気がつけば、ミルプラトー高原で Porsche356 Roadster とともに夕陽に染まっていた。
街を出たのは昼下がりだった。 Porsche356 Roadster のイグニッション・キーをまわしたときは目的地はなかった。初めのうちぐずっていた空冷水平対向4気筒OHVエンジンが軽快にして粘りのある4拍子を奏でながら回りだすと虚空から声が聴こえてきた。
南南西へ。太陽が沈むのとは逆の方向へ。国境の南、太陽の西へ。まだ見ぬ言葉の祖国へ。
どの道を通ったのか、どこを走っているのか。時間はどれくらい流れたのか。記憶はない。気がつけば太陽は空を、大地を赤く染めていた。ミルプラトー高原の麓だった。眼にみえる世界のすべてが、 Porsche356 Roadster が、自分自身が燃えあがりそうなほど夕陽に染まっていた ── 。