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カテゴリ:Divine Combine( 1 )

Divine Combine#1 異形の者と異言とデノミナツィオーネ・ディ・オリージネ・プロテッタ議定書

 
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ミシェル・ペトルチアーニとニールス・ヘニング・オーステッド・ペデルセンのデュオを聴いていた午後だ。

曲がCD1の6曲目、『いつか王子様が』にかわったところで「テジャブーテジャブー」と叫びながら異形の者が右側のソナス・ファベール-ガルネリ・オマージュのツイーターの格子の隙間からにゅるりと出てきた。その者はミシェル・ペトルチアーニに瓜二つだった。いや、ミシェル・ペトルチアーニ本人だった。

真桑瓜百個分くらい吃驚した。「あっと驚くタメゴロー」と口から出かかったほどだ。ミシェル・ペトルチアーニに瓜二つにして本人であり、真桑瓜百個分くらい吃驚させ、「あっと驚くタメゴロー」と口から出かかるほどの異形の者はニールス・ヘニング・オーステッド・ペデルセンを従者のようにしたがえていた。

噂通り、ニールス・ヘニング・オーステッド・ペデルセンの髭は実に魅力的だった。もはやこの世にいないはずの二人のすぐれた音楽家が、よりにもよって私のところへ、しかもソナス・ファベール-ガルネリ・オマージュのツイーターの格子の隙間からにゅるりと出てくるとは、世もよほどアリン・スエツングースカ的なるものに毒されているとみえる。ワニ語に。ワニ語を操る妖の物の怪に。腑抜けに。腑抜けの、アスコが吹きこぼれる寸前のくにゅくにゅくにょくにょフキコに。困ったものだ。

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「テジャブー。聖務日課が長引いたもので、やむなく遅れてしまったさ。すまんね。で? 神から与えられし王権、日常生活の王権から誕生した君とガジン君との『僕らの王権神授説』の進展具合はどうなんだい?」

なんだって? 王権神授説? 日常生活の王権? 第一、テジャブーってなんだ? デジャブじゃなくてテジャブー? ここははっきりしておかなくてはならない。

「そんなことより、”テジャブー”ってなに? デジャブじゃなくて?」
「テジャブー! まったく酔いどれの誇りまみれのポンコツ・スカターノ君には困ったものだ。テジャブーとデジャブとシャブシャブとシャンプーと迷宮のクリームリンスのちがいがわからないとは!」
「あんた、相当にめちゃくちゃだな。呆れてものも言えないよ」
「そりゃね。あんたの精神、神経、椎間板、プリン体、尿酸値が生んだんだから、めちゃくちゃなのは当然さ」
「なるほど。そういうことか。なるほど。確かにあんたの言うとおりだ」
「だがね、これだけはおぼえておいて欲しい」
「なんだよ」
「私は君の内部の”困った系”から誕生した異形、異質の者だが、いまやこの世界に実体をともなって存在する」

ミシェル・ペトルチアーニはきっぱりと言った。『St. Thomas』が終わり、『These Foolish Things』のチャーミングな主旋律が部屋の中を世界の愚かさの象徴のいくつかを伴って飛びまわりはじめた。

『星影のステラ』がかかる頃には気分は夜半をとうにすぎ、クローゼットの中の青き存在すら御登場に及ぶにちがいない。未来のこどもすらも。

そう思ったと同時にファニーなヴァレンタイン星人がやってきた。ファニーなヴァレンタイン星人はアドリアンニューウィーブルーのとてもすてきなドレスを着ていた。ファニーなヴァレンタイン星人は窓際に立ち、夏の午後のふやけた陽を背に受けてオレンジ色に輝きながら言った。


だれか一人を救っても、そのせいで数百万人が犠牲になる。


その者青き衣をまといてコンチキショーメの野に降り立つべしと言ってやりたかったが、曲は私の沈黙ノートのためのテーマ曲、『My Funny Valentine』にかわったので深く沈黙した。

ネットワークに眠る黄金の鉱脈発見のための占い棒がバネ仕掛けのように起き上がり、虚空を指し示した。松の実とニンニクとバジルをコンバインするジェノベーゼ・タイムが迫っているというのに事態は厄介な方向に動きはじめている。

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あらかじめ失われた森の緑のカーテンと美学と森の緑のスパゲティがどうしても必要だというマダム・プレヌリュンヌの希望に応えるのはもはや諦めねばならない。2週間の期間限定付き独身貴族である私にとってはそれほど容易なことではない。しかし、なにごとにも不可能はない。要は実現の道筋を見つけることができるか否か。また、実現の道筋を見つけようという強固な意志があるかどうかだ。

問題はパスタ・アリメンターレをいかにカンターヴィレし、アルデンテ・アンダンテの高みにまで引き上げるかということである。しかも、この問題には大フーガの名の下にカンノーリが振るい、突き出すロンギヌスの横槍をかわしながらという困難な条件がついている。

茹でるパスタはディ・チェコ No.42、フェデリコ・フェリーニでなければならないのはいまや明らかだった。

ねじまき鳥式。茹で時間42分。バジリコ、アーリオ、ピノーリ、サーレ・マリーノ・グロッソ、パルミジャーノ、ペコリーノ・フィオレ・サルド、オーリオ・エクストラ・ヴェルジーネ・ディ・オリーヴァ。デノミナツィオーネ・ディ・オリージネ・プロテッタ議定書どおりのペスト・ジェノヴェーゼの用意は決して怠ることはできない。そして、パスタをひたすら茹でつづける者は考えなければならない。

塩加減、茹で時間。さらにはジャーマン・シェパードの忠節について。ロベール・カサドシュの弾くモーツァルトのピアノコンチェルト42番の凡庸さについて。純粋理性の二律背反について。未出現宇宙の沈黙について。自同律の不快について。虚體を満足させるためのステップについて。パトリオティズムの現在について。ビューロクラット・ファシズムの強度について。チャーリー・パーカーの饒舌の牢獄もしくはマイルス・デイヴィスの静寂の重量について。刻々と失われゆく時間について。孤独について。それをいつか食べるかもしれない人物の性癖について。

時間は失われない。そもそもありはしないから。孤独は癒されない。そもそも誰も何も傷ついてはいないから。人間は孤独について考えつづけられるほど強くも勤勉にもできていない。木っ端役人に喰わせるスパゲッティ・アル・ペスト・ジェノヴェーゼはない。
 
by enzo_morinari | 2013-07-19 17:16 | Divine Combine | Trackback | Comments(0)