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虹のコヨーテ#6 森のひととの契約

 
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その者は森に降りそそぐ光の束の中心から現れた。森のひとだった。森のひとの額の中心には楢の葉の形をした淡い浅葱色のしるしがある。しるしは不規則に明滅を繰り返している。

森のひとは滑るようにビッグフェイス・ガジンが倒れている場所に向かう。森のひとはビッグフェイス・ガジンの頭の間際に経ち、威厳と慈愛を含んだ眼差しをビッグフェイス・ガジンに注ぐ。そして、ビッグフェイス・ガジンの胸郭あたりに手をかざした。

森のひとの手のひらから無数の淡い薄桃色をした光の粒が零れ落ちる。ビッグフェイス・ガジンの指がぴくりとする。ビッグフェイス・ガジンの骸のような肉体から半透明の人像のものが徐々に起き上がってくる。ルイスウェイン・キャットだった。

「やっと死ねるな」
「そうだ。それを望んでいた」
「弛緩した死だな。生ぬるい死。生きてきたとおりにおまえは死ぬというわけだ」

ルイスウェイン・キャットは言葉に詰まる。

「どうした? 図星で言葉もないか?」

ルイスウェイン・キャットは口惜しさをにじませてはいるが言葉もない。

「どうだ? ”森のひと”として生きてみる気はないか?」
「森のひと?」
「そうだ」

そのとき、初めてルイスウェイン・キャットは森のひとのほうに顔を向けた。

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「”森のひと”の仕事はなんだと思う?」
「わからない」
「掬い上げ、受け止め、包みこみ、そして救うことだ。世界中のすべての森とありとあらゆる命を」
「おれにできるとは思えない」
「できるかできないかの問題ではない。おまえにその意志があるかどうかだ」
「おれに意志なんかない。意志を持てるとも思えない」
「生まれ変わることはできない。しかし、少しずつ変わることはできる。さあ、契約だ」

森のひとの額の楢の葉のしるしが一層強く輝く。ルイスウェイン・キャットを射抜く。ルイスウェイン・キャットは眩しさに眼を細めた。細めた眼に外部外界との境目が曖昧になった森のひとのごく淡い桃色の輪郭が映った。

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by enzo_morinari | 2013-06-24 09:18 | 虹のコヨーテ | Trackback | Comments(0)
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