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カザルス・バードの『鳥の歌』は異国の王たちに届いたか?

 
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 パブロ・カザルスがホワイトハウスで『El Cant dels Ocells/鳥の歌』を演奏したのは、アメリカ合衆国がベトナムへの軍事顧問団の派遣を激増させ始める最中だった。1961年11月13日、月曜日。休み明け。その日もまた、世界のいたるところで悲劇と喜劇が無数に舞い踊っていた。
 演奏の最中、カザルスは感極まって嗚咽のような声を何度か漏らす。歓喜か? 法悦か? 慟哭か? フランコ軍事独裁政権と結んだアメリカ合衆国への憎悪と憤怒の炎はどうだったのか? のちに、D.ハルバースタムによって「史上最悪の愚劣」と評されたベトナム戦争の当事者であるアメリカ合衆国大統領以下、居並ぶ大物たちはこのときカザルス・バードの『El Cant dels Ocells/鳥の歌』をなんと聴いたか? なにを感じたか? ベトナムの無辜の民に降りかかる枯葉剤やナパームやクラスター・ボムの雨のことを思ったか? 頭の中は「ドミノ・セオリー」のことでいっぱいだったか?
 カザルスの祈りと音楽の真言がホルショフスキィーのピアノ伴奏とともに、舞踏会場であるホワイトハウスのイースト・ルームに静かに響き、染みわたる。そして、カザルス・バードの嗚咽。

 Wooo…
 Uuu……
 Wuhmmm……
 Ohoooooo……

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 カザルス・バードはJFKに希望の光の片鱗を見てもいただろう。JFKは世界をいい方向に導けると。しかし、カザルス・バードの希望と期待は完膚なきまでに打ち砕かれる。JFK暗殺。軍産複合体と石油メジャー、つまりは既得権益に群がり、貪り食う守旧派が放った刺客によって。
 ベトナム戦争は不幸と恐怖と悲劇と嘆きのどん底に世界を陥れ、アメリカと世界を蝕んでいく。ドラッグとトラウマと鬱と虐殺。ベトナム戦争に抗議する僧侶が頭からガソリンをかぶり、座したまま紅蓮の炎に包まれる。「坊主のバーベキュー」と嘲笑するベトナムの秘密警察長官の妻。ソンミ村の虐殺。JFKは「ベトナム戦争に勝利はない。この戦争を一刻も早く終結させなくてはならない」と意思表示し、暗殺された。既得権益の上に胡座をかく者たち、強欲卑劣な守旧派どもに。

 カザルス編曲による『鳥の歌』、ト短調のソナタはコーダの終結部を様々な余韻を残して静謐のうちに終わりを告げる。『鳥の歌』は世界中の権力者たちへのカザルスの強烈な諌言でもあったろう。そして、10年後の「国連の日」におけるカザルス・バードの言葉。

 私は独裁者をいただく国家など考えることができません。「自由」を失った国民は死んでいます。街にもホテルにも演奏会場にも微笑んでいる人はひとりもいません。それが自由のない国々の住民の姿です。

 私の故郷のカタルーニャの鳥たちは「Peace……, Peace……, Peace…………」と歌いながら青い空を飛んでいます。


 2年後、翼は衰え、力尽き果て、年老いたカザルス・バードは二度と戻れぬ世界へと飛び去った。われわれに宝石のごとき『鳥の歌』を残して。


【参考】
パブロ・カザルス(カタルーニャ語:Pau Casals/スペイン語:Pablo Casals 1876年12月29日 - 1973年10月22日)
スペイン・カタルーニャ出身のチェロ演奏家、指揮者、作曲家。カタルーニャ語によるフルネームはパウ・カルラス・サルバドー・カザルス・イ・デフィリョ(Pau Carles Salvador Casals i Defilló)。チェロの近代的奏法を確立し、深い精神性を有する演奏によって、20世紀最大最高のチェリストと言われる。また、それまで単なる練習曲と考えられていたJ.S. バッハ『無伴奏チェロ組曲』(全6曲)の価値を再発見再評価したことの功績は計り知れない。大指揮者のフルトヴェングラーはチェロ演奏家としてのカザルスについて、次のような賛辞を贈っている。
パブロ・カザルスの音楽を聴いたことのない者は弦楽器をどうやって鳴らすかを知らない者である。
カザルスは平和活動家として、音楽を通じて世界平和のため積極的に行動した。

El Cant dels Ocells - Pau Casals (at The White House)
*from The Album "A Concert at The White Houe" (Columbia KL 5726) Recorded Live on November 13, 1961 at The White House and released in 1962.

El Cant dels Ocells/Performance and Speech at the United Nations Day in October 24, 1971

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by enzo_morinari | 2013-08-24 19:55 | 真言の音楽 | Trackback | Comments(0)
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