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カテゴリ:鬼首節考( 1 )

鬼首節考 Étude à propos des chansons de Onikobe/鬼の哭く夜はおそろしい。

 
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鬼の哭く夜はおそろしい。

オンギャクギャクエンノウバソクアランキャソワカ


午前2時。寝床で深沢七郎の『楢山節考』を読んで心がざらつき、おりんの影が視界の隅を何度も横切った。みずからの意思で死地に赴くために餓死しようとする者の奇妙な強靭さと異和に眠りを奪われた。

あらぬ方角からただならぬ気配に呼ばれた。身支度を整えて闇の支配する外に出た。裏山の鬼首神社のあたりがほの明るく光っていた。

ファミマを目指して300メートルほどのだらだら坂をのぼる。ファミマまでに街灯はひとつだけだ。人はいない。車の往来も絶えている。そして、鬼がこちらに近づいてきた。

武田泰淳によく似た鬼は街灯の3分の2ほどの大きさで、通せんぼをするように両腕を斜め上にひろげていた。鬼は右のツノが根元から折れ、じくじくとどす黒い汁があふれていた。爛々と光る鬼の大きな目からは青い涙が流れ落ちた。

鬼が哭いている。ふり払ってもふり払っても爪を焼いたような異臭がまとわりついてきた。思いもよらない方向から鬼太鼓座の鬼太鼓の音が低く聴こえはじめた。

武田泰淳鬼は「オンデコ オンデコ ゴキジョ ゴキツグ ゴキジョウ ゴキクマ ゴキドウ オンデコ」と憤怒と憎悪と悲痛に満ちた音声でつぶやきつづけた。呪言あるいは呪禁。いや。鬼言。オンギャクギャクエンノウバソクアランキャソワカ。


鬼太鼓座
 
by enzo_morinari | 2019-08-02 06:14 | 鬼首節考 | Trackback | Comments(0)