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カテゴリ:STREET4LIFE( 9 )

Streets of Fire/さらば、Street Life

 
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ウォルター・ヒル監督/マイケル・パレ主演の『Streets of Fire』はStreet Fightの最後の参考書だった。1984年公開。奇しくも、その年は私のStreet Fightの日々の最後の年となった。いつもなら、なじんだ街であろうが初めての街であろうが、街場を歩いていればたぎるような闘争心がはちきれそうなほどだったが、1984年のクリスマスを境にきれいさっぱり闘争心が消えうせた。モチベーションの欠如、消失。

闘争心/モチベーションが消えうせた理由? わからない。Street Fightでえられるものなどないことは初めからわかっていた。そもそも、なにかをして、あるいはなにかをせずにえられるものなどなにもないのだということも。

自分の筋肉量と柔軟さと強度(肉体)/俊敏さ(反射神経/運動能力)/闘争心(心/精神の強度)を計測したかった。Street Fightに明け暮れた理由はそこにある。

ルール無用のStreet Fightで勝つための極意はただひとつである。相手を殺す気でやること。殴る。蹴る。頭突きする。目を突く。髪の毛をつかむ。噛む。絞める。刺す。切る。なんでもあり。手にできるものはなんでも使う。そして、えられたものなし。Street Fightで残ったのはいくつかの傷痕であり、身についたのは人間の魂/精神の強弱を瞬時に見抜く眼力。いずれも、生きていくうえでたいして役には立たない。

『Streets of Fire』の主人公であるトム・コーディは最後は街を去る。美しい終わり方だった。私も街を遠く離れ、再び訪ねることもない。

以来、30有余年、帰りたい街が見えることもあったが、帰らなかった。帰れなかった。街は遠くから、はるか遠くから思いを寄せる場所であることを知ったのが、唯一、Street Fightの日々から学んだことだ。


Street Life - The Crusaders Feat. Randy Crawford (1979)
 
by enzo_morinari | 2018-11-27 21:29 | STREET4LIFE | Trackback | Comments(0)

STREET4LIFE#7 Straight, No Chaser.

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人生には軌跡があり鉱物には輝石があるが、奇跡はない。E-M-M


細く暗く荒れたまっすぐな一本道。落雷。無音。追跡者はいない。


Straight, No Chaser. まっすぐな一本道を行く。追跡者なし。路肩のマイルストーンに腰かけて強い酒をストレートでひと息にあおる。水なし。道も酒も追跡者/チェイサーのないストレートにかぎる。

Straight, No Chaser - Miles Davis
 

by enzo_morinari | 2018-08-18 02:45 | STREET4LIFE | Trackback | Comments(0)

STREET4LIFE#6 God Speed You, God Speaks to Me.

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ヴェロシティの市庁舎の尖塔の頂点にはスピード神の像があり、のろまがいないかつねに眼を光らせている。


自転車に愛を求めることはできない。なぜなら、自転車はより速くより遠く走るための道具だからである。

道具を使いこなすためには道具の構造、仕組み、原理、特性、物性をすべてグリップしていなければならない。そうでなければ道具のパフォーマンスを限界まで引きだすことはできない。

どこをどうすればどうなるか? 限界点はどこにあるのか?

自転車はどれだけ速く走れるか、どれだけ遠くまで走れるか。この2点にこそその眼目がある。より速くより遠く。そのためには筋力と心肺機能を高めることが求められる。

God Speed You, God Speaks to Me. 死にゆく者たちに黒い皇帝の祝福を。神はかく語りき。


God Speed You - Black Emperor(1976)
Word of God Speak - Mercy Me
 
by enzo_morinari | 2018-08-15 17:44 | STREET4LIFE | Trackback | Comments(0)

STREET4LIFE#5 Ghetto Gospel

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世界平和の前にストリートの殺しあいを終わらせるべきなんだ。それが俺のGhetto Gospel. Tupac Amaru Shakur, Eminem, Elton John and Bernie Taupin


