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カテゴリ:僕らの絶望と欲望はアボカドの船に乗って。( 1 )

僕らの絶望と欲望はアボカドの船に乗って。/夢みる村上春樹は夢をみるために毎朝目覚めるという泥棒かささぎ世界におけるもっぱらの噂と夢虫のみる夢のかたちに関する一般教書

 
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夢虫の命惜まれ、朱骨の地紙に取うつし。露草をそそぎ、次第によはるをなげき。Psy-Cacoo


夢みる村上春樹は夢をみるために毎朝目覚めるというのが泥棒かささぎ世界におけるもっぱらの噂だ。夢みる村上春樹は人類救済とナイーブで傷つきやすい人々、Highly Sensitive Person (HSP)/インジュリー・ハート・ピープルのために毎朝決まった時間に目を覚まし、決まったパターンの夢をみる。「家」の夢だ。家の1階では家族が掃除をしたり、洗濯をしたり、料理をしたり、テレビを見たりしている。

寝室は2階にある。寝室では主に読書とセックスと睡眠が行われる。問題は地下室だ。地下室は家でもっとも深い場所だ。深いというのは物理的な意味だけではない。あらゆることの「意味」が深いのだ。もっとも深い空間には、ありとあらゆるモノがストックされ、心の一部までもが置かれている。そこには秘密の空間もある。そこに足を踏み入れるのはいくぶんかの困難をともなう。易々とは見つからない秘密の扉から入っていかなければならないからだ。運がよければ夢みる村上春樹は秘密の扉をみつけるし、運が悪ければ秘密の扉どころかテクマクマヤコン鏡のかけらさえみつからない。42年熟成もののシュールストレミング・ジュースを全身に塗りたくった秘密のアッコちゃんと傀儡の笑瓶ヨシコちゃんが牙を剥き出しにして2プラトンで襲いかかってくることだってある。

それでも、ようやく秘密の扉がみつかる。夢みる村上春樹はこの暗い空間に慎重かつ大胆に入っていく。ノルウェイの森42個分の沈黙に支えられた慎重さと大胆さで。そこになにがあるかはだれにもわからない。秘密の扉の奥の空間の全体像は謎に包まれたまま、次から次へと矢継ぎばやに意地悪でたちの悪い質問の矢を放ってくる。壁紙の色も柄も材質もわからない。窓があるのか、暖炉はあるのか、煙突はあるのか。秘密の部屋のことはなにもわからない。だから、秘密の部屋なのだ。

夢みる村上春樹は襲いかかる恐怖に震えながらも少しずつ進む。心地よささえ感じているようだ。奇妙なモノやコトが次から次へと出現するのを目撃できるからだ。夢みる村上春樹の目の前には形而上学的な記号やイメージや象徴がつぎつぎに現れる。夢だ。深層心理の現象化と言ってもいい。しかし、いつか夢みる村上春樹は現実世界に戻らなければならない。ここでやっと夢みる村上春樹の前に助け船が出現する。絶望と欲望を満載したアボカドの船だ。夢みる村上春樹はとてもじょうずに絶望と欲望を満載したアボカドの船を操る。伊達にスパゲティ・バジリコを来る日も来る日も茹でて食べていたわけではない。見えないところでプリプリの海老と新鮮なハーブの入ったアボカドのサラダだって食べていたのだ。

さて、千駄ヶ谷周辺を歩いていると、「村上春樹のナラティブな力にとても魅かれる」というプリミティブで告白好きな人物とときどきすれちがう。村上春樹がナラティヴだというなら世界はナラティヴだらけだろう。「日本においては」という前置きがあるならわからなくもないが。ことほど左様に、夢みる村上春樹に無理難題を突きつけるナイーヴさんは「グロテスクなエゴイスト」と相場は決まっている。繊細さを楯にしてナイーヴさん(Highly Sensitive Person/インジュリー・ハート・ピープル)は自分以外の世界と人間、つまりは「他者」をなしくずしにする。そのことから目をそむけてはいけないよ、夢みる村上春樹くん。『1Q84』の手抜きの件はメージャー爺さんには黙っていてあげるから。いいね?


The Funky Avocado - Michael Hedges (Breakfast in the Field/1981)
 
by enzo_morinari | 2019-06-03 00:42 | 僕らの絶望と欲望はアボカドの船に乗って。 | Trackback | Comments(0)