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軽々しくJAL123便墜落事故について語るな。語りつくせぬことについては沈黙せよ。軽々しく死について語る者は死からもっとも遠い者である。

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悲劇にあって人を救うのはうわべの優しさではない。悲劇の本質にみあう、深みを持つ言葉だけだ。Hen Me-Yoh


経験の「け」の字も知らぬそのポンコツボンクラヘッポコスカタン木偶の坊は飽きることなく大雑把で空疎空虚な抽象/絵空事で語り、きれいごといい人ぶり善人ぶりを撒きちらし、つねに悲劇に眼差しを注いでいるポーズをとり、つねに悲劇と向きあう者を偽装する。まことに鼻持ちならない輩である。嘘くさい。いや、嘘そのものだ。

悲しいを100万回ならべても悲しみはわからない。楽しいを100万回ならべても楽しくない。苦しいを100万回ならべても苦しみは伝わらない。そのポンコツボンクラヘッポコスカタン木偶の坊の言説はこのたぐいのものである。死んだ言葉の羅列。不誠実の極み。つまり、まやかし/A( )C/中身空っぽ。

そのポンコツボンクラヘッポコスカタン木偶の坊は案の定、JAL123便墜落事故について地に足の着かぬうわべだけの美辞麗句の大安売り大売り出し叩き売り、魂の抜けた低次低劣低俗な言説、なんらの生活実感もない自立の思想的拠点なき安っぽい能書き御託、リアリティ、誠実/切実のかけらもない寝言たわ言を垂れ流した。そのポンコツボンクラヘッポコスカタン木偶の坊は御巣鷹の尾根の五百二十の御霊、御柱を鎮魂慰霊する碑にただの一度も参することすらせずに訳知り顔したり顔でなにを語ろうというのか? 520の死体の総重量がどれほどになるか考えたことすらなかろう。

夏の盛りの容赦のない炎熱にさらされて、すさまじい腐臭を放つ木っ端みじんになった520人分の死体、総重量30tを超えるリアルな死の重さの前で目を背けず息を止めずにぬかずきつづけることができるか否か。その圧倒的な死の重さに耐えきれずに何人もの医師や自衛隊員や消防士や消防団員や警察官や役所の担当者やマスコミ関係者がみずから命を絶った。この事態をそのポンコツボンクラヘッポコスカタン木偶の坊はなんと受けとめるか。阿鼻叫喚の機内で断腸のおもいで刻みつけるように記して妻に子にあてた痛切の最期の言葉/絶筆のふるえる文字を正視できるか。やはり、悲しいひどい苦しいという抽象/絵空事で片づけるのか?

散華した五百二十柱と遺された者の痛み苦しみ痛切痛恨苦悩困苦困憊をグリップできる者などいない。近親者、家族さえグリップすることが困難至難であるのに、そのポンコツボンクラヘッポコスカタン木偶の坊は散華した五百二十柱とその遺族の痛み苦しみ痛切痛恨苦悩苦悶困苦困憊をひとくくり十把ひとからげにして軽々と語る。悲劇痛み苦しみ痛切痛恨苦悩苦悶困苦困憊をあたかもイベントのたぐいででもあるかのようにとらえるおぞましいほどの軽佻浮薄さ。

広島/長崎に原子爆弾が投下された日にはその殺戮の悲劇悲惨を上っ面皮相表層浅はかに語った。具体的な放射性物質の名も放射性同位体も内部被曝/外部被曝の別も生体濃縮も各放射線障害も知らずにそのポンコツボンクラヘッポコスカタン木偶の坊は核兵器についてなにを語ろうというのか? 大震災、原発事故についてもおなじだった。いわく絆、いわく希望、いわく友愛、いわくがんばろう東北、いわくがんばろう福島というふうに。

3.11/3.14の出来事を大雑把で空疎な抽象/絵空事で語る者は直後からいて、そのような輩どもは絆/復興/希望/友愛/がんばろう東日本/がんばろう福島などという耳心地だけはいい言葉をどこか得意げに、そしていかにも満足げに垂れ流していた。

そのような輩どものリアリティのない一群の言葉はこの国の現在の心性をも象徴していたのであって、それらの使い古され、手あかにまみれ、虚しく空転する言葉はほどなく力を失った。当然のことだ。死者たちも、これから絶望と苦悩のうちに死にゆく者たちも、おまえたちにはなにひとつ期待などしない。いつか、おまえたちに身も凍るような惨事が降りかかることを祈っているのみだ。のたうちまわり、もがき苦しみ、むごたらしい死が訪れることを。

