人気ブログランキング |

流儀と遊戯の王国 またひとりぼっちになったツイードのジャケット

 
流儀と遊戯の王国 またひとりぼっちになったツイードのジャケット_c0109850_353537.jpg


3月。僕はまたひとりぼっちになってしまった。あたりまえのことみたいに。ずっと昔からそうだったみたいに。世界が「あたりまえ」のことで出来あがっているのは200年前から知ってはいたけど、ひとりぼっちは何度経験しても心にずしんとくる。痛む。

たいしたことを望んでいるわけではないんだけどな。ただそばにいて欲しいだけなんだけどな。

僕は決して多くを望んでいたわけじゃない。たまに二人で食事をして、見つめ合って、ワインを何杯か飲んで、音楽を聴き、きみを抱きしめ、包みこんで、きみの日々の出来事や読んだ本のことや聴いた音楽のことや感じたことや考えたことの話を聴ければよかったんだ。それだけのことだったんだけどな。きみはまた僕を扉の向こう側、暗くてじめじめしてカビ臭い場所に追いやるんだ。あたりまえのように。それがごく自然なことでもあるかのようにね。

流儀と遊戯の王国 またひとりぼっちになったツイードのジャケット_c0109850_356374.jpg

ねえ、おしゃれ好きのきみ。最近、少し痩せたんじゃないかい? 僕にはよくわかる。だれよりもね。神様より僕はきみのことを知っているかもしれないとさえ思う。なにしろ、きみの曾おじいさんの代からのつきあいなんだからね。曾おじいさんから数えればきみは僕の4人目の御主人様だ。4人ともよく体つきが似ているよ。実によく似てる。

肉付きがよくて骨太で、右腕が左腕より少し短いところもそっくりだ。左肩が下がり気味なのもね。そして、4人ともよくお酒を飲み、人見知りが激しくて、ひとりになるのが好きなんだ。ひとりになるのが好きなところが僕と相性がよかったのかもね。だから長続きしたんだ。たぶんね。でもね。ひとりぼっちはやっぱりさびしいもんだ。そんなことは当然知っているだろうけどね。

流儀と遊戯の王国 またひとりぼっちになったツイードのジャケット_c0109850_3595053.jpg

次に会えるのはいつだろうな。秋風が冷たくなって、枯葉が舞いはじめるころかな。冬将軍様のおでましが早ければきみにまた会える日も早くなるんだけど。先のことはだれにもわからない。それもあたりまえのことだ。僕がまたひとりぼっちになることとおなじくらいに。

ああ、クローゼットの扉が閉まりはじめた。たまには太陽の光にあてて欲しいな。30分だけでもいいから。30分がだめなら5分だけでもいい。きみのそばにいられるなら。きみの顔がみられるなら。風にも吹かれたい。たまにね。

オーケイ。いいよ。またきみが袖を通してくれるまでは、雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌおとなしくて元気で丈夫で虫にも喰われずにいい子にしているよ。

さよなら。またね。また僕はひとりぼっちだ。これまでどおりに。ずっとそうだったように。そして、またいつものように、よき隣人であり、気の置けない友人であり、ときにきみをめぐって争うライバルでもあるブルックス兄弟やハリスやジョナサンやゴーゴリのアカーキイ色の外套爺さんときみのことを話して秋の終りまでの長い時間をやりすごすことにするよ。

それにしても代わり映えのしない人生だなあ。ブルックス兄弟もハリスもジョナサンもゴーゴリのアカーキイ色の外套爺さんもおなじ意見だ。

Alone Again(Naturally) - Gilbert O'Sullivan (1971)

流儀と遊戯の王国 またひとりぼっちになったツイードのジャケット_c0109850_3545852.jpg

 
by enzo_morinari | 2019-12-09 21:25 | 流儀と遊戯の王国 | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : https://enzogarden.exblog.jp/tb/30622693
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
<< SALINGER WALL/サ... ハートのかたち/また別のハート... >>