ジノが3歳のときに両親は死んだ。首吊り自殺。秋の夕暮れ、ジノが家のドアをあけると父親と母親はなげしに結んだロープからぶら下がって揺れていた。以後は祖母に育てられた。祖母の死後、ジノは孤児院に収容された。

孤児院はゲットーのようなところだった。見捨てられた者たちと愛を知らぬ者たちの吹きだまり。つまり、ゴミ捨て場。ネグレクト? そんな甘っちょろいもんじゃないとジノは思う。

7歳から15歳までのゲットーの日々。今でも夢にみるいやな日々。空腹と嫉妬と暴力と虐待と略奪と絶望と憤怒と憎悪の日々。

ジノの父親はS級の競輪選手だったが八百長スキャンダルに巻きこまれて競輪界から永久追放された。借金苦がジノの両親の自殺の理由であるとされたが、本当の理由は別のところにある。それだけではない。自殺ですらない。ジノはだれが父親と母親を殺したのかわかっている。名前も顔も仕事場も住んでいる場所も。いつでも殺しにいける。

父親と母親を殺したのは肉の中にガラスのかけらやカミソリを忍ばせて仔犬の鼻先に置くようなやつらだ。両親殺害の首謀者、黒幕は自転車振興会副会長。実行犯は陸上自衛隊第1空挺団に所属していた元自衛官。殺人マシーンだ。父親と母親の死にかかわった者は一人残らず完全殲滅するとジノは決めている。完全殲滅。つまり、皆殺し。殺しの技術も殺しの作法もすでにすべて身につけている。彼らの残り時間は少ない。ジノはすでにクロノスの大鎌を手に入れて、毎晩研いでいる。ジノは深い沈黙に入った。殺戮者は沈黙する。語りつくせぬことについては沈黙しなければならない。

Ghetto Gospel. God Spell. 福音? 啓示? 神の言葉? そんなものはこの世界にはない。あるのは空腹と嫉妬と暴力と虐待と略奪と絶望と憤怒と憎悪と殺戮だ。世界の平和だって? 笑わせるな。世界の平和なんておめでたいお題目は頭の中におが屑かオカラがつまった経験の「け」の字も知らない甘っちょろい愚か者の寝言たわ言だ。この世界を覆っているのはKilling Fields/殺戮の大地である。


Ghetto Gospel - 2PAC, Eminem and Elton John
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by enzo_morinari | 2018-08-14 10:46 | STREET4LIFE | Trackback | Comments(0)

STREET4LIFE#4 Riding in my own sweet way.

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自転車乗りには哲学的な自転車乗りとそうでない自転車乗りがいる。E-M-M

水曜日の朝のトレーニング。ジノはバイクをピストからロードレーサーに乗り換える。ジノのトレーニング用のバイクはピュア・ポリッシュブラックのピナレロのカーボンフレームにカンパニョーロのスーパー・レコードをアッセンブルしてある。ハンドル、クランク、シートポストにいたるまでパーツはカーボンファイバーとチタンのものに換装している。総重量5.7kg. ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアやブエルタ・ア・エスパーニャに出場するプロの自転車乗りが乗るクラスのハイ・パフォーマンス・バイクだ。

行きつく場所、たどりつく果て。
語りうることと語りえぬこと。
漕ぐ果てにあるもの、あるいはないもの。
語る果てにあるもの、あるいはないもの。

ジノは九段坂をアウター・ギアのまま登りながら心の中でそっとつぶやく。右手の靖国神社をすぎてすぐのT字路を左折し、内堀通りを目指す。まだ街は夜明け前の静寂のうちに沈んでいる。ジノの水曜日の朝のトレーニングは内堀通りを反時計まわりに30周回することである。距離にして約150km。トレーニングの実施は季節、天候、体調、その余の事情にはいっさい影響されない。毎週水曜日の早朝、5年間かわらずに続けている。

27周回目。半蔵門をすぎ、ギアを2段上げて国立演芸場、最高裁判所を横目に加速し、三宅坂をやりすごす。いま、この瞬間、両の手指、上腕、背筋、臀筋、大腿四頭筋、膝関節、下腿三頭筋、足首、そして足底筋にかかる負荷こそがまごうことなき「生」の証しだ。

