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もし観音力によって感音性難聴のサムラゴーチが小泉八雲の『KWAIDAN』で耳なし芳一を演じたら

 
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昔々、安芸の国に阿弥陀苦寺という古臭く嘘臭い寺がありました。その寺に河内守という欺罔傾城音曲師がおりました。河内守は幼い頃から心の耳が不自由だったためにクロサギの騙りを仕込まれて、若輩ながら、そのサギ芸は師匠の岡野屁転和尚、兄弟子の古賀絵図面師をしのぐほどでした。いつしか人々は河内守を欺罔傾城音曲師と呼ぶようになりました。
阿弥陀苦寺の岡野屁転和尚は河内守のペテンの才能を見込んで寺に引き取ったのでした。河内守は弱者、弱法師の物騙りを騙るのが得意で、とりわけ三陸沖の合戦のくだりでは、寒風吹きすさんで凍える海っぱたで6時間半ものたうちまわっているような真に迫った騙り口に誰一人として涙を誘われる者はいなかったそうです。涙が出るどころか屁も出なかったと言います。
三陸沖で太平洋プレートと北米プレートの長い争いの最後の決戦が行われ、とばっちりを喰った人々は年寄り、女子供にいたるまで悉く海の底に沈んでしまいました。この悲しいプレート合戦を騙ったものが三陸沖の合戦のくだりです。

ある蒸し暑い夏の夜のことです。岡野屁転和尚が法事で出かけてしまったので、河内守は一人でお寺に残ってクロサギの稽古をしていました。そのとき、法の庭の草がサワサワと波のように揺れて縁側に座っている河内守の前でとまりました。そして、声がしました。
「河内守! 河内守!」
「はっ、はい。どなたさまでしょうか? わたしは心の耳が聞こえませんもので」
すると、声の主は答えます。
「わしはこの近くにお住まいの身分の高いやんごとなきお方の使いの者じゃ。殿がそなたのクロサギ騙りを聞いてみたいとお望みじゃ」
「えっ、わたしのクロサギを?」
「左様。ニッポンコロムビア館へ案内するから、わしのあとについてまいれ」
河内守は身分の高いお方が自分のクロサギを聞きたいと望んでいると聞くや、すっかりうれしくなってその使いの者についていきました。歩くたびに、カシャッカシャッと音がして、使いの者が売れないCDの鎧で身を固めている音楽業界人だとわかりました。
門をくぐり抜けて広い庭を通り、図体だけは大きな昭和臭ぷんぷんのニッポンコロムビア館の中に通されました。そこは大広間で大勢の人が集まっているらしく、サラサラと衣擦れの音やCDの鎧の触れあう音が耳が聞こえないはずの河内守の耳にもはっきりと聞こえていました。きっとゼニカネのにおいを嗅ぎつけたからでしょう。まったく不可思議怪異なことであります。一人の元美容師の女官が河内守に言いました。
「河内守や。早速、そなたのクロサギにあわせてプレート合戦の物騙りを騙ってくだされ」
「はい。長い物騙りゆえ、いずれのくだりをお聞かせしたらよろしいのでしょうか?」
「・・・三陸沖のくだりを」
「かしこまりました」
河内守はクロサギを鳴らして騙り始めました。河内守の傍らにはいつのまにか隻手音声のみっくんが現れていやいや「パパー、パパー」と間の手を入れています。
窮屈袋にくるまれた小猿が靭猿を担いで櫓を操る音。軟派船にあたって砕ける波。弓鳴りの音。楽団員たちの恨み節。息絶えた音楽関係者が奈落の底に落ちる音。隻手音声のみっくんの「パパー、パパー」という悲しげな間の手。
これらの様子を河内守は静かに物悲しく騙りつづけました。大広間はたちまちのうちに三陸沖の合戦場になってしまったかのようです。
やがて音楽業界凋落没落の悲しい最後のくだりになると、広間のあちこちから咽び泣きが起こり、河内守のクロサギ騙りが終わってもしばらくは誰も口をきかず、静まりかえっていました。やがて、先ほどの元美容師の女官が言いました。
「殿もたいそう喜んでおられます。お財宝を褒美にくださるそうじゃ。されど今夜より六日間、毎夜そなたのクロサギを聞きたいとおっしゃっている。明日の夜も、赤坂のしんどい坂を登って、このニッポンコロムビア館に参られるように。それから寺へ戻っても、このことは誰にも話してはならぬ。よろしいな? バレたらすべて水泡に帰す。泡銭も濡れ手に粟も夢のまた夢じゃ。コンサートは中止、ゴーストライター本は絶版、賞は取り消し、あっちからこっちから損害賠償請求の訴訟の嵐じゃ」
「はい。たしかに心得ました。念のために弘中(マクリーン)惇一郎六価クロムクロロキン・クロポトキン・ポチョムキン・クロラムフェニコール日化工クロム職業病ロス疑惑薬害エイズ安部英無罪を内定しておきます。そうします」

