説が残っている。マスコミの取材もいくつか受けた。

ちぇっ。くだらねえ奴ら。

それがわたしのマスコミ関係者についての感想である。

なにもわかっちゃいないよ、あんたらは。

「ケイコさんはなんというか、いままで、金銭と引き換えに不特定多数の男性と肉体関係を結ぶというようなことはなかったんですか?」

「はあ? 売春したことはあるかって意味ですかぁ?」
「ええ、まあ、そういうことです。」
「あなた、恋人いますか? 性生活は順調ですか?」
「ええ、まあ、ぼちぼち。こどもも二人いますし。」
「こどもがいるからどうしたの?」

わたしはおもいっきりトゲトゲしく言ってやった。

「カミさんとはけっこう仲いいですよ。来月、3人目のこども生まれますし。」
「だーかーらー! こどものことはどーでもいいんだってば! 奥さんとのカンケーをきいてんの! 奥さんとは週に何回セックスしてますか?」
「週というか、月に2回くらいかなー。ケイコさーん。どうしちゃったんですかー。急に怒りだしてー。」
「あんたさー、ちょっとズボンのチャックおろしてごらんよ。」
「えーっ!」

記者がたじろいだ隙に、わたしはものすごい素早さで身を乗り出し、記者の胸ぐらをつかんで押し倒した。なにしろ、身長171センチのわたしより、少なく見積もっても5センチは背が低い小男なのだ。

「や、やめてくださいよー!」
「うるさい! 静かにしな! 下手に騒ぐと乱暴されたって警察に言うよ!」
「わ、わ、わかりましたよー。」

半べそで記者は言った。自分の置かれた立場を理解したようだった。わたしは記者を押さえつけ、体の位置を徐々にずらして、ちょうど69をするような格好で馬乗りになった。それから、ズボンのチャックをいっきに下げた。趣味の悪い柄のパンツが張り裂けそうなほど膨らんでいた。

ふん。やっぱり。

さっきからわたしのスカートの奥にちらちらと舐めるような視線を走らせていたことに、わたしは気づいていたのだ。わたしはいつも外に出るときは下着をいっさいつけないのだ。電車の中とか喫茶店で、男がわたしの正面方向に座るとわざと股を広げる。たいていの男はわたしの股間に釘付けになる。わたしは男の視線を弄びながら、足を開いたり、閉じたりする。中には身を乗り出してくるやつもいる。記者のペニスは爆発しそうなくらいにかたく大きく勃起していた。

「ほら! これがすべてを物語っているんだよ!」

わたしは言って、記者のペニスの先を右の人差し指で弾いた。

「おきょ!」と記者が変な叫びを上げた。わたしはもう一度記者のペニスを弾いた。

「おきょ!」
「ねえ、記者さん。あなたは奥さんとのセックスのときも、これくらい勃起してる?」

わたしは記者のペニスを手の甲でぴしゃぴしゃと叩きながら訊ねた。

「い、い、いえ。こ、こんなに硬くはなりまひぇん!」
「なりまひぇん?」
「あ、なりません。すみまひぇん。」
「わたしが言いたいのはね、わたしはインターネットで知り合った男とは一度もセックスはしたことがないってことなんだよ。セックスできないんだから。」
「セックスできないっていうと?」

わたしと記者は69の態勢のまま、会話を続けた。

「あのね、わたしはねー、ネットで知り合ったひととは生身では絶対に会わないと決めてるの!」
「はあー、そーなんですかあ。」

記者が言葉を発するたびに、細身のペニスが言葉のリズムに合わせて動いた。ペニスの先の割れ目からはカウパー腺液が染み出している。わたしは急に記者がかわいく思えてきて、フェラチオくらいしてやろうかと思ったが、記者のペニスがあまりにも臭いので、やめた。臭いのは好きだが、記者のペニスのにおいには病的な暗さがあったのだ。

「あ、あのー、していただけないんでしょうか?」
「していただくって、なにを?」
「フェラとか。」
「バーカ。するわけないじゃん!」

わたしが言うと、記者はおそるおそる言った。

「それではわたしがケイコさんのここを舐めるのも、当然だめですよね?」
「あったりまえじゃん。でも、見るだけならいいよ。さわるのはダメだからね。」
「はい。わかりました。では、ありがたく拝ませていただきますです。」