サイクル・コンピュータをみる。80km/hオーバー。ギア比53T×12T。ケイデンス124rpm。ハートレート・モニターは毎分178回の心拍数を示している。液晶ディスプレイのインジケータがひっきりなしに点滅し、心臓の過負荷を警告する。しかし、ジノはペダルを漕ぐ力をゆるめようとはしない。それどころか、さらにケイデンスを上げようと試みる。カンパニョーロ社製のカーボン・クランクが軋み、撓む。

意識が遠のきかける。それでもジノはペダルを踏みつづける。内堀通りがゆるやかに左にカーブし、桜田門前、警視庁本庁舎屋上のパラボラ・アンテナの一部が視界のすみに入ったとき、ジノの意識は完全に消失した。

ブレーキ・レバーを引こうにももはやブレーキ・キャリパーを有効に作動させるだけの余力は残っていない。レバーを握りしめ、丸裸の筋肉の力を「梃子の原理」によって増幅する。増幅された力は1mmにもみたないインナー・ケーブルを通じてブレーキ・キャリパーに入力される。これらが間断なくなされなければ、カタログ・スペック上、いかにすぐれた制動力を持つ機材であってもその能力を発揮することはできない。すなわち、自転車は1ミリたりとも止まらないというわけだ。同様に、ペダルを踏みこみ、引きあげ、クランクをまわしてチェンにエネルギーを伝達しなければホイールは回転せず、前へは進めない。つまり、自転車とは身体の延長、身体の一部分を構成しているとも言えるのだ。

タイヤは限界性能を超えようとしていた。カーブの頂点で親指の爪ほどの面積で地面をグリップしているミシュラン・プロレース2-20Cが悲鳴をあげはじめる。鈍い擦過音を発しながら車線1本分右にふくらむ。もしもこのときペダリングが止まっていればタイヤはグリップを失い、車体もろとも遠心力によって外側にはじき飛ばされたはずだが、ジノは失神しながらもペダルを踏みこんでいた。

後続の大型車両から悪意にみちたクラクションが鳴る。急ブレーキの鋭い音とゴムの焦げる匂い。そして、罵声。

「これで、やっと死ねるんだ」

そう思った刹那、ジノの胸の奥深くをよぎったのは「言葉の祖国」にたどりつくための地図ではなかったか。残念ながらそれはジノにしかわからない。だが、けっきょく、きょうもまたジノは死ななかった。いつものことだ。

正気を取りもどし、しらみはじめた空に一瞥をくれ、東京の中心にドーナツ状にあいた「聖なる空虚」の周囲をジノは疾走する。

ゴールなど見えようはずもない。内堀通りは環状道路だが、その「円環」は閉じられていないからだ。走りつづける道はけっして引返すことのできない細く長い一本道である。

人はみな途中で死ぬ。例外はない。目的地にたどり着いてから死ぬことなど誰にもできない。つまり、THE END や FIN の文字が都合よく用意されてはいないということだ。もちろん、ゴールはない。

より速く、より遠く。自転車乗りはこのふたつを実現するためにこそ身体を鍛え、食事を制限し、夜明けとともに走りだす。彼らが目指す「速さ」は具体的な数値ではない。彼らは「現在」「今」よりも速く走ることを目的とする。

自転車乗りたちは「此処」ではない「彼処」、「此岸」ではない「彼岸」、「近く」ではない「遠く」を日々夢想し、憧れ、やがて夜明けとともに漕ぎだす。「今」の連続の果てにある「スピードの王国」を夢み、遠く遥かなる「彼岸」に向けて世界中の名もなき自転車乗りたちはきょうもまた走る。走りつづける。ジノは水平線に現れた日輪を凝視し、つぶやく。

Riding in my own sweet way. 世界中の名もなき自転車乗りに、きょうもいい風が吹きますように。


なにものもカンピオニッシモ・ファウスト・コッピの憂鬱を回収することはできない。


In Your Own Sweet Way - Miles Davis
 
by enzo_morinari | 2018-08-13 18:07 | STREET4LIFE | Trackback | Comments(0)

STREET4LIFE#3 Chasing The Soul Shadows.

