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カテゴリ:カサブランカごっこ( 1 )

カサブランカごっこ#1 月の輝く夜に

 
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忘れちゃいけない。キスはただのキス、ため息はただのため息。恋の基本はいつだって変わらない。月の光もラブ・ソングもなつかしい光のシミも時代おくれにはならない。どれほど時を経ても。Her-Hup


トーキョー砂漠のど真ん中にある酔いどれ王国唯一の酒場、「リックのアメリカ酒場」から聴こえる「君の瞳に乾杯!」の号令とともにカサブランカごっこは始まった。カサブランカごっこは痩せ我慢のゲームだ。

「きのうはなにをしてたの?」と女が懇願するようにたずねる。
「そんな昔のことは忘れた」と男は無表情に素っ気なくこたえる。
「あしたはどうするの?」と女は追いすがるようにさらにたずねる。
「予定は立てない」と男はさらに素っ気なくこたえる。

そこへ、別の若い女がやってくる。男の手を強く握り、涙さえ浮かべている。彼女の年下の夫が抱える借金のことを相談しているようだ。男は若い女をなだめすかし、きっぱりと言い放つ。

「お嬢さん、だれもがなにかしら問題をかかえている。きみだけじゃない。自分で解決しなさい」

若い女はがっくりと肩を落とし、うなだれてその場を離れる。男は配下の者を呼び、若い女の夫の借金についてたずねる。そして、小切手帳を白い富良野フラノのジャケットの内ポケットから取り出し、借金の額に大卒の月給3ヶ月分を加えて小切手に書きこむ。裏書きには「北の国から ゴローより」と書いた。

「これできれいにしてやれ。残った分は彼女に渡すんだ」

男の手下は足早に去る。

「さて、ゲームをつづけよう」

女は男の言葉を受けて、席を立ち、ホール中央の移動式ピアノに向かう。女に気づいて目を見張り、驚くピアノ弾き。

「あの曲をお願いよ、ピアノ弾きさん。パリの思い出の曲を」
「おぼえておりません」
「あいかわらず嘘がへたくそね。『As Time Goes By』よ、サム」
「どんな曲でしたか?」
「こうよ」

女は『As Time Goes By』のメロディを口ずさむ。ヘタクソだ。室温が5度下がる。少し間を置いたあと、ピアノ弾きは仕方ないといった表情をみせてから囁くようにピアノを弾きはじめ、歌いだした。

 You must remember this.
 A kiss is still a kiss, a sigh is just a sigh.
 The fundamental things apply
 As time goes by…


酒場の亭主が血相を変えて素っ飛んでくる。

「その曲は禁止したはずだぞ、サマンサ・タバサ! あ。まちがえた…」

間髪入れずに監督役の男の声。

「カ────ット!」

続いてアシスタントの声。

「一旦、休憩入りまーす」

長い夜になりそうだったが、美しいグレープフルーツ・ムーンの夜だ。急ぐ必要はこれっぽっちもない。疲れたら、なつかしい光のシミを数えながら、煌々と輝くグレープフルーツ・ムーンを見上げればいい。カサブランカごっこはまだ始まったばかりだ。


 As Time Goes By - Dooley Wilson (サム)
 As Time Goes By - Frank Sinatra
 As Time Goes By - 101 Strings Orchestra
 
by enzo_morinari | 2018-06-30 06:46 | カサブランカごっこ | Trackback | Comments(0)