記憶と名前と貌と川の話だ。記憶と名前と貌を取りもどし、再び川で遊ぶ。「遠い夏のあの日の川はどこへいったのか?」と問うている。いくら問うても答えは出ない。なぜなら、遠い夏のあの日の川はそもそも存在しないからだ。しかし、存在しない川で私はたしかに遊び、戯れ、眠った。鮠がすばしこく動き、山女魚は胸ビレを宝石のように輝かせ、鬼魚は水面高く跳ね、螢が舞っていた。
1973年7月26日木曜日。15歳。中学3年生だった。遠い夏の日の朝。
幻川にいた。幻川は今はない。そもそも、幻川は存在していない。当然に名前はない。幻川は幻視の川なのだ。
あの夏へ (いのちの名前) - One Summer's Days 久石譲 (千と千尋の神隠し/2001)