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ヴェルミちゃんのパスタ・アリメンターレな日々#1

 
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 ヴェルミちゃんにはまだギムレットも「絶望のパスタ」も早すぎる。 E-M-M

 ヴェルミちゃんと散歩をすると世界はとても大きくて小さくて豊かで貧しくみえてくる。 E-M-M


 ヴェルミちゃんは小学校1年生にもかかわらず辛辣だ。物事の本質や表面には浮かんでこないうそやまやかしやインチキをたちどころに見抜いてしまう。
 入学式のときの校長先生の言葉。
「みなさん、おともだちをいっぱいつくって、たのしい学校生活にしましょうね」
 ヴェルミちゃんは即座に反応した。
「ともだちがいっぱいできたらだれがだれだかわからなくなって本当に仲良くなんかできないじゃないさ! だれがなにをしたか、なにを言ったか、なにが好きでなにがきらいかだってごっちゃごちゃのくっちゃくちゃのマリナラソースみたいになっちゃうじゃないさ! へんなの!」
 ヴェルミちゃんの言うとおりだ。

 鎌倉に住んでいるママのお兄さんの家に遊びに行った日の出来事を思いだすといまでもドキドキする。
 ヴェルミちゃんのママのお兄さんは公認会計士のお仕事をしていて、奥さんは山奥から出てきた猿だ。ヴェルミちゃんの周囲のおとなたちは彼女のことを「山出しの猿」と呼んでいるので、ヴェルミちゃんはママのお兄さんの奥さんが本当に猿だと思っている。

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 ママのお兄さんの家の広い庭で、みんなでお昼ごはんを食べているときのことだ。山猿奥さんがいきなりひどい北の国の訛を丸出しにして言った。
「なんでも足りないくらいがちょうどいいのよ」
 ママのお兄さんの山猿奥さんの言葉は鉛のように重かった。ヴェルミちゃんは重いのと臭いのと寒いのが大きらいだ。嘘くさいのや周囲の温度を2度も3度も下げてしまうような言動だ。
「山猿のおばちゃま。足りないくらいがちょうどいいなら、なんで山猿のおばちゃまの仕事場であるキッチンには山ほどモノがあるの? 山猿のおばちゃまが山育ちだから? 山猿のおばちゃまのFacebookやTwitterやブログのページをみたけど、フォロワーやフレンズのひとが何百人もいるじゃない。足りないくらいがちょうどいいというのはうそなの? ヴェルミは頭が混乱してしまいます。言ってることとやってることがちがうのはサギシのはじまりだってママもパパも言ってるよ」
 その場が凍りついたのは言うまでもない。

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 お裾分けで隣りのオベンチャラオタメゴカシキレイゴトオベッカ奥さんからいただいたという湘南野菜を切るのはヴェルミちゃんの役目だった。ヴェルミちゃんは腕と手と指と頭と首と目と耳と鼻と口と舌と左の第2臼歯と右足の薬指が痛くなるくらいがんばって一所懸命に丁寧に切った。ヴェルミちゃんが刻んだ野菜はどれも大きさが整っていてきれいだったが、ママのお兄さんの山猿奥さんが刻んだ分はひどいものだった。ヴェルミちゃんはそばで見ていて、山猿奥さんがいやいややっているのがわかった。山猿奥さんはぶつぶつと小声でひどい言葉をいくつも言い、舌打ちをし、時々、床を踏み鳴らしていたからだ。山猿おばちゃまはきっと病気なんだとヴェルミちゃんは思った。「山猿だから病まないはずなのに。病まざる山猿なのに」と最近インターネットのサイトでおぼえた「言葉遊び」をして気をまぎらわすヴェルミちゃんだった。
 山猿奥さんが手当り次第にただ切って放り込んだだけの湘南野菜がお皿からだらしなくはみ出すほどにトッピングされたヴェルミチェッリ・ペペロンチーノのパスタは味すらわからなくなってしまった。ヴェルミちゃんのパパとママとママのお兄さんはうつむいてなにも言おうとしない。「もう二度と山猿おばちゃまとおなじテーブルでごはんは食べたくない。山猿おばちゃまの顔なんか二度とみたくない。口もききたくない」とヴェルミちゃんは思った。そして、泣き出した。ヴェルミちゃんには絶望のパスタはまだ早すぎる。
 
by enzo_morinari | 2013-07-23 05:00 | ヴェルミちゃん | Trackback | Comments(1)
Commented at 2017-12-16 01:38
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