人気ブログランキング |

カテゴリ:かわいそうなカワウソ少年( 2 )

かわいそうなカワウソ少年は横須賀軍港でアメリカ合衆国海軍第5空母打撃群の原子力空母ロナルド・レーガンを目の当たりにして、ソニー・ロリンズの”St. Thomas”のリフをアドリブ付きの口笛で吹く。

 
c0109850_20425625.jpg

私とハルキンボ・ムラカーミは横須賀軍港を見下ろすStarbucks横須賀シーサイドビレッジ店の2階のウッドデッキで待ち合わせた。

ハルキンボ・ムラカーミは横須賀軍港に1番近いテーブルに座っていた。ハルキンボ・ムラカーミは犬の漫才師がプリントされた黒いTシャツにエイドリアンニューウィー・ブルーのコットン・リネンのジャケットを着ていた。Tシャツは色あせ、ジャケットはくたびれ果てて型がくずれていた。驚いたことに、ハルキンボ・ムラカーミは尻にBanana Republicの大きなロゴマークの入った紫色のバミューダ・ショーツを穿き、膝の上にピーター・キャットを乗せていた。靴はトップサイダーのネイビブルーのデッキシューズを素足で履いていた。頼りなさげなすね毛が生えていた。救いはハルキンボ・ムラカーミが口笛でソニー・ロリンズの”St. Thomas”のリフをアドリブ付きで吹いていることだった。

ハルキンボ・ムラカーミのあまりにもなコーディネートにスルーしようかとも思ったが、気をとりなおしてやや距離を置いた場所でUSS Ronald Reagan CVN-76を見ながらソニー・ロリンズの”Tenor Madness”のフルコーラスをアドリブ付きの口笛で吹いた。”St. Thomas”へのお返しだ。

ハルキンボ・ムラカーミは私が”Tenor Madness”をアドリブ付きの口笛でフルコーラス吹ききるまで私を見もしなかったが、終わるとタクシー・ドライバーのロバート・デ・ニーロのような動きでゆっくりと手を叩いた。無性に癪にさわったので「モヒカンにしてから出直してこい! カワウソ小僧!」と怒鳴ってやった。ハルキンボ・ムラカーミはこっぴどく叱られたシーズーの仔犬のような表情をした。なんだかかわいそうだった。

「たった今からあんたはカワイソ少年だ。いいな?」
「もちろんです。すごいうれしいです」
「すごいじゃなくて、すごくだけどな」
「すみません」
「すみませんですめばマッポはいらないけどな」
「はい」

私はハルキンボ・ムラカーミと並ぶかたちで座った。ハルキンボ・ムラカーミは座りなおし、大きな音を立てて唾を飲みこんだ。このようにして、ハルキンボ・ムラカーミとの犬の漫才師的森の漫才師的時間が幕を開けた。


St. Thomas - Sonny Rollins (Saxophone Colossus/1956)

Tenor Madness - Sonny Rollins (Tenor Madness/1956)
 
by enzo_morinari | 2019-05-21 20:57 | かわいそうなカワウソ少年 | Trackback | Comments(0)

かわいそうなカワウソ少年は1973年の夏にスリーフリッパーのスペースシップという気難しいピンボール・マシンに恋をした。

 
c0109850_11094191.jpg

Otter Boy/カワウソ少年ことハルキンボ・ムラカーミからメッセージが来た。簡潔できわめてカワウソ的泥棒かささぎ的ねじまき鳥的な文章で会いたい旨が記されていた。文末にはスマホの番号。

早速、かけてみた。イタズラ電話/ピンポンダッシュ気分で。ハルキンボ・ムラカーミはすぐに出た。くぐもったような声だった。ムラカーミ・ラヂヲのときより高域が濁っているように感じられた。ハルキンボ・ムラカーミの声は少しふるえていた。

「どうも」とハルキンボ・ムラカーミは言った。
「どうも」と私も言った。

やや間があった。私は言った。

「どーもくん?」
「どーもくんです」
「だうもさんじゃなくて?」
「だうもさんじゃなくて」
「さて、そこだ」
「はい」

そこがどこなのかは皆目見当がつかなかったが、そこからどこへ行くべきなのかはハルキンボ・ムラカーミとの共同作業で見つかるように思えた。
 
by enzo_morinari | 2019-05-21 11:14 | かわいそうなカワウソ少年 | Trackback | Comments(0)