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カテゴリ:書いた? 書けん!( 3 )

書いた? 書けん!/なにも足さない。なにも引かない。 言語の権化と手を固く握りあい、瞬きもせずに見つめあってすごした遠い日の秋

 
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なにも足さない。
なにも引かない。



1987年、秋。夕暮れどき、サンアドのSUNTORY Divisionのプロデューサーから電話があった。舌打ちを3回連続でし、不機嫌さを伝えるためにことさらぶっきら棒に電話に出た。

「お電話、よろしいですか?」
「よろしくない。きわめてよろしくない」
「…。かけなおしましょうか?」
「かけなおさなくていい。不在にするから。不在の権利は徹底的に行使する」
「困ったな…」
「困るのはあなたの事情だ。私は少しも困っていない。困っているとすれば、夕暮れの街に繰り出そうってときにつまらない電話につきあわされていることです」
「手短かに言います」
「なにごとも手短かがいい。簡潔明瞭でクールでハードボイルドなのが」
「では、手短かで簡潔明瞭でクールでハードボイルドに。開高健先生が樽さんに会いたがってます」

私は大きな音をさせて唾を飲みこみ、居ずまいを正した。唾を飲みこんだ音は相手にも聞こえたはずだ。つまらない失点をしてしまったと悔やんだが、あとの祭りだった。

「大先生が無名のフリーランスの若造小僧っ子の広告文案家に会いたいなんて、にわかには信じがたいな」
「SUNTORYのPure Malt Whiskyの広告です。Pure Malt Whiskyの広告の樽さんの仕事を開高先生はいたく気に入られたようです」

なるほど。そういうことか。

SUNTORY/Pure Malt Whisky TV-CM
 
by enzo_morinari | 2019-02-14 03:41 | 書いた? 書けん! | Trackback | Comments(0)

書いた? 書けん!/此處は御国を何百里 離れて遠き越洲の赤い夕日に照らされて 戦友は野末の石の下

 
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Adieu! Adios! Adidas! Amigo! 神とともに逝け Kaita? Kaken!

「しっかりせよ」と抱き起こし 仮包帯も弾丸の中

此處は御国を何百里 離れて遠き越洲の赤い夕日に照らされて 戦友は野末の石の下


泡劇場の最初期、開高健先生と三田にある斉須政雄の『黄金の丘』でシコタマ酒を飲み、鱈腹めしを食った。開高先生はムール貝をバケツ3杯食べ、Pouilly-Fuisséを5本飲んだ。底なしの胃袋だと思った。グラスの淵の無限周回軌道を猛烈なスピードで爆走していた。玉も砕ける蟒蛇丸呑升。手を縛っておかなければタナゴやヘラブナがモンゴル奥地の清流に棲息する巨大イトウや南氷洋のシロナガスクジラ大になりそうな勢いのOpa!/Fish on!話。パイプに葉巻に紙巻きタバコにシガリリョス。濛々たる煙突男。珠玉の談論風発。言語の権化。ヴォキャブラリの大伽藍。風の人。ただし、風は風でも猛烈な暴風だから、へたなことは訊けない。事象の地平線/シュバルツシルト面まで吹き飛ばされる。輝ける闇に叩きこまれる。パニックになる。飲み、食い、語る。口角泡を飛ばす。ブリア=サヴァランも舌を巻く健啖家。まさか、2年後に神とともに逝ってしまうとは夢にも思わなかった。

話はベトナム戦争時、記者として従軍したときのことにうつった。開高先生はそれまでの饒舌とは打って変わって、不自然なほど静かに九死に一生時の「胸騒ぎ」について語りはじめた。声をひそめて「ここだけの話やで」という前置き付きで。黄金の丘は濃密な静寂に支配された。


戦友
 
by enzo_morinari | 2019-02-10 08:14 | 書いた? 書けん! | Trackback | Comments(0)

書いた? 書けん!/開高健の砂を噛むような砂まじりの胸騒ぎ

 
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砂まじりの茅ヶ崎 人も波も消えて胸騒ぎの腰つき。Kay Kwta


ベトナム戦争時、開高健先生は記者として従軍し、最前線で反政府ゲリラの機銃掃射に遭った。機銃掃射と雨あられと降りそそぐ迫撃砲。開高先生が同行していた中隊200名のうち生存者は17名。開高先生は17名のうちの1人だった。

開高先生が行動をともにする小隊23名は開高先生を除く全員が死亡。反政府ゲリラの容赦のない攻撃が始まる直前、開高先生は岩陰に身を潜めた。そして、ただ1人生き残った。その壮絶激烈な経験をもとに書かれたのが『輝ける闇』『夏の闇』だ。

開高健を死地から救ったのは「胸騒ぎ」だった。この話はそこからはじまる。


勝手にシンドバッド Southern All Stars (1978)
 
by enzo_morinari | 2019-02-09 18:07 | 書いた? 書けん! | Trackback | Comments(0)