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ジノは漆黒のカラヴィンカに素早い動きでまたがると、見送るミツコをふりかえることもなく走り去る。ジノの姿はみるみるうちに小さくなり、点になり、夕暮れの街に消える。

ジノは決してふりかえらない。反省もしない。反省だの後悔だのは臆病小心者と愚か者の担当だとジノは考えている。ジノがふりかえり、うしろを見るのは進路をかえる際の後方確認のときだけだ。ジノはふりかえるとき、自分の影が自分についてきているかもたしかめる。影が自分を追いかけてきているかを。影があるうちは自分は生きているとジノは思う。

Chasing The Soul Shadows. ジノは自分の影に追われ、自分の魂の影を追いかける。

「おれの魂はいったいどこに向かっているんだ?」


Soul Shadows - The Crusaders & Bill Withers

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by enzo_morinari | 2018-08-13 14:15 | STREET4LIFE | Trackback | Comments(0)

STREET4LIFE#2 Life goes on.

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人生は本当のことに気づくには短すぎ、本当のことを待つには長すぎる。それでも、人生はつづく。


火曜日。午後2時42分。青山通り青山1丁目交差点。青山ツインタワー脇の階段。ジノは通りを挟んで向かいにあるホンダ本社にドロップオフしたあと、つかの間の休息をとっていた。青山ツインタワー脇の階段はメッセンジャーたちの次の仕事の待機場所/休憩所だ。メッセンジャーのたまり場。大いびきをかいて寝る者さえいる。

無線のスウィッチを切る。無線を切れば仕事のコールはこない。休みたいときは休む。だれにもとやかくのことは言わせない。それがジノのスタイルだ。My Own Style.

7-Elevenで買ったスニッカーズとカロリーメイトのフルーツ味とキットカットを食べ、ウィダーインゼリーをひと絞りで口の中に流しこみおえたとき、ミツコがやってきた。Vol de Nuit/夜間飛行の香り。ミドルノートのジャスミン、水仙、インドネシアン・カーネーションのスパイス・ノートが香っているところからして、昼食後にシャワーを浴びて夜間飛行をつけたのだろう。

ジノは無線のスウィッチを入れ、ディスパッチャーに現金仕事である旨とドロップオフ先の住所を告げた。南青山1丁目から横須賀市役所まで。直線距離で43km/スーパーラッシュのスペシャル・デリバリー。しかし、実際にはデリバリーはしない。火曜日の午後はミツコとのデイドリーム・アヴァンチュールだからだ。料金はミツコが支払う。デリバリー料金とは別にスペシャルもある。

ミツコとの出会いは偶然だった。神宮外苑銀杏並木の青山通りから12本目の銀杏の樹の前のベンチで午睡しているときにミツコから声をかけてきた。ミツコのつけている夜間飛行の香りで目がさめた直後だった。そのとき、ジノはアウトドローモ・インテルナツィオナーレ・エンツォ・エ・ディーノ・フェラーリ(イモラ・サーキット)のタンブレロ・コーナーをMcLaren MP4/6で312km/hでアイルトン・セナとSide By Side/ランデブー・コーナリングしている夢をみていた。Honda RA121-Eの甲高いV12サウンドがまだジノの頭の中に鳴り響いていた。

F1ドライバーになることがジノのこどもの頃からの夢だった。夢は粉々に砕け散ったが、失ってはいない。粉々に砕け散った夢のかけらをひろいあつめ、つなぎあわせればいいだけの話だ。夢がこどもの頃に砕け散っていたとしてもだ。そして、アイルトン・セナは2PACとともにジノのアイドルだった。

ミツコは神宮前に豪邸を構える大金持ちの人妻だった。45歳。ジノより20歳年上だ。初めてミツコに会ったとき、ジノは18歳の誕生日を迎えたばかりだった。そのとき、ミツコは38歳。

