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哲の馬とともに海を見ていた狼たちの午後

 
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朝、起きてすぐに横浜・根岸森林公園の芝生の斜面に寝ころんで夏に別れを告げようと思いつく。哲の馬を手早く整備し、空気圧を確かめ、注油する。異常なし。わが思想的完全体に微塵も隙はない。通常、完全さはなにかしらの危うさを孕んでいるものだが、わが哲の馬42号、Philosocycle No.42, CINELLI SPECIAL CORSA は危うさとは無縁である。

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夏の名残りと秋のかすかな気配をまとう街へ繰りだす。そして、一路、横浜を目指す。ケイデンス85/分。頭の中でケッヘル番号216、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第三番の第一楽章が軽やかに鳴る。いい兆候だ。

疾走する精神。かなしみなどひとかけらさえもない。真に疾走する精神にはかなしみなど無用だ。かなしみなどというものは脆弱さの異名であり、他者に依存する者どものたわ言にすぎない。

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根岸森林公園までは40kmほどある。日本橋、銀座を経由し、第一京浜をゆけばあとはひたすらペダルを漕ぐだけだ。南の方角から吹いてくる風が頬を撫でるとペダリングはいっそう軽やかに強靭になる。

品川、大井、蒲田をすぎ、多摩川を越える。予想していたより車の数は少なくて、「白刃の切っ先すり抜け走法」抜きで横浜入城。

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路面状況がすこぶるよい「みなとみらいエリア」を駆け抜け、山下公園で小休止。カモメどもに餌をあたえているひとを眺めているうちに気分はみるみるほどけてくる。

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山手のエスタブリッシュメントな住宅街を抜け、根岸森林公園に着いたときは風はおさまっていた。根岸競馬場時代の観覧席跡をのぞむ芝生の斜面に寝ころぶ。

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夏に別れを告げたのち、近くにある『ドルフィン』で昼餐。食後、戯れにソーダ水を注文した。甘ったるいだけのソーダ水を飲みながら10ccほどの感傷にひたろうと思ったのだが、感傷にひたるには陽射しがまぶしすぎた。

だれのことも思いだしはしなかった。三浦岬は見えなかったし、ソーダ水の中を貨物船が通ったりもしなかった。小さな泡が音もなく弾けたほかは。腹いせに、「ユーミンのうそつき!」とトイレの壁に落書きしてやった。わが「ドルフィン落書き」2度目の「ユーミンのうそつき!」だった。狼たちの思想的飢餓と対峙するまで、42分。

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海を見ていた午後
あなたを思い出す この店に来るたび
坂を上ってきょうもひとり来てしまった

山手のドルフィンは静かなレストラン
晴れた午後には遠く三浦岬も見える

ソーダ水の中を貨物船がとおる
小さな泡も恋のように消えていった

あのとき目の前で思いきり泣けたら
今頃二人 ここで海を見ていたはず

窓にほほをよせてカモメを追いかける
そんなあなたが今も見える テーブルごしに

紙ナプキンにはインクがにじむから
忘れないでってやっと書いた遠いあの日

 
by enzo_morinari | 2019-08-25 01:08 | 哲の馬 Philosocycle | Trackback | Comments(0)
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