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THE KWAIDAN IN 2013 SUMMER#2 西伊豆戸田村の怪#2

 
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「おれにも飲ませろよ、ガン公!」
「立場上、ぼくからすすめることはできないよ。ただ夜の海岸は見通しが悪いから色々なものを落としてしまう。ぼくはもうすぐビールとウィスキーを落とす。ドンブリも落とす」
「モクも落とせよ」
「ぼくはタバコを吸わないので、本来、落としようがないけど、なぜか、ほら、そこにショート・ホープが二箱落ちてるよ」
「ガンちゃんもそこそこ気が利くようになったじゃねえか。おれ様のおかげだな」
「さあ。おふざけはこれくらいでさっさと乾杯しようよ」
「だな」
 吾輩とガンさんはビールをドンブリにあふれるほど注ぎ、戸田の海と御浜神社と非業の死を遂げた漁師たちに乾杯した。ガンさんはソニーのポータブル・カセットデッキを持ってきていて、ガンさんお気に入りの曲ばかりをいれたテープをかけた。
 見姿風体からはとても想像できないが、ガンさんはすごく音楽センスがよかった。ジャズ、クラシック、ブルーズ、ポップス、ロックを始めとして、幅広いジャンルの音楽がTDKのカセットテープにチャンプルで録音されていた。吾輩ほどではないにしても、音楽に関する知識は中々のものだった。特にマイルス・デイヴィスに関しては一家言を持っていて、世界と人間に起こるすべての現象、事象、事態はマイルス・デイヴィスの音楽で説明できると、まるで吾輩のようなことまで言った。もちろん、ガンさんのレコード・コレクションのほとんどは吾輩がいただいた。何遍も返還を求められたが、吾輩は「返して欲しければ返還請求訴訟を起こせ!」と夜郎自大なことを抜かして返さなかった。ガンさんの部屋に行くと吾輩がくすねたLPレコードが新品で補充されていた。まことにけっこうなことであった。
「森鳴さんは将来はどんな方向にいこうと考えているんですか?」
「まだ決めてない。来年の夏までには決める」
「そうですか。やっぱりあれですか、大学は東大ですか?」
「さあな。学生運動でドンパチ大騒ぎなら東大もいいけどな。安田講堂のてっぺんから演説ぶつなんてイカすじゃねえか」
「学生運動も全共闘運動も内部はひどいもんですよ。権力闘争ばかりで。正義も公正も理念もない。自分たちが闘っている相手とおなじことばっかりやってます。本当にひどい。内ゲバの巻き添えで、ぼくは友だちを3人失いました。むごたらしい死にざまでしたよ」
 ガンさんを見た。じっと見た。見ているうちに泣けてきた。湿っぽいのをまぎらわそうと、ビールとウィスキーを交互にがぶ飲みしたが、余計に気持ちが昂って涙が止まらなくなった。ガンさんも肩をふるわせて泣いていた。青春ドラマのワンシーンみたいだった。さすがに抱き合うことまではなかったが。
 ガンさんと吾輩は酔いつぶれて、けっきょく小舟の浜に寝てしまった。寄せ返すさざ波の音が心地よくて、子守唄みたいだった。夜明けまでもうすぐだった。ガンさんが駿河湾側で日の出を見ようと言うので松林を抜けて灯台を目指した。小さな灯台に寄りかかり、日の出を待った。日の出を見るのは好きだったが、駿河湾を昇ってくる太陽を見るのは初めてだった。
 太陽が水平線を赤く染め、その顔を少しのぞかせたとき、一群のカモメが頭の上をものすごいスピードで飛んでいった。吾輩は思わず叫んでいた。
「おれたちも飛ぼうぜ! ジョナサン・リビングストンみたいに!」
「そうしましょう!」
 後にも先にも、あれくらい気分が昂揚した日の出はない。

(つづく)
 
by enzo_morinari | 2013-07-16 04:51 | THE KWAIDAN | Trackback | Comments(0)
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