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トマス・アラン・ウェイツは来ない。/難破寸前の酔いどれ船から東京グレープフルーツ・ムーンを見上げる。

 
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傷だらけだが、月のせいではない。T-A-W

月魄は世界の圧倒的な虚しさと美しさを照らし、硬直した権威を罰する。奇蹟を観ようとする者

トマス・アラン・ウェイツは酔いどれ船でグレープフルーツのような酔いどれの月に行ったきり、帰ってこない。Grapefruit Moon Seeker

グレープフルーツ・ムーンの男はYellow Cabの後部座席で生まれた。産声は「Times Squareに繰りだすぞ!」だ。Grapefruit Moon Seeker

いつかの遠い冬の日の夜にも豊饒馥郁たるグレープフルーツ・ムーンを見上げろ。そして、ウィスキーを飲み、酔いどれろ。世界のどこにいてもだ。Grapefruit Moon Seeker

心もからだも冷える寒い夜にはトマス・アラン・ウェイツの『Closing Time』と『Small Change』と『The Heart of Saturday Night』を繰り返し聴く。そして、強い酒を飲む。Grapefruit Moon Seeker

くたばる前にトマス・アラン・ウェイツと一緒にJockey Full of Bourbonを飲みたいが、Jockey Full of Bourbonはないし、いくら呼んでもトマス・アラン・ウェイツは来ない。Grapefruit Moon Seeker

トマス・アラン・ウェイツに会いたい。死ぬ前にひと目でいいからトマス・アラン・ウェイツに会いたい。会って、San Diego Serenadeを弾き語りながら、最後に、その嗄れた声で「おまえは死ぬんだ。なにもかもとオサラバするんだ。しょうがない。そんな運命だ」と言ってほしい。そして、月で酔いどれる男として死ぬ。Grapefruit Moon Seeker

トマス・アラン・ウェイツの『Closing Time』はクリフォード・ブラウンの『Max Roach and Clifford Brown in Concert』、ジョン・コルトレーンの『至上の愛』、ソニー・ロリンズの『Saxophone Colossus』、キャノンボール・アダレイの『Somethin' Else』、マイルス・デイヴィスの『Kind of Blue』、ビル・エヴァンスの『Waltz for Debby』、キース・ジャレットの『My Song』、グレン・グールドの『J.S. Bach/ゴルトベルク変奏曲(1955)』、マットンヤー・ユミーンの『Surf&Snow』『Olive』『ひこうき雲』『MISSLIM』『COBALT HOUR』『14番目の月』とともに無人島に持っていくレコードだ。Grapefruit Moon Seeker


疲れ果てていた。虹子はもっと疲れ果てていた。紅の豚が背中を押してくれても、マダム・ジーナが”Le Temps des cerises”を歌ってくれても心は晴れなかった。

難破寸前の酔いどれ船が息の根を止めるかと思われたとき、豊饒馥郁として幽玄な東京グレープフルーツ・ムーンが上がった。東京グレープフルーツ・ムーンは煌々と輝いた。

私と虹子は時さえ忘れて豊饒馥郁たる東京グレープフルーツ・ムーンを見上げつづけた。そのように月を見上げるのは御浜岬の鈎状砂嘴に別れを告げたときに西伊豆の海を照らしていた茫漠荒涼とした月を見上げて以来だった。

見上げる東京グレープフルーツ・ムーンは私と虹子の乗る酔いどれ船を曳航しているようだったが、曳航はときとしてにがいものであることを知るのはまだ先だ。


Grapefruit Moon/Thomas Alan Waits (1973)
Drunk on the Moon/Thomas Alan Waits (1974)
 
by enzo_morinari | 2019-08-24 04:55 | トマス・アラン・ウェイツは来ない。 | Trackback | Comments(0)
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