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カテゴリ:いつかの少年( 1 )

いつかの少年/人生ハ知ラズ 元三業地のラバトリ・グラフィティを何度も何度も見にいった日々

 
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人生ハ知ラズ 書き人知らず (ある元三業地のラバトリ・グラフィティ)

One Original Thought is Worth a Thousand Mindless Quotings. Diogenez Dogz

俺の人生はどこから始まり、いったいどこで終わってしまうんだろう。
突き動かされるあの時のまま。そう。“いつかの少年”みたいに。昭和の男


商店街を道1本はずれた通りは京浜急行の黄金町駅につながるアーケードだった。アーケードをさらに1本はずれ、赤提灯やスナックやトリス・バーや怪しげで淫靡淫猥淫蕩な雰囲気の店が立ちならぶ細い道を抜けると元三業地にたどりつく。

その場所は異世界だった。黒塀や見越しの松があった。全部で7軒。三味線や小唄長唄端歌都々逸が聞こえた。「長唄指導」「三味線教授」という看板がかかっていた。

その元三業地の一角に一軒の鰻屋があった。持ち帰りのみ。おそらくは、花柳界相手の商売だったんだろう。注文を受けて届ける。カネがないのでにおいだけ嗅ぐために何度も鰻屋に行き、煙りの出ている換気扇の下に立ち、目を閉じてにおいを嗅いだ。深呼吸して嗅いだ。鼻の穴を広げすぎて痛いくらいだった。クラクラした。

小学校1年の春。1度だけ蒲焼きにありつけた。店のじいさんがみかねてタダでくれたのだ。鰻の蒲焼きを生まれて初めて食べた。鳥肌が立つほどうまかった。世界にはこんなにうまいものがあるのかと思った。舌も頬っぺたも胃袋も目も大よろこびした。からだ全部が喜んで舞い踊り、細胞のひと粒ひと粒に染みわたるうまさだった。蒲焼きはすぐになくなり、しかし、立ち去らず、しぶとく、物欲しげにしていると、鰻屋のじいさんは根負けしてもうひとつくれた。母親に持って帰ろうと思っていたが、帰り道の途中でにおいだけ嗅ごうと思って包みを開け、結局、全部食べてしまった。

それ以来、なにかにつけて、なにもなくても元三業地に足を運んだ。そして、元三業地の隅っこにうずくまるようにしてある狭くて臭い公衆便所に入った。

汲み取り式。黄ばんだ小便器と扉にスカイブルーのペンキがぞんざいに塗られた大便所。裸電球ひとつ。接触不良でチカチカと点いたり消えたり。暗くて狭くて臭かった。蠅どもがぶんぶんうるさかった。板壁には「人生ハ知ラズ」のラバトリ・グラフィティ。金釘流のどうしようもなくヘタクソな字。字の大きさはバラバラで、バランスもなにもない。わずか6文字が右に左に斜めにのたくっていた。だが、なぜか心に残った。魂に届く言葉だった。以後、何度も何度も「人生ハ知ラズ」のラバトリ・グラフィティを見にいった。何度見ても読んでも口にしても書いても意味はわからなかった。ズラシハマナトヒ。ずらしは愛問ひ。逆から読んでみたがさらにわからなくなった。

夕暮れの帰り道、心細さや空腹をまぎらわすために「人生ハ知ラズ、人生ハ知ラズ、人生ハ知ラズ」とつぶやきながら暗くて細くて曲がりくねった道を歩いた。「人生ハ知ラズ」の意味を考えながら。その後の人生の暗く長く細く曲がりくねった道を歩いているときにも、しばしば「人生ハ知ラズ」と心の中でつぶやき、その意味を考える日々を生きてきた。

人生ハ知ラズ。人生ヲ知ラズではなくて、人生ハ知ラズ。だれが書いたのかはわからない。その真意もわからない。しかし、忘れがたき1行、言葉だ。座右の銘である。

人生ハ知ラズ。いったい、人生はどこから始まり、どこで終わってしまうんだろう ── 。


*****


いつかの少年
YOKOHAMA はいつも泣いている。YOKOHAMA はひ弱で不親切で無関心で他人行儀で見栄っ張りで気取った街だった。かっこつけるやつ、いいひとぶるやつの鼻っ柱にゲンコツを叩きこみたかった。何発も。何十発も。何百発も。何千発も。何万発も。何百万発も。世界がなくなってしまうまで、いくらでも。

父親はいつもいなかった。母親はいつも泣いているか怒っているか、名も知らぬ男に抱かれていた。それがどうした。世界の半分は女で、世界の半分は男だ。そのことをゆるせるようになったのはここ最近だ。

本当の答えがみつかるまで60年かかる。感傷や後悔や未練はクソの役にも立たない。手づかみではない。あかむけではない。腹はふくれない。

ど真ん中に、どてっ腹ど真ん中にこたえるホンモノのなにごとか、ぶん殴っても踏みつぶしても「まいった」を言わないものを探していた。やっとみつけた。みつかった。

いつかの、たとえようもなく、どうしようもない、わけもわからない、訳知らず、人生ハ知ラズ、しかし、確実に、正確に、精緻きわまりもなく、深々と鋭い俺自身な少年でありたい。

キャラメルはママにもらっとけ。俺の係じゃない。

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いつかの少年 長渕剛 (1989)

俺にとって KAGOSHIMA はいつも泣いてた
ひ弱で不親切で 邪険な街だった
親父とお袋は泥にまみれ銭をうらやみ
そのド真中で俺は打ち震えていた

ごうごうと不安が立ち昇る棲み家を
凍える風が暮らしをすりぬけていった
雨どいを伝う雫を見るのがたまらなく嫌だった
逃げ出したくて想いをかきむしるだけだった

俺の人生はどこから始まり
いったいどこで終わってしまうんだろう
突き動かされるあの時のまま
そう“いつかの少年”みたいに

乾ききれない浴衣がゆれていた
縁側のむこう 遠い記憶がかすんでく
俺は今 ゆれる船の上に立ち
叩きつける 七月の雨を見ている

すべてが一秒ごとに意味深く進んでる
水平線からどてっ腹に陽が昇る
今日と昨日とが激しく違うことを知った今
俺は KAGOSHIMA をつんざく波に捨てた

俺の人生はどこから始まり
いったいどこで終わってしまうんだろう
突き動かされるあの時のまま
そう“いつかの少年”みたいに

 
by enzo_morinari | 2019-02-03 04:49 | いつかの少年 | Trackback | Comments(5)