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ハルキゴンチチ・デイズ#7 深夜の山下埠頭で星空を眺める会

 
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いつも心に冬の大三角形を


本牧埠頭D突堤でOOCLの青いコンテナに激突して死んだ友人のうちの一人は在日朝鮮人だった。シーメンズ・クラブで初めて会ったとき、「苦悩するビーバー・カモノハシ」と名乗った。シーメンズ・クラブの4番のビリヤード台に「鯨」と命名した夜だった。苦悩するビーバー・カモノハシの親は伊勢佐木町で大きなサウナを1軒とパチンコ屋と焼肉屋を経営する大金持ちだった。家は根岸台にあって、ホワイトハウスと見まごうような大豪邸だった。

「鯨」でフィリピン船の気のいいセカンド・オフィサーとその日の酒代を賭けて戦っているときに苦悩するビーバー・カモノハシは現れた。私がいやな角度のスマッシュ・ヒットで9ボールをコーナー・ポケットに沈めて勝利した瞬間、それまで腕組みをし、上体をうしろに反らし、やや冷ややかで皮肉な顔つきで戦いのゆくえを見守っていた苦悩するビーバー・カモノハシはゆっくりと3回手を叩いた。『タクシードライバー』のモヒカン・ヘッドにしたロバート・デ・ニーロのように。

「おみごと」
「ありがとう」

悔しがるセカンド・オフィサーを尻目に「鯨」の鮮やかなグリーンの羅紗に投げ捨てられたドル紙幣の束をつかみ、余裕しゃくしゃくでキューをケースにしまおうとすると苦悩するビーバー・カモノハシがたずねた。

「バラブシュカじゃないか!」
「球撞きやるのか?」
「ビリヤード場を1軒持ってる」
「冗談だろう?」
「ほんと」

苦悩するビーバー・カモノハシは曙町にある老舗のビリヤード場の名を言った。

「こりゃ驚いたな」
「いつか来いよ。ただにしてやる」
「ビリヤード代くらい払うさ。貸し借りなしの人生がモットーなもんでね」
「おもしろいやつだ」

かくして、苦悩するビーバー・カモノハシはかけがえのない友人となった。

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「世界はどうにもならない」

気持ちのよい風が吹く春の盛りの深夜の山下埠頭でよく冷えたレーベンブロイを飲んでいるとき、苦悩するビーバー・カモノハシが突然言った。

「まったくだ。世界は本当にどうにもならない」
「ついては深夜の山下埠頭で星空を眺める会を結成しようじゃないか」
「いいね。実にいい」
「もう一人、深夜の山下埠頭で星空を眺める会の会員にしたい奴がいるんだけどな」
「おれと気が合いそうか? 天下御免の人見知りなもんでね」
「合うよ。おれと気が合うんだから」
「なるほどね。で、そいつはいまどこに?」
「もう来てるよ」

苦悩するビーバー・カモノハシは埠頭の先端で黄色いボラードに腰かけ、ウィスキーをラッパ飲みしている男を指差した。苦悩するビーバー・カモノハシとともに激突死することとなる中国人のタカナカだった。タカナカは「青い珊瑚礁の早起きブルーバード」と命名した。タカナカが青い日産ブルーバード501に乗っていたからだ。そして、実際、タカナカは驚くべきほどの早起きだった。履歴書には「趣味:早起き」と書くほどだ。趣味の早起きの一貫として、青い珊瑚礁の早起きブルーバードは新聞配達をやっていた。朝刊のみ。青い珊瑚礁の早起きブルーバードは夕方は昏睡状態と言ってもいいほどに深く眠るのだ。

このようにして深夜の山下埠頭で星空を眺める会は結成された。会員3名。会員規約はたったひとつ。「いつも心に冬の大三角形を」だ。われわれ三人のほかには誰も知らない秘密結社だ。(Closed BooK)

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by enzo_morinari | 2013-06-18 03:26 | ハルキゴンチチ・デイズ | Trackback | Comments(0)
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