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カテゴリ:Donkey Go Home!( 1 )

Donkey Go Home!

 
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人には「帰りたい場所」「帰れない場所」「帰るベき場所」のみっつの場所がある。このみっつの場所を見誤らず、見失わなければ、どのような場所にいても、いかなる境遇にあっても生きつづけることの困難はほぼやりすごせる。

「帰りたい場所」なら手持ちはいくらでもある。「帰りたいけれど帰れない場所/遠くから、はるか遠くから思いを寄せつづけるしかない場所」もいくらでもある。

われわれは、帰りたいけれども帰れない場所/帰るべき場所に、暗く深く大きな河をいくつも渡っていつの日か還らなければならない。


小学校にあがる前にすでに自分が悪魔であることを明確に自覚していた。言動は悪辣極悪非道をきわめた。

物心つく前から「泣け!」とともに「帰れ!」というのが口ぐせだった。なにかというと「帰れ!」と怒鳴った。その場が「帰れ!」と怒鳴りつけた相手の自宅/自室であってもおかまいなしだった。状況、場面、老若男女問わず。

「帰れ!」と怒鳴られた相手は叱られた仔犬のような目でまわりを見まわして助けを求めるが、ほかの者は知らんぷり。我関せず。素知らぬふり。厄介事に巻きこまれたくないと言った風情。なるほどと思った。世界は無関心と知らんぷりと見て見ぬふりでできあがっていることを知った。

私に「帰れ!」と怒鳴られた者は叱られた仔犬のような目をしてその場から去る。彼あるいは彼女はいったいどこに帰るつもりでその場から去ったのか。自宅/自室のほかに帰る場所はあったのかなかったのかはわからない。確かめるすべはいまや失われた。

小学3年の2月の初め。すさまじい寒気団が2週間も居座って凍てつき、担任の教師が流行性感冒にかかって休んだ日だった。教室のダルマ・ストーブの胴が真っ赤になっていた。コークスをくべてもくべても暖かくならなかった。

担任のかわりに白豚みたいに太った佐野という教員が朝礼にやってきた。佐野は教員仲間にも生徒たちにもすごくきらわれていた。臭くてしつこくて言うことなすことつまらなくて、いつも痙攣しているみたいに動きがぎくしゃくし、引きつっていたのが嫌われる原因だっと思われる。

佐野は教壇にだらしなく両肘をつき、両手で頬を挟んで愚にもつかない話をはじめた。佐野の話は自分の生まれつきの病に関するものだった。脳性麻痺。Cerebral Palsy. CP. アテトーゼ。病が原因のいままでの多くの困難について。

黒板にのたくったような字で「脳性麻痺 アテトーゼ」と書いたところで我慢の限界がきた。私は立ちあがり、佐野に向かって怒鳴った。

「朝っぱらから、つまらねえ能書き御託たわ言なんか聞きたくねえよ! 辛気くせえ! 帰れ!」

佐野は叱られた仔犬のような目をし、いまにも泣きだしそうだった。

「帰れって、どこに?」
「帰る場所くらいてめえで考えろ!」
「わかったよ...」

佐野は肩を落として教室を出ていった。

休み時間、考えごとをしに屋上に行ったら佐野がいた。フェンスにもたれて下を見ていた。冬将軍の野郎が冷たい風を容赦なく佐野に吹きつけていた。冷たい風に吹かれ、すごくさびしそうなうしろ姿だった。声をかけようと思いかけたがやめた。

佐野の帰る場所が真冬の凍てつく小学校の屋上だったことを知って、これからは佐野に少しだけやさしく接しようと思った。ただ、思っただけで、次の週には廊下で佐野とすれちがうとき、太ももにキックの鬼・沢村忠ばりの渾身のまわし蹴りを入れてやった。佐野はすごく痛がったけれども、うれしそうだった。

卒業式。小学校の校門を出ようとしたとき、佐野はまわりの目も憚らずに私にすがりついて号泣し、嗚咽した。しかたないので、すがりつく佐野の背中をさすり、ひと粒だけ塩味のダイヤモンドをこぼしてやった。もちろん、ウソ泣きだ。悪魔は泣かないものと相場は決まっている。


旅愁 (故郷と母を夢見て/Dreaming of Home and Mother) クラウン少女合唱団

Home, Sweet Home (埴生の宿) Erutan

My Old Kentucky Home (懐かしきケンタッキーの我が家) The Robert Shaw Chorale

Home on the Range (峠の我が家) Frank Sinatra

Homeward Bound (早く家に帰りたい) Simon & Garfunkel

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by enzo_morinari | 2019-01-25 00:24 | Donkey Go Home! | Trackback | Comments(1)