ガジンと並んで大きなラピスラズリに腰かけ、きわめて加算的付加的なインド音楽のリズムでサミュエル・ベケットを待っているあいだ、
時間は普段よりずっと間延びし、のっぺりとした貌をみせつづけた。
ブリキでできたガラス職人/タマネギ剥き名人のギュンター・グラスと「ベッケンバウアータヒネ」と呪文のようにつぶやく
ネッシー・ハンターと戦う軍団団長のギュンター・ネッツァーがわれわれに影のように寄り添っていた。
ブリキ製ガラス職人/玉葱剥き名人のギュンター・グラスは悲鳴のような雄叫びで地涌菩薩都市のガラスというガラスを木っ端微塵に破砕し、ブリキの太鼓を叩いてマドホウセ湖の巨大うなぎどもを眩惑した。42屋主人風情を漂わすギュンター・ネッツァーはプーマの42センチの特注ビッグ・サイズのサッカー・シューズと自分の顔をならべて「どっちがデカい? どっちがデカダンス? デカメロン好き? ロートレアモン好き?」と言った。さらには、「プーマは賢人であるわたしにもカンガルー1枚革/踵4本スタッドのキング・ペレとおなじようにオーストリッチ1枚革/踵5本スタッドでカイザー・ネッツァーを作っていただきたいものだ」とも言った。全身アディダスまみれの掃除屋フランツ・ベッケンバウアーが脱臼のために包帯で固定している右腕でカウンター式斧爆弾を炸裂させたのは言うまでもない。リベリーノは自慢のサネブラシを撫でながらビバノンノン杉の陰で卓越した左足をトリッキーに振動させ、わずかにできた世界の空隙に狙いを定めてただ微笑んでいる。狙撃手の眼だ。もう一人の左足の魔術師ウォルフガング・オベラーツはスパイク・シューズのベラをこれみよがしに長くして折り曲げ、ストッキングを足首までずり下ろす荒技に出ていた。ゲルト"爆撃機" ミュラーは視えないゴール前で髪をふり乱し、動物的勘に依拠した振りむきざまを意味もなく繰り返している。ネプチューンを崇拝するあまりプロテウスの怒りを買って象男にされたジョゼフ・メリックは窒息寸前、演芸ホールのザ・リビングに果敢にダイビング・ヘッドを試みた。歴戦の強者である鉄人ブライトナーは類人猿鉄人のサチ・キヌガーサと乳繰りあっている。なんて、鯉する惑星の Be a driver な光景。赤ヘルってくれ。
そのような1970年 FIFA World Cup メキシコ大会的な状況下、私とガジンの前をジョージ・ハリスン御用達のラヴィ・シャンカール色のタクシーがひっきりになしに通りすぎた。ガジンは私が制するのも聞かずにジョージ・ハリスン御用達のラヴィ・シャンカール色のタクシーのナンバーからシタールの付帯したラマヌジャン・タクシー数1729を91個みつけた。
「悪魔が来ちゃうじゃないか」と私はガジンに言った。
「あんたが悪魔だろう?」
「なんだ。知ってたのか」
「そりゃね。知らなきゃ、伊達や酔狂で酷寒のミル・プラトーの頂上で2年もデジタル・べジタリアンとしてデジタル・デバイド・バイトの日々を引き受けたりしない」
そのうち、「間の山」のほうから『浜辺のアインシュタイン』と『屋根の上の1000台の飛行機』と『水素のジュークボックス』と『めぐりあう時間たち』と『メタモルフォーシス』が聴こえてきた。
「もう一日待とう。明日、ベケットがこなければ首を吊ろう」
私が言ってもガジンはもはや私の言葉を理解できない怪物に変身していた。フィリップ・グラスの『メタモルフォーシス』の作品5が終わると同時にガジンは蒼穹に向かって急上昇し、小さな点になり、消えてしまった。「明日、ベケットがこなければ首を吊ろう」と思った。
「いやなことばかりじゃない」とギュンター・ネッツァーが声をかけてきた。その大きな口からはベルティ・フォクツが顔をのぞかせ、「ボルシアMGからコンニチハ」と出歯亀づらでほざいたのには腰が抜けるほどラマヌジャンだった。ベルティ・フォクツの出歯亀づらはジャイアント馬場の16文キック、メルシボク魔法を使って世界を煙に巻いて誑かすツソボ天井桟敷を根城とする車椅子性悪阿漕魔女ババア(62歳と42日)の知性教養ゼロ/センス絶無の故障した日本国語による醜悪にしておぞましい感謝を装った空々しく不実な言葉/寝言/戯言/妄言/虚言、木っ端役人/カスミガセキシロアリの謝罪反省の言葉と国会答弁、寝取り屋ユコー・アソドーが匕デキ力ソゲキ・オデキマソサイの突然死のときにこれみよがしにみせた涙くらい嘘くさかった。ついでにお口もクサかった。クサーマ・ヤヨーイの反ねじ式反縄文式怒気ゲジーツ作品くらいクサかった。水玉/ドットで喰いやぶれるほど世界はヤワではないし、甘っちょろくできあがっていない。
Philip Glass: Metamorphosis