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カテゴリ:されどわれらがハンバーガー・デイズ( 1 )

されどわれらがハンバーガー・デイズ/東京発モンタナ行き急行的ハンバーガーの良心と絶望と韃靼人の怒りと復讐

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すべてはあらかじめ失われているが、同時に、すべては往還する。ここかと思えばまたあちら。あちらと思えばアッチラで脱糞。そうかと思えばアッシジには関係のないことでゴザンスキー。かくも世界は謎と不条理とドタバタで墓場でダバダである。慰めてくれるのは買い物ブギーだけである。ああ、震度42。

毎年1月30日の明け方には神宮外苑の青山通りから12番目の銀杏の樹の下のベンチに東京発モンタナ行き急行を貸し切りにしてリチャード・ブローティガンはやってくる。望めば彼はやってくる。ビッグ・サーの南軍将軍とアメリカの鱒釣りと西瓜糖の日々と芝生の復讐を引きつれてリチャード・ブローティガンはやってくる。そして、青山通りから12番目の銀杏の樹の下のベンチに座る。かたわらにはいつも山口小夜子の化身であるミニチュア・セントバーナードが寄り添っている。地表スレスレだが滑空するミニチュア・セントバーナード。

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神宮外苑の銀杏並木が夕闇に包まれると、リチャード・ブローティガンは薄汚れたテンガロン・ジャバハットからレミントンのModel 700を取りだして口にするりと滑りこませる。

リチャード・ブローティガンが厳粛な綱渡りをする死滅する鯨のような空気をあたりに漂わせながらレミントンのModel 700の引き金を引くとリチャード・ブローティガンの頭は西瓜糖のように吹っ飛ぶ。無際限のハンバーガーのパティ分に散種したリチャード・ブローティガン。1985年1月30日からずっとつづく神宮外苑銀杏並木の冬の風物詩だ。そして、痛みをともなうハンバーガー・デイズが始まった。

 
東京発モンタナ行き急行的ハンバーガーの良心と絶望と韃靼人の怒りと復讐

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20歳の頃、ハンバーガーを1日に50個食べるのが日課だった。ハンバーガーを1日に50個食べつづけることでいったいどこにたどり着けるのかはわからなかったが、ハンバーガーを1日に50個食べつづけることは私の精神の強度と跳躍力と耐久性を飛躍的に高めた。

クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルの『雨を見たかい?』の「雨」がナパーム弾の弾幕であると気づいたのは1日50個のハンバーガーのおかげだ。さらにはいくつかの「啓示」と「福音」も。

実際、1日中咀嚼しつづけることは容易ではない。しかも、相手はジャンク・フードのチャンピオン、ハンバーガーだ。だが、私はひたすらハンバーガーを咀嚼し、飲みこみ、消化しつづけた。おかげで私の体重は半年で30kg増加した。

もとの体重まで戻すために要した精神力はハンバーガーを1日に50個食べつづけることによって培われたのだと思う。そして、いまや私の大脳辺縁系のほとんどは挽肉とバンズとピクルスとタマネギとベーコンとチーズに占領されてしまった。かえすがえすもよろこばしいことだ。ハンバーガー天国に行ける日も近い。

ハンバーガー天国では日がな一日ハンバーガーを食べていることができる。ダイエットだのコレステロールだの中性脂肪だののことを心配する必要がない。ハンバーガー天国ではあらゆることがハンバーガーを中心にして成り立っているのだ。毎日がハンバーガー・デイズというわけだ。

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その頃足繁く通っていたハンバーガー屋は早稲田鶴巻町の「SEASON」だ。常連客は「SEASON」をなぜか「シーソン」と呼んでいた。なぜ「シーズン」ではなくて「シーソン」なのか、店員で一番人気のアッコちゃんにたずねたことがある。アッコちゃんの答えはこうだ。

「みんなバカだからよ。バカでなきゃシーズンをシーソンって言ったりしないし、第一、ハンバーガーなんて食べるわけない」
「アッコちゃんはバカとバカでない奴をどうやって判別してるの?」
「そうね。バカはバカのにおいがするのよ。だからすぐにわかる。バカのにおいがする奴はみんなハンバーガーを食べる。これはハンバーガーが19世紀末にコネチカット州ニューヘイヴンのルイス食堂で誕生したときから変わらないのよ。わかる?」
「それじゃあハンバーグ・ステーキを食べる奴は?」
「ハンバーグ・ステーキを食べるひとはみんなインテリゲンチャよ。おぼえといて!」
「タルタル・ステーキは?」
「あなた、あたしをからかってるつもり?」
「怒ったの?」
「どっちだと思う?」
「そうだな。ちょっと怒ってる」
「ものすごく怒ってるわよ。妻を寝取られた韃靼人の怒りに匹敵するくらいよ」

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アッコちゃんは早稲田の文学部の2年生で、放送研究会に所属していた。「100万人の妹」を自称するだけあってキュートなうえになかなかの美人だった。

私がアッコちゃんに恋心のごときものを抱きはじめ、ハンバーガーを食べなくなったのとほぼ同時期にアッコちゃんは消滅した。それはまさしく消滅と呼ぶにふさわしい。なにしろ、真夜中、早稲田通りのアスファルトにチョークでモンタナ急行の寝台車輌を描き、それに飛び乗って消えたのだ。いまでも、ハンバーガーをかじる直前、アッコちゃんのシマリスのような笑顔があざやかに眼に浮かぶ。

アッコちゃんはいまでもハンバーガーを食べる人々をバカ呼ばわりしているんだろうか? それとも、ハンバーガーどころか世界そのものをバカ呼ばわりしているんだろうか? できうれば空気のきれいな郊外の街でアメリカの鱒釣り師くらい誠実なハンバーガー・ショップを経営していてほしい。そして、マイケル・マクドナルドの数倍良心的で心のこもった笑顔をふりまいていてほしい。

きょうの昼食は30年ぶりにシーソンのハンバーガーにしよう。もちろん、50個は食べない。20個だ。

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背景音楽: Neil Hamburger - Why did the beef cross the road ?
 
by enzo_morinari | 2018-09-20 13:05 | されどわれらがハンバーガー・デイズ | Trackback | Comments(0)