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アダージョ・ソステヌートの殺人者 ── 周到な準備が勝利を招く。

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殺しの前にはセルゲイ・ラフマニノフの『交響曲第2番第3楽章 アダージョ』とグスタフ・マーラの『交響曲第5番第4楽章 アダージェット』とジョン・コルトレーンの『Ascension』を聴く。このみっつを目を閉じて繰り返し繰り返し聴く。小さな音で。消えいるように小さな音で。なにも考えない。考える必要もない。不安も恐れもない。40年間変わらない。変えない。変える必要もない。

仕事が終わったらナタリー・ドゥセが歌うラフマニノフの『ヴォカリーズ』を聴く。あとにはなにも残らない。残さない。後腐れなし。そんなふうにして、私は人生の日々の景色をよくする。

Amat Victoria Curam. 周到な準備が勝利を招く。

殺しの前奏曲を繰り返し聴いているうちに血がたぎりはじめる。沸騰する。すぐにクール・ダウンする。冷血と熱血。熱情と冷静と残虐と冷酷と。それを何度か繰り返す。あとはマークのところに赴き、背後にまわりこんでFN Browning Model 1910の引き金を引くかBenchmade Vallation 407をごく小さく一閃し、動かすだけだ。移動距離8.42cm. マークの顔は見ない。数秒後に死ぬやつの顔など見たくもない。運に見放されて死神に見入られ、命運つきた者のシケた顔など。仕事は朝めしの前にすます。朝めしをうまくするためだ。

マークに対してはひとかけらの感情も抱かない。憎くもなければ怒りもない。恨みもない。農夫が収穫で刈りとりを行うのとおなじだ。農夫が刈りとる作物にいちいち心を動かしていては収穫の月は上がらない。貧者のスープにすらありつけない。良妻のスープは夢のまた夢になってしまう。

マークに憐憫の情などいっさい持たない。湧かない。仕事の依頼があり、マークを除去する。周辺の人口密度がいくぶんか下がり、二酸化炭素濃度がわずかに下がる。それだけのことだ。

アダージョ・ソステヌートの死。息は乱れない。常に平均律を保っている。Time Keep. Tempo Animato. Keep The Rhytm. I Got Rhythm.

マークの除去が完了したら秘匿性機密性の高いTelegramを使って掃除屋に完了の合図の数字42を送信する。掃除屋は実にいい仕事をする。Incredible Perfect Job. 死神の信じがたいほど完璧な仕事。

人生に必要なのはリズムとバランスとエアロダイナミクスと確認だ。これにいい旋律が加われば言うことなし。だが、ことはそうそううまくはいかない。変奏がある。どこのだれとも知らぬ馬の骨のせいで。チャーリー・パーカーが死んだのだって、元をただせばディジー・ガレスピーの変奏と変節に巻き込まれたからだ。No Confirmation, No Life.

テラス席でボルヴィックを2本飲み、朝めしを食い、少しだけ考えごとをし、晩めしの計画を立てる。昼めしは食わない。それが40年間変わらぬスタイル/Modus Operandi. そして、午睡のための寝ぐらに帰る。

ナタリー・ドゥセが歌うラフマニノフの『ヴォカリーズ 嬰ハ短調』と小沢征爾指揮 ボストン交響楽団でクリスチャン・ジメルマンがピアノを弾くラフマニノフの『ピアノ協奏曲第2番第2楽章 ホ長調 アダージョ・ソステヌート』を4回ずつ聴き、ベッドにもぐりこむ。眠っているあいだも曲はリピートで流れつづける。夢はみない。生まれてから1度も夢をみたことはない。

私によってアダージョ・ソステヌートの死がもたらされる者たちはいまの時間が永遠につづくように思って安心しきっているだろう。しかし、彼らの残された時間にヴィバーチェはない。逃げ場のない死のダ・カーポが始まっていることを彼らは知るよしもない。


Sergei Rachmaninov; Symphony No. 2 in E minor Op. 27, 3rd mov. "Adagio" André Previn & London Symphony Orchestra (LSO)
Gustav Mahler; Adagietto (Sehr langsam) from Symphony No. 5 in C Sharp Minor - Mov. 4 - Herbert Von Karajan; Berlin Philharmonic Orchestra
John Coltrane - Ascension
Natalie Dessay; Vocalise(Rachmaninov)
Rachmaninoff Piano Concerto No. 2, Movement 2" Adagio sostenuto"/Krystian Zimerman, Seiji Ozawa, BSO
 
by enzo_morinari | 2018-08-25 07:23 | アダージョ・ソステヌートの殺人者 | Trackback | Comments(0)
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