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カテゴリ:リリー・マルレーンに恋をして( 1 )

1970年夏の終わり、9月8日のマレーネ・ディートリッヒ/2018年冬、21時57分のリリー・マルレーン(1/2)

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夏の終わりの話だ。

1970年9月8日の火曜日。しみったれた曇り空は午後には気持ちよく晴れあがった。
 
私は小学生で、すでに夏休みは終わっていたが、大阪千里の万国博覧会会場にいた。そして、マレーネ・ディートリッヒと出会い、マレーネ・ディートリッヒの歌う『リリー・マルレーン』を聴いた。 

その日の朝、私は早起きして、ペンチと彫刻刀と針金を使い、ちぎれそうになったランドセルのストラップの修理をし、いつものごとく、日本酒の酒蓋コレクションを畳の上にすべてぶちまけて、なくなっている酒蓋がないか仔細に確認する作業をしていた。一番だいじな白鷹の酒蓋にキズがついているのに気づいて舌打ちをしたとき、私の父親であると名乗る男がやってきた。

母親と親しげに話をする男の脇腹を彫刻刀で切り裂いてやりたい衝動が突き上げてきたが、がまんした。母親の悲しげな顔がはっきりと見えたからだ。

「命拾いしたな。くそじじい。」

私は心の中でそっとつぶやき、彫刻刀を握りしめた。そして、キズのついた白鷹の酒蓋をなんどもなんども撫でた。

by enzo_morinari | 2018-03-23 08:38 | リリー・マルレーンに恋をして | Trackback | Comments(0)