「本当の幸せ教えてよ」と壊れかけのラジオは歌っていた。なにも聴こえない。なにも聴かせてくれない。
僕の体が昔より大人になったからなのか。
ラジオは知っていた。僕の心をノックした。
恋に破れそうな胸。やさしい風が手をふった。
遠ざかる故郷の空。帰れない人波に。
本当の幸せ教えてよ。壊れかけのRadio HideToku
周波数通りのラジオアクティビティ館20110311-0314の前にはいつもTelefunkenの大きな真空管ラジオを抱えた若者がいた。
あちこち破れたLevi's 501、ピュア・ブラックのCONVERSEのローカット、Hanes製のRadio Boyの黒いTシャツ。いつもおなじ格好だった。汚れていたが目だけはWestern Electric KT-88 Vintageのように輝いていた。
「いつも腹をすかしてる。親も兄弟も津波に殺された。友だちだっていない。ホームタウンはラジオアクティビティに汚染されて、いまはゴーストタウンだ。おまけに、ラジオは壊れかけてる。だけど、おれは自分だけの力でこどもからおとなになるんだ。そして、世界を殺す」とその若者、ラジオ少年、散種少年、放射能少年は思った。
壊れかけのラジオが灯った。
「本当の幸せ教えてよ」と壊れかけのラジオは歌っていた。
10年後。ラジオ少年、散種少年、放射能少年はすぐれたエンジニアになり、やがて
恐怖の王、Radioactivity Assassin, Le terroriste de la dissémination, Nuclear Terroristになるが、そのことはまだだれも知らない。
德永英明 - 壊れかけのRadio (JUSTICE/1990)