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ペンフレンドは死刑囚/一家7人を惨殺した平行植物界の一隅にあるアノニマス・ガーデンの架空穴に棲むアリジゴク

 
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1980年から1981年にかけて。法学の徒として刑罰、特に死刑について学んでいた頃、ある死刑囚と文通した。手紙のやりとりは1年5ヶ月におよんだ。その死刑囚Fは不動産にからんだ揉め事から相手方を含めて一家7人を皆殺しにした。責任能力の有無を見きわめるため、精神科医や心理学者等の複数の専門家による綿密な精神鑑定が長期間にわたって行われたが、結果は「責任能力あり」だった。

最初のFの手紙は、私は現在、平行植物界の一隅にあるアノニマス・ガーデンに棲んでいますという書き出しで始まっていた。つづけて、私はアノニマス・ガーデンの架空穴に棲むアリジゴクですと。

Fの手紙の文章は明晰そのものだった。博識、博学。しかも、名文。そして、おどろくほどの達筆。手紙には毎回、Fの心象風景とおぼしきシュールな絵が添えられていた。絵には必ず風変わりで奇妙な植物が描かれていた。

「すべての植物の始祖」という但書きのついたモーゲントセニー・ウミヘラモに似た海藻の絵にはじまって、迷路状の葉脈を持つ「アリジゴク(Lablnhtiana Labirintia)」、瘤の幾何学紋様が幻視をもたらす「魔女の杖」、美しいシンメトリーを持つ「森の角砂糖バサミ」、全身にまだら模様のある「マダラトッキ」、月あかりの下でだけ姿を現す「ツキノヒカリバナ」、遠近法を拒絶する「フシギネ」、ネオテニー(幼形成熟)を目指す「ドリーム・バンブー(夢想竹)」、強い母性を持つ「Qカンブラ」等々…。

私はFにレオ・レオーニのイタリア語の原書の『La Botanica Parallela』と日本語訳の工作社版『平行植物』を送った。Fの返事は予想外の内容だった。

「平行植物」は架空の存在ではありません。「平行植物」は群れをなして確かに存在します。世界には「平行植物」が群生しています。世界は「平行植物」が支配していると言っても過言ではありません。「平行植物」は時空のあわいに棲み、私たちの知覚を退ける植物群です。「平行植物」は物理法則を無視した超現実性を備えているのです。まわりをよく見まわし、観察してみてください。多くの平行化現象に気づいて愕然とすることでしょう。平行植物たちは日々時々刻々と世界の平行化に邁進しているのです。(中略) 生憎、著者のレオ・レオーニのことは知りませんでしたし、『La Botanica Parallela』も初めて読みましたが、ペテン師が書いた偽書のたぐいでしょう。

Fとの文通は突然終わった。Fの死刑が執行されたからだ。Fが死に、Fとの文通は終わったが、いまもFは生きている。生きて、ライオンのように巨大で獰猛な口をあけて愚かな蟻どもが堕ちてくるのを待っている。平行植物界の一隅にあるアノニマス・ガーデンの架空穴で。そして、40年を経てFからの手紙が届いた。40年ぶりのFの手紙は次のように始まっていた。

平行植物界の一隅にあるアノニマス・ガーデンの架空穴と時空のあわいに棲むアリジゴクは何度でもよみがえります。
 
by enzo_morinari | 2019-10-19 21:25 | ペンフレンドは死刑囚 | Trackback | Comments(0)
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