記者が眼を見開いているのが手に取るようにわかった。わたしは腹に力をこめて、思いきりおならをしてやった。ものすごい音がして、記者は咳こみ、そして吐いた。

***


わたしの体の中を200ボルトの電気が流れる。そして、わたしは死ぬ。現在、パリ時間の午前3時。日本は昼下がりのまどろみの時刻だ。わたしが死ぬと、わたしのラ・マンには電子メールで「死亡報告書」が届くことになっている。ついさっき、メーラーで自動送信のセットをすませた。設定は3度確認した。カ・ン・ペ・キ。

<送信時間>:パリ時間2019年06月9日05時00分
<送信先>:toshinori-miyagawa@gspotmail.com
<subject>:死亡報告書/やっほーーー♪ ケイコですぅ♪(*^o^*)
<本文>:わたしのラ・マン♪ いま、パリにいますぅ♪ このお手紙を書いている現在の時刻は、2019年06月9日、午前3時を少しまわったところですぅ♪ 日本はお昼過ぎのおねむの時間だね♪ 気持よさそ♪(*^o^*)

わたしがいるのは、セーヌ左岸の古いアパルトマンですぅ♪ 念願の屋根裏部屋(*^o^*) 文句なし。窓からは蒼いマンサー・ルーフのつらなりが見えますぅ♪

実を言うと、このメールがわたしのラ・マンのコンピュータにロードされる頃には、わたしはすでに死んでいるのですぅ♪ ちょっとだけ悲しいので、クールな気分にはなれそうもありませんですぅ♪ パリだからって、「悲しみよ、こんにちは」なんてことはとうてい言えないのですぅ♪(^^; だって、わたしは死ぬのだから。わたしにとって「死ぬこと」はちっとも悲しいことではないのだから。へんなの♪(^^; 言いたかったぜぃ♪ Bonjour Tristesse! 悲しみよ、こんにちは♪

では、死亡の御挨拶♪ うきゃきゃきゃ♪(*^o^*)生前はひとかたならぬ御厚情を賜り、元フェチドル、タニグチケイコ、謹んで感謝申し上げますとともに、あの世で、もしも再会することができた暁には、きっときっと念願のメイク・ラブ、セックス、まぐわい、その他もろもろをかまさせていただきたく、衷心よりお願い申し上げます。びじゅびじゅ♪(*^o^*)

ケイコ♪

ついしーん♪

死亡推定時刻:パリ時間2007年07月09日15時03分
死亡場所:フランス共和国パリ市7区リュ・カンボン通り○○番地
直接の死因:感電死(200ボルトの交流電流による多臓器不全、心臓麻痺、脳内出血)

12時間後、わたしの死より少し早く(わたしとしてはこの際、死ぬのと同時がよかったのだが、即死はありえないので、わたしが最後の痙攣に身をよじっている最中に、わたしの「死亡のお知らせ」は発信されることになる)、わたしの死の知らせが、わたしの愛用していたちっちゃくてかわいいMac miniによって電子メールのかたちで送信され、わたしのラ・マンのもとに届くのだ。

電子の海を渡って。0と1のデジタル・データが、「死」という極めて人間的な事実を伝達する。これはけっこうクール。近頃では珍しいクールさ。わるくない。ゴキゲンと言ってもいい。

わたしとわたしのラ・マンとはインターネットで出合った。何度かの他愛もないメールのやりとりと、LINEでのトークやおしゃべりを経て、わたしとわたしのラ・マンは恋に落ちた。と言っても、わたしとわたしのラ・マンとは、リアルでは1度も会ったことがない。

彼はネットワーク上にできあがったわたしの「虚像」と、わたしが感じていた、とりとめのない哀しみの総量のすべてを受け止めてくれた。そして、わたしは彼の深く低く柔らかで静かな声と、「性」の入りこまないやさしさと強さにすごく魅かれた。そして、一度も会うことなく、わたしとわたしのラ・マンとの恋は終わる。これもやっぱりクールだ。

ネットワークに咲いたとびきりの恋は、そんなふうに静かに終わりを告げるのがいちばん似合っている。 


(Etre Continuent!)


Lingerie - Lizzo
 
by enzo_morinari | 2019-06-12 19:33 | 一千億のランジェリエ | Trackback | Comments(0)