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カテゴリ:Graveyard of Dreams( 1 )

夢の墓場

 
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依頼に基づいて消去するのが仕事だが、まれに依頼者本人を消去することもある。今回は同業者からの依頼だった。年齢もキャリアも腕前もほぼおなじ。服と時計と靴と酒と音楽とクルマと女の好みまで。

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「だれにも言っていなかったけど、夢があったんだ。それが夢だったと気づいたのは今朝のことだがね。」
「消える日の朝に気づいた。」
「ああ。いつか、あんたが言っていたように、夢はこどもの頃に砕け散っているものなんだな。」
「そうさ。例外はない。よほどのバカかにぶいやつでなければ、いつか夢がとうの昔に砕け散っていたことに気づく。」
「うん。そして、おれは消去される日の朝、そのことに気づいた。」

そこまで言って、男は目を閉じた。

「理由は聞かないのがルールだからなにも聞かない。ただ、少し残念だ。さびしくもある。」
「ありがとう。いつか、いいやつは死んだやつだと思ってくれたらうれしいね。」
「まちがいなく思うさ。」
「湿っぽくなっちまったな。」
「1杯やるか?」
「やめておこう。1杯飲んだら酔いどれの王国にあるありったけの酒が飲みたくなっちまう。」
「それもそうだな。ところで、まったく痛みのないやりかたもあるが。」
「わかってるさ。…昔々の大昔、おれは天使のような女を死なせてしまった。寿命ではなくね。すべておれの責任だ。だから、おれは罰せられなければならない。強く長い痛みを味わうことがせめてもの償いだ。」
「わかった。ところで、天使のような女のことだが。」
「うん。」
「聴かせてもらえるか?」
「あんたには話してもいいような気がする。あんた、時間は?」
「だいじょうぶさ。今日はほかに予定を入れていない。」

若い愛人と会う約束があったがうそをついた。男の長く曲がりくねった天使のような女の話がはじまった。長い夜になりそうだった。

(夢の墓場につづく)


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by enzo_morinari | 2019-03-05 14:25 | Graveyard of Dreams | Trackback | Comments(1)