人気ブログランキング |

カテゴリ:スタンバイユーの男( 1 )

スタンバイユーの男を探して/あの寒くて心細くて腹ペコでひとりぼっちの冬の夕暮れ、そばにいてくれたのはだれだったのか?

 
c0109850_17435657.jpg


いつもそばにいるよ。どんなに遠く離れていても、いつもきっとそばにいる。Man of SBY


小学校1年の冬の初め。世界で1番憎み忌み嫌い、殺してやりたいとさえ考えている生物学上の父親を名乗る男が来て、母親に1000円札を1枚渡されて貧乏長屋を出たのは昼近くだった。

本牧のベースの映画館で『メリー・ポピンズ』を3回みて、外に出ると本牧の街は闇の中に沈んでいた。ポップコーンとホットドッグとソーダ水を買いすぎて1文無し同然。スッテンテンのスッカラカン。ポケットには穴のあいていない5円玉1枚だけ。とうてい、バスには乗れない。歩いて帰るしかなかった。

フェンスの向こう側のアメリカ・ストリートをとぼとぼ歩いた。歩いても歩いても闇は終わらなかった。晩ごはんのいいにおいがしてお腹がぐーぐー鳴った。大きなスピッツが歯を剥きだして吠えたてた。チャコちゃんや少年ジェッターや宇宙少年ソランやオバケのQ太郎やジャングル大帝のテレビの音や家族団欒の笑い声が聴こえた。永遠に闇がつづくように思われた。

寒くて心細くて腹ペコでひとりぼっちの夕暮れ。泣きたかった。でも泣かなかった。そのとき、声が聴こえた。

Stand By You. いつもそばにいるよ。

声のしたほうをみると背の高い白人の男が立っていた。長髪でトンボめがねをかけていた。ジョン・レノンによく似ていた。涙がじゃぶじゃぶ音を立てて流れた。フェンスの向こう側のアメリカ・ストリートは一面水びたしになった。

「いつもそばにいるよ。約束する。いつもきっとそばにいる」

ジョン・レノン男はそう言うとフェンスの向こう側のアメリカ・ストリートの闇の中に消えた。以来、今日まで、ジョン・レノン男ことスタンバイユーの男を探す旅はつづいている。

スタンバイユーの男がみつかればいいが。間に合えばいいが。スタンバイユーの男と再会できる日はショーシャンクの空のように突きぬけた青空がひろがっていればいいが。


*スタンバイユーの男の墓は山手の外人墓地の北のはずれの斜面の陽のあたらない場所にある。墓碑銘に刻まれていたのはただ1行。

Stand By You. Benjamin Edward King. 1940 - 1964. Died in Vietnam. R.I.P.

スタンバイユーの男は、あの寒くて心細くて腹ペコでひとりぼっちの夕暮れに「いつもそばにいるよ」と言った1年前にベトナムで戦死していた。悲しくて不思議で、ちょっとだけ胸の真ん中あたりがぽかぽかした。

しかし、ここからスタンバイユーの男を探す本当の旅は始まる。手持ちの時間は残り少ないが、きっと会える。かならず会うことができる。そうでなければ、恥を偲び、屈辱に耐え、困窮と困憊と孤独に苛まれ、眠られぬ夜を幾夜も越えて生き延び、それでもなお生きつづけてきた意味がない。旅の道は細く長く暗く険しいが、歩けぬこともない。歩くかたわらには、いつも、いつでも、どこであっても、スタンバイユーの男がいる。そうスタンバイユーの男が約束したんだから。


Stand By Me - Ben E. King (1961)

Rested in Your Love - Roby Duke (1980)
 
by enzo_morinari | 2019-01-23 03:57 | スタンバイユーの男 | Trackback | Comments(0)