青山通りから1本入った裏通り。神宮前2丁目の大豪邸。青山1丁目の交差点からジノとミツコは競争する。いつものことだ。当然、ジノの勝ち。都内の道路でバイシクル・メッセンジャーが乗る自転車より速い乗り物はない。路線バスより車よりオートバイより速い。渋滞の影響を受けないからだ。信号は完全無視。バイシクル・メッセンジャーにとって信号機はないも同然である。メッセンジャーが信号を守っていたら仕事にならない。いざとなったら、首都高を使う。入口も出口も料金所は突破する。

メッセンジャーにはある種の不良性と反権力/反骨の精神が必要である。メッセンジャーは現代のまつろわぬひとびとなのだ。純水ではなにものも生きることはできない。ドブさらいはだれかがやらねばならない。世界はそのようにできあがっている。

豪勢な正門の前でミツコが来るのを待つ。ミツコは15分遅れてやってきた。ミツコの操作で正門がゆっくりと開く。ジノは漆黒のカラヴィンカにまたがり、ウィリーで正面玄関に向かう。ミツコがエントランスにBentley Continental GTC Convertibleを停めると正面玄関が開けられた。

正面玄関を入ると年配の家政婦が満面の笑顔で迎える。

「シャワーはいつでもどうぞ。お召し物は洗濯しておきます。お着替えはパウダー・ルームにご用意してあります」

ジノはうながされるままにシャワーを浴び、用意されていたバスローブを羽織ってミツコの待つ寝室に向かった。

ジノは両腕を頭のうしろに組み、天井をじっと見ている。ミツコはジノの左腕に頭をのせている。ミツコが口をひらく。

「あなたを初めて見かけたのは ──」
「青山通りの外苑の銀杏並木の角」
「え?」
「あんたは白のAudi Quattroに乗ってた」
「気づいてたの?」
「うん。きれいなひとだなって思った」
「うふ」
「動体視力はだれにも負けない」
「すごいわ」
「青いラコステのポロシャツを着てただろ?」
「信じらんない」
「信じられなくても事実だ」
「赤坂方向から銀杏並木のとこをすごいスピードで右折してきた。急ブレーキ踏んだけどぶつかったと思った」
「危なかった。あと7cmでクラッシュだった」

「御両親のこと、きいてもいい?」
「だめ」
「そう」
「ふたりとも死んじゃったから」
「え?」
「おれが3歳の冬に。首吊った。そのあとはばあちゃんに育てられた」
「まあ」
「ばあちゃんが死んでからは中学を卒業するまで施設暮らし」
「そう」
「あんたはおれの母親とおない年だ」
「まあ」

「わたしたちどうなるのかしら? これから」
「どうにもならない。おれはメッセンジャーで、あんたは週に1度デリバリーをオーダーするお客さんだ。かたちがないもののデリバリーをね。メッセンジャーはなんでも運ぶ。それが仕事だから。確実に言えることは100年後にはおれもあんたも死んでいて、きれいさっぱり忘れられて、跡形もなくなってるってことだ。100年後の世界の住人はおれたちの名前を知らないだけじゃなくて、存在したことすら知らない。知ろうともしない。もちろん、おれが青山通りを疾走したことも赤坂見附のサントリー本社から外堀通りのセンターラインを17ヶ所ある信号をすべて無視して走りに走って汐留の電通まで3分で走りきったこともあんたがラコステの青いポロシャツを着てAudi Quattroを運転してたこともね」
「かなしいわね...。自分のことを知っているひとが1人もいない世界...。おそろしいくらい」
「おれたちだけじゃない。たかだか100年足らずしか生きない人間は次のたかだか100年しか生きない人間に知られもしない。例外なくね。人間だけじゃなくてすべての生き物はね。このたった今生まれた赤ん坊も100年後には死んでいる」
「...ねえ、愛してるとか言ったら?」
「わからない。好きなだけでいいじゃないか。おたがいに相手のことを好きだから会う。セックスもする。好きな相手とするセックスは気持ちがいい。だろ?」
「そうね」

ミツコの涙がジノの腕を濡らす。

「なんの涙?」とジノ。
「わからない」とミツコ。

Life goes on. それでも、人生はつづく。


Life Goes On - 2PAC
 
by enzo_morinari | 2018-08-12 11:36 | STREET4LIFE | Trackback | Comments(0)

STREET4LIFE#1 One Way, One Bike, One Life.

