いい旅を。大地のヘソがいつもあなたがたとともにありますように。アニャングの戦士
虹のコヨーテとの旅が始まってから2週間が経つが、われわれがいったいどこに向かっているのかは虹のコヨーテ以外にはだれもわからなかった。あるいは、虹のコヨーテにも「旅の目的地」も「旅の意味」もわかっていないのかもしれないとも思えてくる。一度だけ虹のコヨーテにたずねたが言下に拒否された。
「おまえはあてのある旅を望んでいるのか? 目的地のある旅を。意味のある旅を。理由のある旅を。旅程表に縛られた旅を」
「どこを、なにを目指しているのかがわからなければ起こる困難と向かい合えません。心が折れてしまう」
「そんなことで折れてしまうような心ならとっとと捨ててアナグマにでも喰わしちまえ! そんなものはクソの役にも立たないガラクタだ。ガラクタ以下だ」

虹のコヨーテの眼がつり上がり、強い光を放つ。
「いいか? よく聴くんだ。あてや目的地や意味のある旅など本当の旅ではない。”本当の答え”は旅のさなかにみつかる。自分の眼と耳と心と魂でみつけるんだ。みつけなければならないのだ。おぼえておけ。そして、二度と旅の目的地や意味や理由をたずねるな。いいな?」
「わかりました」
本当はわかっていなかった。わかっていなかったが「わかった」と言わなければこの旅の隊列から外されるように思った。それはどうしても避けなければならない。虹のコヨーテの言う「本当の答え」がみつかるというのなら、この身をすべて委ねるしかない。おそらく、そのほかにはもう生き延びる道はないのだ。
虹のコヨーテとの旅が始まってから2週間。気がつけば、「現実世界」で生きていたときに抱えこんでいた諸々の厄介事が少しずつではあるけれども心の中から剥がれ落ちている。不意とアニャングの戦士が別れ際に言った言葉が胸をよぎる。
「いい旅を。大地のヘソがいつもあなたがたとともにありますように」
大地のヘソとはなんだ?