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早く家に帰りたい。/失われ、損なわれたHome Townを幻視する。

 
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帰りたい街が見えた。正確には、帰れない街が見えた。T-N

ひとには帰りたい場所、帰れない場所、帰るべき場所のみっつがある。Enzo-Molinari

ゴールデン・レトリーバーのゴールディー・ホーンは嗅覚を全開にして飼い主のにおいの痕跡を探す。かすかにだがある。これをたどってゆけば帰れる。気持ちは悄気かけ、尻尾は垂れているけれども、だいじょうぶ。きっと、会える。声を聴くことができる。撫でてもらえる。早く家に帰りたい。Diogenez Dogz


手持ち時間終了のCountdownが始まったことを知った朝。失われ、損なわれたHome Townを幻視(Google Earth)した。

長いあいだ暮らした貧民窟の貧乏長屋
京浜急行が走る土手
京浜急行が走る土手に群生する土筆
船上生活者
ボート・ピープル
だるま船
ポンポン船
運河
ドブ川
銭湯
材木店
捺染工場
石置き場
横浜市営プール
市営プールの近くの駄菓子屋
小学校の校門前の文房具屋
商店街
ラーメン屋
乾物屋
肉屋
酒屋
公設市場
総菜屋
豆腐屋
魚屋
八百屋
本屋
貸本屋
質屋
煙草屋
トリス・バー
床屋
和菓子屋
寿司屋
蕎麦屋
靴屋
デリカテッセン
居酒屋
喫茶店
三業地の跡地
黒塀と見越しの松
連れこみ旅館
炭屋
たい焼きとかき氷の店
国鉄の寮
電電公社の社宅
石川島播磨重工の社員寮
日石の社員寮
丸井の独身寮
国道16号線から憧れと羨望で見上げていた高台にあった古いホテル


すべて、なにもかもが跡形もなく失われていた。あとにはマンションとチェーン店の居酒屋とStarbucksとBook OffとAEONとSEIYUとセブン-イレブンとファミマとローソンとインテリジェント・ビルと高層マンション群が建っていた。多くの死者をのみこんだ京浜急行の踏切はすべて高架橋に変わっていた。

幻視してわかったのは、私のHome Townは息も絶え絶えどころか、すでに死んでいるということだ。いくら全国展開する大規模店舗があっても、世界展開するコーヒー・ショップができても、生産と消費と廃棄の無限のトリロジーをビジネス・モデルにしたリサイクル・ショップができても、インテリジェント・ビルやハイソな高層マンションが建っても、ファイナンス/税収が10倍になっても、地価が上がっても、住民数が増えても、その場所はすでに私のHome Townではない。

離れ、背を向けて40年。いつかは向かいあわなければと思いつつ40年。Home Townは帰りたい街/帰れない街/帰るべき街でありつづけた。そろそろ、和解し、和睦する頃合いだ。首吊りの脚を引っ張り、知らんぷりするのは下衆外道のやることである。

実際にHome Townに足を運んで別れを告げよう。いいときもわるいときもつらいときもかなしいときもさびしいときもたのしいときもともにあったHome Townに。幻視(Google Earth)ではすくいきれない陰と影と翳をすくいあげ、回収しよう。そして、静かに埋葬するのだ。やさしく口づけ、頬ずりして。片道1時間足らずの旅だ。急ぐ旅でも、500 milesの旅でも、死出の旅でもない。


着替えのシャツはある。電車賃だってある。腹がへったらコンビニでヤマザキの薄皮つぶあんぱん(5個入り)を買って喰う。死ぬには手頃な日はたぶんまだ先だ。


Simon & Garfunkel - Homeward Bound (Parsley, Sage, Rosemary and Thyme/1966)
Peter, Paul & Mary - 500 miles (1962)
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by enzo_morinari | 2020-12-26 23:15 | 早く家に帰りたい。 | Trackback | Comments(0)
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