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カテゴリ:コッツラとボッツラ( 1 )

コッツラとボッツラ

 
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50年近くも昔、1969年の正月にNHKラジオで井上ひさしの『ブンとフン』を聴いて夢中になった。『ブンとフン』の世界に入りたいと強く願った。小学校4年生だった。『ブンとフン』の世界に入りこむことはかなわなかったが、かわりにコッツラとボッツラが現れた。

コッツラとボッツラは普段はけたはずれにふざけたやつらだった。国籍年齢不明。身長は二人とも30cmくらい。竹の30cmの物差しより少し大きかった。話す言葉は聞いたことのない外国語のようだった。ときどき、カタコトの日本語が混じった。いま思えば外国語というより異星語だったのかもしれない。

放課後、校庭で遊んでいるとき、ドボルザークの『新世界交響曲』の第2楽章『家路』が流れて下校をうながす放送が聴こえるとコッツラとボッツラは現れた。

コッツラとボッツラは昼間は校庭の隅の体育倉庫に潜んでいた。よく、グラウンドに白線を引くときの石灰(ラインパウダー)を食べていた。人の気配を察知すると跳び箱やマットや運動会のときに使う玉入れのカゴやくす玉や綱引きの綱の陰に隠れた。

小学校5年に進級して間もないある春の夕暮れ、『家路』が流れて下校をうながす放送が聴こえたあと、コッツラとボッツラとならんで砂場の脇の貯水槽のへりに座って小学校の近くの土手を走る京浜急行を見ていた。夕闇がわれわれをすっぽりとつつんだ。土手の向こう側に見える夕焼けは世界を焼きつくすように赤かった。コウモリどもが舞い、超音波のプチプチいう音が校庭に響いた。

「イエニカエリタイ」とコッツラがぽつりと言った。
「コッツラボッツラ、ゴー、ホーム」とボッツラが言った。

私が「家に帰りたいのか? そうか。そうだよな。家に帰りたいよな」と言うと、コッツラとボッツラは激しくうなずいた。10年くらいあとに『E.T.』をみていて、E.T.が「E.T. phone home, E.T. phone home, E.T. phone home」と言ったときはびっくりした。

「でもな、家に帰りたくても、おれはおまえたちを家に帰すことはできない。第一、おまえたちの家がどこなのかさえおれは知らないんだ」

私が言うとコッツラとボッツラはとても悲しそうな顔をして、子犬が鼻を鳴らしているようなクゥクゥクゥという音を頭のてっぺんあたりから出した。


New World Symphony 2nd Mov. (Largo) - Antonin Dvořák
 
by enzo_morinari | 2018-10-28 03:25 | コッツラとボッツラ | Trackback | Comments(0)