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路上にはいくつもの物語が転がっている。ひろうのは自由だが、いくぶんかの危険がともなう。


これはあるバイシクル・メッセンジャーの人生最後の1週間の話だ。彼は秋の東京、夕闇の路上で死ぬ。

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ランディ・クロフォードの歌声を聴くたび、あるバイシクル・メッセンジャーのことを思いだす。男はいつもiPodで音楽を聴いていた。J.S.バッハの『マタイ受難曲』のときもあれば、2PACの『California Love』のときもあれば、マイルス・デイヴィスの『The Doo Bop Song』のときもあった。とりわけて男が好きだったのがザ・クルセイダーズの『Street Life』だ。

ある夕暮れ、「『Street Life』はおれのテーマ・ソングさ」と男は言った。それから、缶ビールをひと息で飲みほし、空缶を握りつぶすとタトゥーを誇らしげに突きだした。男の右腕にはミッドナイト・ブルーの文字でSTREET4LIFEと彫られていた。

男は東京一のメッセンジャーだった。世界一のメッセンジャーと言う者さえいた。実際、男はバイシクル・メッセンジャーの世界大会で二度優勝していた。男を知るだれもが彼を「天才」「怪物」「化け物」「速い男」と呼んだ。

男は25歳の誕生日目前、銀座4丁目交差点、夕闇の晴海通りに消えた。Street Lifeを生きた男はStreetに散ったのだ。生前、男はことあるごとに言ったものだ。

「おれはStreetに生きる。ほかにはなにもできない。One Way, One Bike, One Life だ」

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金曜の夕暮れ。東京港区汐留。電通本社ビル地下3階メール・ルーム。

ジノはメッセンジャーたちの熱気でむせかえる部屋を早足に出て、メッセンジャー・バッグのクロス・ストラップを締めなおしながら汐留から臨海町までの最短ルートを頭の中で2度反芻した。永代橋の「危険な継ぎ目」の位置を思いうかべているとき、仕事にあぶれた何人かのメッセンジャーがジノに声をかけたが、ジノは彼らに視線を向けることすらしない。

「35分。押して、37分」

ジノはつぶやき、荷物のピックアップの際、髪の毛を金色に染めた担当者に念を押されたときのことを思いかえす。

「6時までに必着で」

左手首のG-SHOCKに眼をやる。5時17分。5時20分に出れば、エレベーターの乗り降りにかかる時間を考えてもぎりぎりだが間に合う。

「スーパー・ラッシュになりますがよろしいでしょうか? 通常料金の倍かかります」
「いいよ。かまわない。でも、ほんとに間に合うの?」
「間に合わせます」

ジノは表情をかえずに答える。上腕二頭筋の血管が青く膨らむ。

「すごいな。さすが世界チャンピオンだ。あんたくらいのもんだよ、こんなケツカッチン仕事を引き受けるのは。ほかのメッセンジャーはたいてい尻ごみする」

ジノは懸命に笑顔をつくり、ぎこちなく会釈した。そして、手際よく荷札にドロップオフ先の住所を書きこんで控えを渡し、引き換えに荷物を受けとった。2メートルほどもある筒だ。風の抵抗が強くなることを思い、ジノは気づかれないようにそっと舌打ちをする。

「気をつけて」

うしろから声がしたが、ジノは聴こえないふりをして脇目もふらずにエレベーター・ホールへ急ぐ。エレベーターを乗りつぎ、地上に出ると街は秋の夕闇に包まれはじめていた。1度だけ深呼吸をしてから、ジノは傷だらけの漆黒のカラヴィンカに勢いよく飛び乗った。鉄のフレームがかすかに撓む。ジノ、生涯最高にして最後のラッシュのスタートだった。だが、そのことをジノは知らない。