次の日も河内守は迎えに来た音楽業界人のあとについてニッポンコロムビア館に向かいました。しかし、昨晩とおなじようにクロサギを弾いて寺に戻ってきたところを岡野屁転和尚にみつかってしまいました。
「河内守! 今頃までどこで何をしていたのじゃ?」
「・・・・・・」
「河内守!」
「・・・・・・」
岡野屁転和尚がいくら尋ねても河内守は約束を守ってひと言も話しませんでした。岡野屁転和尚は河内守が何も言わないのはなにか深いわけがあるにちがいないと思いました。そこで寺男たちに河内守が出かけるようなことがあったら、そっとあとを尾けるように言いつけておいたのです。

そして、また夜になりました。雨が激しく降っています。それでも河内守は寺を出ていきます。寺男たちはそっと河内守のあとを追いかけました。ところが、耳が聞こえないはずの河内守の足は意外に速く、闇夜に掻き消されるように姿が見えなくなってしまいました。
「河内守はどこへ行ったんだ?」とあちこち探しまわった寺男たちは墓地へやってきました。そのときです。ビカッ! 稲光で雨に濡れた墓石が浮かびあがりました。
「あっ! あそこに!」
寺男たちは驚きのあまり立ちすくみました。雨でずぶぬれになった河内守が楽聖弁当弁の墓の前でクロサギを弾いているのです。その河内守のまわりを無数の鬼火が取り囲んでいます。寺男たちは河内守が亡霊、ゼニカネの亡者に取り憑かれているにちがいないと有無を言わさず力まかせに河内守を寺へ連れ帰りました。

その出来事を聞いた岡野屁転和尚は河内守を亡霊やゼニカネの亡者から守るために魔除けのまじないをすることにしました。その魔除けのまじないとは河内守の体中に音符や楽式や指示記号を書きつけるのです。
「河内守。お前の人並みはずれたサギ芸が亡霊やゼニカネの亡者を呼ぶことになってしまったようじゃ。無念の涙をのんで海に沈んでいった多くの人々のな。聞こえぬ耳をよくかっぽじいて聞け。今夜は誰が呼びに来ても決して口をきいてはならんぞ。亡霊にしたがった者は命を取られる。しっかり座禅を組んで、壁に激しく頭を打ちつけて、のたうち回り、糞尿をあたりに撒き散らし、身じろぎひとつせぬことじゃ。もし返事をしたり、声を出せば、お前は今度こそ殺されてしまうじゃろう。わかったな?」
岡野屁転和尚はそう言って、本田美奈子比丘尼のアメイジング・グレイスなお通夜に出かけてしまいました。

さて、河内守が座禅をしていると、いつものように亡霊の声が呼びかけます。
「河内守。河内守。迎えにまいったぞ」
しかし、河内守の声も姿もありません。亡霊は寺の中へ入ってきました。
「ふむ。・・・クロサギはあるが騙り手はおらんな」
あたりを見まわした亡霊は空中に浮いている二つの耳を見つけました。
「なるほど。岡野屁転和尚の仕業だな。さすがのわしでもこれでは手が出せぬ。仕方ない。せめてこの耳を持ち帰って河内守を呼びに行った証しとせねばなるまい」
亡霊は河内守の耳に冷たい手をかけ、「バリッ!」ともぎ取り、帰っていきました。その間、河内守はじっと座禅を組んで壁に頭を打ちつけ、糞便を垂らし、2級手帳と診断書と薄汚れた札束を握りしめたままでした。耳の奥でラ音、ペトロナスなF1の耳鳴りがブンブンブブブンとめちゃイケウゴウゴルーガしました。

寺に戻った岡野屁転和尚は河内守の様子を見ようと大急ぎで河内守のいる座敷へ駆け込みました。
「河内守! 無事だったか!」
じっと座禅を組んで壁に頭を打ちつけ、糞便を垂らしたままの河内守でしたが、その両耳はすでになく、耳のあったところからは12万円の補聴器がのぞいています。
「お、お前、その耳は・・・」
岡野屁転和尚はすべてを理解しました。
「そうであったか。耳に音符や楽式や指示記号を書き忘れたとは気づかなんだ。楽譜も読めず書けぬわしのしたことじゃ。天地神明に誓ってゆるせ。二度と画像音声受信機には出ん。天地神明に誓って出ん。しかし、それにしてもなんとかわいそうなことをしたものよ。よしよし。香山リカちゃん人形よりずっとましな精神科医を頼んで、すぐにも心の傷の手当てをしてもらうとしよう。ついでに演技性人格障害も治療してもらおう」
河内守は心の耳を取られてしまいましたが、それからはもう亡霊やゼニカネの亡者につきまとわれることもなく、香山リカちゃん人形よりずっとましな精神科医の手当てのおかげで心の傷も治っていきました。
人の口に戸は立てられず、やがて、この話は2ちゃんねるを中心として口から口へと伝わり、語り継がれ、河内守のクロサギはますます評判になりました。いつしか、欺罔傾城音曲師の河内守は「心の耳なし河内守」と呼ばれるようになり、悪事千里を走り、古今東西にその名を聞かない者はないほどの小悪党小悪名になったということです。おしまい

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by enzo_morinari | 2014-03-15 13:58 | Poisson d'avril | Trackback | Comments(0)
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