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呪師/2B or Not 2B ── 鉛筆舞踏 姿の見えぬ物の怪が使う妖かしの術のたぐいについて

 
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かつて、「ガミ術」と「コンレイ術」というふたつの妖術のたぐいを使う物の怪に3年ほど苛まれつづけた。その物の怪は夜中の2時頃になると現れた。もっとも、「現れる」と言っても姿形が実際に見えるわけではない。視覚的には在らぬが確かにすぐそばに在る。そういうことである。あのような存在態様もまたこの宇宙にはあるということだろう。

エネルギー体だの精神的存在だのというスピリチュアル系の人々がよく言う存在とは異なる。あきらかに異なる。その物の怪に聖性などは微塵もないし、かと言って取り立てて邪悪、禍々しいというのでもない。どちらかと言えば皮肉屋の剽軽者という印象だ。小鬼、天邪鬼といった「小者」である。

ときどき、邪気のないいたずらを仕掛けてきた。揶揄うこともあった。随分と皮肉も言われた。いずれもいたずら小僧のレベルだった。だが、連日つづくうちに、こちらはほとほと疲れ果てていく。それが3年もつづいた。

物の怪が現れる前兆は机の上の筆記具(2Bの鉛筆であることが多かった。)がぴょこんと立ち上がることだった。立ち上がったあと、鉛筆乃至はボールペンもしくはシャープペンシルはしばらくスローモーションのように揺れていた。物の怪が鉛筆などに憑依したか、それともなければ、鉛筆どもを操っているというようなことと解される。

揺れる鉛筆の様子は南国の舞踏のようにもみえた。と、おなじく机上の大学ノートが申し合わせてでもいたかのようにゆっくりと開かれる。鉛筆はつつっと大学ノートに近づき、ページの上へとジャンプする。大学ノートは鉛筆の到来を待ちかねてでもいたように嬉々としてページの四隅をぱたぱたさせた。そして、筆記が始まる。まさに自動書記が。

自動書記の内容は同級生が小学校時代にだれそれとダブルデートをどこそこでしたとか、だれそれが激しい腹痛を起こして救急車で搬送されるとか、だれそれが夏休み前に転校するとかいった他愛のないもの。次の試験の問題と解答。給食の白身魚のフライにかけられたタルタル・ソースが原因で食中毒が起こるといった予知予言めいたもの。

鉛筆舞踏による記述は時間的に過去へと遡る内容もあれば、未来に起こることの「予知」「予言」に類するものもあった。ちがう小学校出身であるダブルデートの当人に「いつどこそこでダブルデートをしただろう?」と言うと、当人たちは腰を抜かすほど驚いていた。また、転校するという記述のあった同級生にそのことを問うと、「転校のことはまだ家族しか知らないのになぜおまえが知っているんだ?」と訝しがられた。ある者が意中の相手にどこそこの公衆電話から告白の電話をしたという記述も、本人に確認したところ、やはりそのとおりだった。試験の問題と解答も全問全解答ではないが記述のとおりだった。救急車による救急搬送も食中毒の件も。

実を言えば私が日々書きつらねているテクストのあらかたは、この「コンレイ術」を用いて出来あがっている。そう。私はいまや物の怪から伝授された妖術、「ガミ術」と「コンレイ術」の使い手になったのだ。コンレイ術が始まる気配なので、「ガミ術」については機会を改める。

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by enzo_morinari | 2020-12-03 22:20 | 呪師 | Trackback | Comments(0)
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