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月曜の朝。目覚ましがわりにタイマー・セットしておいたCDプレイヤーからザ・クルセイダーズの『Street Life』が流れる。もう何年もおなじ朝の目覚めだ。

「おなじことの繰りかえし。そうやって齢をとり、いつか死ぬ」

ジノは眼を閉じたままつぶやく。

「なあ、そうだろう? 兄弟」

ベッドの上で上半身を起こし、重い目蓋をこじあけ、部屋の壁に貼りつけてあるポスターの2PACに同意を求める。もちろん、返事はない。2PACは鉛の弾をしこたま撃ちこまれ、とっくの昔に死んだからだ。死者は黙して語らぬものと相場は決まっている。ジノはベッドを離れ、オーディオ装置の音量を少し上げ、再びつぶやく。

「これがオレ様のStreet Life. 本日も問題なし。だが、仕事はきらいだ」

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部屋の真ん中で腕組みをし、日曜日のストリート・レースで落車したときにできた右膝の傷に眼をやる。少し肉がえぐれている。鮮紅色の肉、滲んだ血。

「生きてるから赤いんだ。生きてる証拠なんだ。死んでりゃ、血も出やしない」

ジノが落車したとき、銀座4丁目の交差点周辺はちょっとした騒ぎになった。ジノは晴海通りを皇居方面から信号無視で交差点に進入し、右折しようとしたのだ。

タイヤのグリップ力が進入速度に耐えきれず、後輪がロックした直後にジノの体はアスファルトに削られた。見ていた誰もが息をのんだ。ジノの数センチ先を何台かの車がけたたましくクラクションを鳴らしながら走りぬけ、ジノは挽肉にならずにすんだ。「東京選手権10連覇」の夢が消えてなくなっただけだ。

全身に鈍い痛みがある。筋肉繊維の一本一本が軋んでいるのがわかる。ジノは首を数回まわし、窓から差しこむ秋の朝の光に眼を細める。そして、窓の向こう側に広がる東京の街に朝の御挨拶だ。

「きょうもたんまり稼がせてくれ」

曲がクレイグ・デイヴィッドの『7 Days』にかわったところでジノは腕立て伏せを始める。200回。そして、コーヒーをマグカップで2杯飲み、朝めしを喰う。これがジノの朝だ。

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メッセンジャーは生き方そのものだとジノは思う。もちろん、生き方はさまざまだ。区役所の戸籍係としてつつましく生涯をまっとうするやつもいれば、日がな一日、日比谷公園のベンチで鳩どもを相手に世界の共同主観的存在構造について思いをめぐらせるやつもいれば、インターネット・ラジオのDJとして、マイクとディスプレイに向かって朝から晩まで愚にもつかないことをしゃべりつづけるやつもいれば、真夜中の麻布十番商店街を素っ裸で走りぬけることに全存在をかけるやつもいる。ひとそれぞれだ。善し悪しを言う権利は誰にもない。

ジノはバイシクル・メッセンジャーとして東京の街を自転車で縦横無尽に走りまわる生き方を選んだ。1996年、17歳の秋の終わりのことだ。その年の秋の初めにはジノのアイドルだったヒップホップ・アーチストのトゥパック・アマル・シャクール、2PACが4発の銃弾を浴びてこの世からさっさとオサラバしていた。

2PACの死を知ったとき、ジノは理解した。未来は信じるに値しない。世界も信じるに値しない。信じるに値するのは自分の精神と肉体と物心ついたときから常にかたわらにあった自転車だけだと。そう気づいた翌朝、ジノは通っていた高校に退学届を出し、その足でソクハイに面接に行った。

バイシクル・メッセンジャーとして走りはじめた月からジノは桁外れの売り上げを記録した。すぐに、東京のメッセンジャーでジノを知らぬ者はいなくなった。だれもが敬意と憧れと諦めをこめて、ジノを「天才」「怪物」「化け物」「速い男」と呼んだ。