そのポンコツボンクラヘッポコスカタン木偶の坊は8月15日には「戦争の悲劇」について待ってましたとばかりに軽佻浮薄に語るだろう。銃弾も飛んでこず、炸裂した迫撃砲の肉を切り裂き、骨を木っ端みじんにする破片も飛んでこず、ナパームの雨も降らず、下肢を吹き飛ばす地雷もなく、Killing Fieldsの対極にある平穏安穏としたSweet Homeで。坂口安吾は8月15日の突きぬけた青空を見上げて、人間は変わりはしない。ただ人間に戻ってきたのだ。人間は堕落する。義士も聖女も堕落する。生きよ。堕ちよと言いきった。

73年の歳月を経て、1941年12月8日から1945年8月15日に起こったことをリアルに語れる者は鬼籍に入り、資料は散逸隠蔽されて、1941年12月8日から1945年8月15日に起こったことどもに向きあうことすら困難になりつつある。

そのポンコツボンクラヘッポコスカタン木偶の坊はバターン死の行軍もサンダカン死の行進もサンダカンの娼婦の館にまつわる痛恨痛切苦悩苦悶困苦困憊も決して語られることのない沖縄戦の実態もひめゆりの塔のいまだに癒されぬ乙女たちの叫びの隠された真実も知らぬだろう。そのポンコツボンクラヘッポコスカタン木偶の坊の百万言よりロバート・キャパの『斃れる兵士』の1枚の写真のほうがすぐれて悲劇の一端を撃ちぬく。この際、『斃れる兵士』がロバート・キャパによるものか否か斃れる兵士/フェデリコ・ボレル・ガルシアが実際に被弾したか否かは問題ではない。

1985年夏。JAL123便は群馬県御巣鷹山に散華した。1985年8月12日18時12分に羽田を離陸した123便は離陸から12分後の18時24分、圧力隔壁の爆発により垂直尾翼の大半を失い、ハイドロプレッシャー・システムの4系統すべてに致命的な損傷が及んだ。警告音ががなり立て、すさまじいダッチロールに見舞われつづける修羅場で、文字通り、全身全霊を注いで機体をコントロールしようと試みる機長は、絶望の淵に立ちつくしながら管制室に向かって叫んだ。

操縦不能!

操縦不能(Uncontrollable)という最悪の表現がなされたのは、木星号墜落事故以来、2度目のことだった。航空機の運航に際して、操縦不能というのは、即、死を意味するから、123便の機長が管制官にこの言葉を伝えたのは最悪の状況であったことのまぎれもない証である。事実、JAL123便の墜落事故は世界の航空機事故史上、最悪の結果となってしまった。機長は下顎部の一部がみつかっただけだ。歯の治療痕からかろうじて判明した壮絶な生の痕跡。

圧力隔壁の爆発から墜落までの機長、副操縦士、機関士の生々しいやりとりを克明に記録した「ボイス・レコーダ」が15年を経て2000年に陽の目を見た際、私はその最後のやりとりを録画して繰り返し聴いた。震えた。涙が止まらなかった。そして、人間は捨てたものではないという思いを強くした。

123便のコクピットで行われた30数分間の痛切痛恨のリアルなドラマは、ギリシャ悲劇をしのぎ、アポロ13号のアクシデントにおける飛行士たちとNASAの地上スタッフによる壮絶な「生還への死闘」とともに人類史に永遠に記憶されるべきである。それは「人間はどこまで絶望と闘いうるか」という問いにはからずも答えた希有な記録だから。

*私は離婚協議に入っていた当時の妻の強い勧めで123便から次の次の便に変更し、生きながらえている。まことに不思議だ。


死にまつわるくさぐさのことどもを「悲劇」などという言葉で回収しようとするな。死はつねに個々の死である。
なりかわりようのない他者の不幸、不遇、悲運について軽々しく語るな。語りつくせぬことについては沈黙せよ。
浜菊はまだ咲かない。畔唐菜はまだ悼まれていない。死について軽々しく語る者は死からもっとも遠い者である。


あまたの「滅び」を生き残った者もいつか必ず朽ち果てる。だからこそできることはただひとつだ。死者に言葉をあてがい、朽ち果てるそのときまで絶えることなく刻め。


死者にことばをあてがえ 辺見 庸

わたしの死者ひとりびとりの肺に
ことなる それだけの歌をあてがえ
死者の唇ひとつひとつに
他とことなる それだけしかないことばを吸わせよ
類化しない 統べない かれやかのじょだけのことばを
百年かけて
海とその影から掬(すく)え

砂いっぱいの死者にどうかことばをあてがえ
水いっぱいの死者はそれまでどうか眠りにおちるな
石いっぱいの死者はそれまでどうか語れ
夜ふけの浜辺にあおむいて
わたしの死者よ
どうかひとりでうたえ

浜菊はまだ咲くな
畔唐菜(アゼトウナ)はまだ悼むな
わたしの死者ひとりびとりの肺に
ことなる それだけのふさわしいことばが
あてがわれるまで


*辺見 庸『眼の海』より
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by enzo_morinari | 2018-08-14 22:22 | 沈黙ノート | Trackback | Comments(0)
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