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カテゴリ:CLosed BooK( 1 )

CLosed BooK 『日曜日のうた』の封印をといて

 
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雨上がりの日曜の世界が光匂い満ちてあるように。 E-M-M

だれもが迷いながら傷つきながら細く暗く不安な1本道をずっと歩きつづけている。ときどき陽が射せばいい。ときどき。ほんの少しだけ。雨上がりの日曜の朝のように。E-M-M


封印をといたのは冬の初めの雨上がりの日曜の朝だった。リッチー・バイラークのピアノ・ソロのアルバムHubrisの1曲目、Sunday Songの封印をといたのは。40年5ヶ月と4日ぶりだった。以来、日曜日は1日中、ずっと聴いている。

Sunday Songはしみる。とてもしみる。

Hubrisを手に入れたのはキース・ジャレットをはじめとするECMレーベルの音源をすべて集めようとしているさなかだった。

生まれて間もない嬰児をかき抱くようにHubrisを抱いて帰った。部屋に着くなり、アンプリファイアーに火をいれ、DENON DL-103の針先をメンテナンスし、厳粛な儀式に臨むような気分でHubrisの汚れのない盤面に針を落とした。

1曲目、Sunday Song. かすかなスクラッチ・ノイズのあとに、透明で悲しみさえたたえたピアノの音が聴こえはじめた。出だしの1小節が葬送の調べとも聴こえる。通奏低音が野辺送りの歌とも聴こえる。

1ヶ所、なんの前触れもなく転調するところでは心が軋み、揺れた。ミニマルとも思えるような主旋律が繰りかえされる。リリカルだがただのリリックではない。脇の甘いセンチメンタルでもない。鉱物のようにリジッドでソリッドでクリア。雨上がりの日曜の朝のような悲しみを帯びたクリアネス。そのメロディは心の奥深くまで染みこんでくる。染みこみ、静かに、とても静かに揺らす。揺さぶる。揺りかごの中で揺れているようにも思える。母親の白く細い腕と手さえみえるようだ。なぜか涙があふれた。涙は次から次へ、はらはらといくらでも出た。

Sunday Song. 5分24秒の悲しみ。3度目の「5分24秒の悲しみ」が終わろうとするときに電話が鳴った。

「OとTが死んだ。コンテナに突っこんだ。即死だ。本牧で。本牧埠頭で」

電話の主はうめくように言った。必死に涙をこらえているのがわかった。1978年6月16日金曜日の夕方、雨上がりだった。雨は前の週から1週間も降りつづいていた。

電話をきり、再び、Sunday Song, 「5分24秒の悲しみ」に針を落とした。そして、繰りかえし聴いた。Sunday Songが葬送の曲のように聴こえた。早すぎ、惨すぎる死を迎えたふたりの友の底抜けの笑顔が浮かんでは消えた。

いきなり転調しやがって。”革命的な死” ”英雄の死”ってのはこのことかよ。へたくそなポロネーズだ。愚か者めが。

何度目のSunday Songだったか。部屋の中が急に光に満たされた。あたたかくやさしくやわらかな光だった。幾筋もの光の束がまわりで舞っていた。純白の睡蓮の花弁からこぼれでるおぼろげな光。その光の束はジヴェルニーからやってきた淡く儚くおぼろな光でもあったか。

やがて光の束は窓を抜け、晴れ上がった世界のただ中へ帰っていった。それは死んだ友の葬列ともみえた。そして、Sunday Songを、Hubrisを封印した。ふたりの友の思い出とともに。

40年がすぎた。もうそろそろ封印をとこう。彼らについて語るときがきたのだ。たとえそれが他者にはどうでもいいようなことであっても、私にはかけがえのない時間、世界、言葉を孕んでいるのだから。

彼らを思い、彼らの笑顔を思い、彼らの言葉を思って語りはじめよう。そして、雨上がりの日曜にはSunday Songを繰り返し聴くことにしよう。雨上がりの日曜の世界が光匂い満ちてあるように。

だれもが迷いながら傷つきながら細く暗く不安な一本道をずっと歩きつづけている。ときどき陽が射せばいい。ときどき。ほんの少しだけ。雨上がりの日曜の朝のように。

世界は思っているほど醜くはない。世界には思っているよりずっと美しい瞬間がある。(CLosed BooK)


Sunday Song - Richie Beirach (1977)


Richard Beirach - Hubris (1977)
Released: 1977
Recorded : At Tonstudio Bauer in Ludwigsburg, West Germany in June 1977
Genre :Jazz, Piano Solo
Length :38:55
Label :ECM
Producer :Manfred Eicher

Track listing
*All compositions by Richard Beirach

1. "Sunday Song" - 5:24
2. "Leaving" - 5:16
3. "Koan" - 1:11
4. "Osiris" - 3:34
5. "Future Memory" - 4:49
6. "Hubris" - 5:59
7. "Rectilinear" - 2:13
8. "The Pearl" - 5:23
9. "Invisible Corridor / Sunday Song - Monday" - 5:16

Personnel
Richard Beirach - piano
 
by enzo_morinari | 2018-12-20 16:52 | CLosed BooK | Trackback | Comments(0)