左の中指に嵌めると酒鬼薔薇聖斗のように透明になれる指輪をゲス野郎の船乗り羊飼いのギュゲスにくれてやってからというものろくなことがない。おかげでロードス島まで退屈な船旅をするハメになった。女っ気なし。酒もなし。あるのは海と空と風と形而上学だけ。
ケツの座りの悪い椅子。まずいメシ。船酔い。朝めし前と晩めし後の倫理学とプラトニズムの講義。いっそのこと船が難破するか沈没してしまえばいいとさえ思う。
イデアともロゴスとも縁のない人生を生きてきた者にあるのはパトスとエロスだけだ。おまけに文無し宿無し。プラトーン先生には申し訳ないが、この航海がミル・プラトーの船の最後の航海になる。
いつかはイデアでもクオリアでもミームでもなくロゴスに近いものを手に入れたいと思って生きてきたが、それもかなわぬ夢と消える。
Mille Plateaux (1993-2006)