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「きれいごとですむなら、だれも死にはしない。狼は生き、豚は死ぬ。それが街の掟だ」とGRIP GLITZは言い、容赦なく引き金を引いた。物言わぬふたつの肉の塊が保税倉庫No.42の前に転がった。

 
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手負いの獣にとってやさしさは危険を招く罠になる。Minato No Yo-Co Aggy

愛しい人よ。もう一度振り向き、もう一度この胸で泣きなよ。Minato No Yo-Co Aggy


「この街ではね、あなたのような手負いの獣にとっては、ときどき、やさしさが危険を招く罠になるのよ」

そう言ってから、女は細くしなやかな指で私の背中に貼りついた悲しみのたぐいをそっと引き剥がした。ざらついた悲しみをやさしく抱きしめ、幾粒かのダイヤモンドの涙を流した。女の背中ごしにみえる街が夕陽の中で燃えていた。この街は明日がみえないから、せめて、夜がくるまでは女の涙を信じようと思った。

私も女を抱きしめようとしたが、女はすでに姿を消していた。すると、本牧埠頭のD突堤のあたりから「狼は生きろ。豚は死ね」という低く唸るような声が聴こえてきた。夏八木勲の声によく似ていた。

狼は生きろ。豚は死ね。遠い昔、地図と羅針盤を失った19歳の冬の山下埠頭の岸壁で聴こえた声とおなじだった。声は心なしか年老いたように思えた。私自身も十分すぎるほど年老いていた。


欲望の街 (白昼の死角/1978)
 
by enzo_morinari | 2019-02-02 19:17 | GRIP GLITZ | Trackback | Comments(0)
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