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カテゴリ:アセトアルデヒドのエト・セトラ( 3 )

アセトアルデヒドのエト・セトラ 十五で姐やは嫁にいき お里の便りも絶えはてた(参)

 
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「酒買ってくる」

小説家志望の文学青年にして新任新米教師の土屋が立ち上がった。前髪をななめに垂らし気味にしたスカしたやつだがどこか憎めなかった。土屋はサッカー部の副顧問でもある。

「猛ダッシュで行ってこい!」

土屋の背中に声をかけた。土屋は「オーッ!」と応じて山道を駈けおりた。10メートルも行かないうちにコケた。顔面を強打して、鼻血が吹きだした。額と頬骨もザックリと切れていた。背番号7/コードネーム、セブンスターのピー助がレスキューに向かう。土屋はピー助の担任でもある。

「ダイジョブデツ。ダ、ダ、ダイジョブデツ…」

チビのピー助が土屋に肩を貸して戻ってくる。

「みせてみろ」と言って、土屋の鼻骨を親指と人差し指でつまんだ。左右に動かすとグニャグニャグニュグニュした。

「たいしたことねえよ。せいぜいが折れてるくらいだ。鼻骨骨折で死んだって話は聞いたことねえしな。ゲバ棒にくらべりゃ屁でもねえだろ?」
「はい…」
「とっとと酒と食いモンとモク買ってこい!」
「…行ってきまっす!」

土屋は意を決して立ち上がり、右足を引きずりながら斜面を降りていった。

「ピー助、肩貸してやれ」

ピー助は俊敏な動きで立ち上がり、土屋を追った。

土屋とピー助が戻ってきて酒盛りが再開した。土屋は酒盛りの車座の真ん中に会津ほまれの一升瓶をドスンと置いた。人数分の湯飲み茶わんも。土屋は手際よく湯飲み茶わんに酒をついだ。

気がつけば、裏山が夕焼けに染まっていた。山も樹木も悪ガキどもも先公どももトリスの空き瓶も会津ほまれの空き瓶もつまみの空袋も、そして、私も赤く染まった。その場にいる者全員が息を飲んで沈黙した。

十五で姐やは嫁にいき お里の便りも絶えはてた

土屋が突如歌い、声をあげて泣きだした。悪ガキの中にも泣いているのが何人もいた。見ると、タツゾー先生とマンゴロー先生も泣いていた。武山でさえうつむいて肩をふるわせていた。私? 大嗤いもいいところだ。目からしょっぱいものが出ただけだ。

『赤とんぼ』は作詞した三木露風の実体験に基づいている。幼い頃に両親が離婚し、故郷のことを知らせてくれていた子守の娘が十五歳で嫁にいって、以後、故郷を遠く離れた三木露風には故郷のことを教えてくれる者はいなくなった。『赤とんぼ』は故郷喪失のかなしみと痛みの歌なのだ。そのことを悪ガキどもに話すと、黙って聞いていた土屋が号泣した。

「土屋! てめえ、国語教師だろ! てめえもなんか言えよ!」

私が言うと、土屋は目を真っ赤に泣きはらし、私の両の手をがっしりつかんだ。

「ありがとうございます。ありがとうございます…。弟子にしてください!」
「ギャラはたけえぞ」
「わかってます」
「じゃ、入門料1万円な」

私が言うと土屋はやつれて色あせた黒い財布から岩倉具視の500円札を2枚出して私の手に握らせた。かくして、秋の夜はふけていった。

赤とんぼ(NHKラジオ「にっぽんのメロディー」テーマ曲/1972)

(To be continue>>Punch Drunker)
 
by enzo_morinari | 2018-11-03 10:32 | アセトアルデヒドのエト・セトラ | Trackback | Comments(0)

アセトアルデヒドのエト・セトラ 最初で最後の親子酒で乞食酒の禁忌を学ぶ。(弐)

 
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「おまえたち! なにやってんだ!」

生徒指導の武山の怒鳴り声。体育教師。脳みそ筋肉。国士舘出の武闘派。柔道部の顧問。ドSにして、趣味体罰。見た目、ゴリラ。知性ゼロ。山形県出身。救いようのない田舎者。ズーズー弁の見本。

武山の怒鳴り声で悪ガキどもの酔いは一気に冷めたようだ。しかし、私はすでにベロベロ。禁酒番屋の酔っ払い役人状態である。

.呂律のまわらない口で私は言った。

「なにやってるって、見りゃわかんだろ! 酒飲んでんだよ!」

武山は私の存在に気づき、一瞬ひるんだ。

「未成年者が酒なんか飲んじゃダメなんだよ」
「未成年者が酒飲んじゃいけないって法律あんのかよ」
「あるよ」
「ねえよ。未成年者飲酒禁止法読んで勉強してこい!」
「えっ?」
「未成年者飲酒禁止法は一応未成年者の飲酒を禁止してるけどな、罰則規定はねえから刑事処分されねえんだよ!」
「……」
「それどころか、俺たちが酒盛りしてるのをあんたらが黙認したってことにすりゃ、ヤバいことになんのはあんたらだけどな。さて、どうするかな」

タツゾー先生とマンゴロー先生と新米教師はクスクス笑っている。

「まあ、あれだ。つもる話は飲みながらだ。近う寄れ、武山」

かくして、ステージ2、悪ガキどもと教師との合コン、極めてエキセントリックな酒盛りは始まった。
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日本全国酒飲み音頭

(To be Continue>>More and More, Over-Drink)
 
by enzo_morinari | 2018-11-02 11:47 | アセトアルデヒドのエト・セトラ | Trackback | Comments(0)

アセトアルデヒドのエト・セトラ 最初で最後の親子酒で乞食酒の禁忌を学ぶ。(壱)

 
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14歳、中学2年の秋の終わり。悪ガキ仲間と中学校の裏山で酒盛りをした。私を除く悪ガキどもは小学生の頃から家で盗み酒をしていて、すでにいっぱしの酒飲みだった。私はといえば、そもそも、家に酒のたぐいがなく、せいぜいが正月にお屠蘇を舐めたことくらいしかなかった。

母親は銀座の女だった。新橋のダンスホールのフロリダで踊り子をしたのを皮切りに、銀座の植松グレースで女バーテンダーをやり、水商売のイロハ、極意を身につけた。そして、最後はホステスをやった。その後、大映の大部屋女優となり、その頃に「ビールの飲みっぷり日本一」に輝いている。それにもかかわらず、母親が家で酒を飲むことはなかった。当然、晩酌などしない。

「酒は売るもの。飲むものではない」と言っていたのをおぼえている。「カネを出して高い酒を飲んで酔っ払うような男は出世しない。いい仕事もできない。はっきり言うとバカ。白洲先生は絶対に酔わなかった。おまえの父親もね」とも。

さて、悪ガキの酒盛りはトリスのポケット瓶で始まった。悪ガキのパシリ係が何度も中学校の近くの酒屋に買いに行った。不審に思った酒屋の店主が学校に通報した。タツゾー先生とマンゴロー先生と新任の新米教師と生徒指導の先公が酒盛りの場に血相を変えて踏みこんできた。

日本全国酒飲み音頭

(To be Continue>>Over-Drink)
 
by enzo_morinari | 2018-11-02 08:10 | アセトアルデヒドのエト・セトラ | Trackback | Comments(0)