赤坂のサントリー本社から汐留の電通まで4分弱。ジノは外堀通りのセンターライン上をひたすら走り、ときに前を走るタクシーの後部にぎりぎりまで迫って風よけに使い、17ヶ所ある交差点の信号をすべて無視した。そのようにして、いまも「ジノ伝説」のひとつとして残る記録をつくった。

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バイシクル・メッセンジャーは東京の中心部を自転車で一日に100kmほど走りまわり、ビジネス文書やら印刷原稿やら商品見本やら証券類やらをデリバリーする仕事だ。拳銃や違法薬物などの御禁制品とおぼしきものを運ぶこともある。生後間もないナポリタン・マスチフや魚沼産コシヒカリ20kg、ひとかかえほどもある真っ赤なバラの花束を運ぶことすらある。ごくまれにだが、「わたしをカレの元へ運んで」という依頼もある。依頼主はニューハーフだ。新宿2丁目界隈からの依頼は注意が必要である。闇金融屋でピックアップしたレンガ2個、つまりは2000万円の現ナマをネコババし、トンズラを決めこんだ剛の者がいたが、これは例外中の例外である。ことほどさように、なんでも運ぶ運び屋がメッセンジャーだ。

荷物をピックアップし、走り、ドロップオフし、さらに走り、さらにピックアップし、さらにドロップオフする。この繰りかえしだ。単純極まりないが、いままで見えなかったことが見えてくることもあるし、見えていたと思っていたことが実はまったくの見当ちがいだったと気づくこともある。なにごともやってみて初めてわかるということだ。

下げたくもない頭を下げ、言いたくもないお愛想を口にしなければならない場面はもちろんある。だが、それらのうっとうしいことどもは行く手をふさぐタクシーやら大型トラックやら路線バスやらの隙間を白刃の切っ先をかわすがごとくにすり抜ければすぐにも失せてなくなるていどのことだ。どうということはない。

あるいは朝の青山通りを、あるいは昼時の丸の内を、あるいは夕暮れの西新宿の高層ビル群の間隙を疾走しながら、ジノはたったひとつのことを考えていた。

「ゴールなんかない。ゴールなんかあるはずがない。走り、走りつづけ、走りぬけ、そして死ぬ」

ジノよ。おれは去年、自転車を下りた。ときどき、『Street Life』を聴いておまえのことを思いだす。思いだすが泣きはしない。悲しくもならない。いっしょに夕暮れの晴海通りを疾走し、お台場の夕焼け広場の芝生の斜面に2人ならんで寝転んでよく冷えた6本パックのレーベンブロイを飲みほし、空缶を握りつぶしてメッセンジャー・バッグに放りこんで、時さえ忘れて夕焼けを眺めたいとは思うが、すべては夢のまた夢、路上に消えた。


ジノよ。TOKYO STREETはきょうもお祭り騒ぎだ。


Street Life - The Crusaders feat. Randy Crawford

 
by enzo_morinari | 2018-08-11 09:11 | STREET4LIFE | Trackback | Comments(0)

アメージング・ストリートはアメージング・ストーリー誕生の場へ

 
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 ストリートは驚異と驚嘆にあふれている。


 YouTubeで「Street」をキーワードに検索するとヒットは1億を超える。ゲーム、映画、音楽、そして、パフォーマンス。ヒットするジャンルは種々雑多だ。
 キーワードを「Street drumer」に。44万件。「Street guitar」は112万件。玉石混淆。ピンからキリまで。中にはスカウトされてすでに大成功をおさめた者もいる。
 既存、守旧派のお仕着せや愚にもつかない戦略/マーケティングによるものには到底表現しえない「リアル」が彼らのパフォーマンスにはある。生きている。輝きがある。浮き立つ。
 ストリートへ。事件は現場とストリートとネットで起きている。さらにはネットワークという無限大にも等しいアメージング・ストリートへ。アメージング・ストーリー誕生の瞬間をリアルタイムで目撃せよ。

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Amazing Street Guitarist (Marcello Calabrese) Plays "Stairway to Heaven"
Amazing Street Drummer
 
by enzo_morinari | 2013-08-28 08:29 | STREET4LIFE | Trackback | Comments(0)