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GRIP GLITZ#5 クロノスの大鎌

 
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ついにクロノスの大鎌をふるうときはやってきた。待ちに待っていた。この瞬間を。この愉悦のときを。


「あのひとは必ずわたしを殺しにくる」

女の顔には深い皺と苦痛が刻まれている。アルビノのように白い肌は青黒くくすみ、眼のまわりには大きく濃い隈が張りついている。薄い唇は潤いを失って干涸び、息は猛烈に臭い。死神に見入られている者の姿だ。そして、女の最大の不運は「あのひと」がこの私であることだ。

女は私が「あのひと」であるなどとはこれっぽっちも考えていない。それどころか、女にとって私は世界で唯一、女を支え、勇気づけ、守る存在であるとさえ考えている。だが、そろそろ、クロノスの大鎌をふるう頃合いだ。

「脱げ。そして、跪け」

女はいつもどおり、私の命令に従う。服の脱ぎ方、畳み方は実に丁寧で、気品さえ漂っている。

女が跪く。そして、懇願するように私を見上げる。不調和に大きな眼と長い睫毛と乳白色の肌。渾身の力をこめて平手打ちを喰らわす。女の口から愉悦と苦痛が入り混じった声が漏れる。

「もっとお願いします。もっともっと強く痛くにお願いします。破壊しつくしていただきたいのです」
「ふん。もうお遊びはおしまいだ」

女が「え?」という表情をする。踏みつけたくなる衝動をこらえる。女の顔のかたちが変わるまでスパンキング・ラケットを振るいたくなるのも我慢する。女の肉が裂け、鮮血が迸るのをみたい衝動を抑えつける。だが、それも限界だ。最後にもう一度だけだ。
ハリバートンのゼロを開け、黒いスパンキング・ラケットを取り出す。これ見よがしに何度か手のひらを叩くと、にわかに女の表情に喜びと欲望の色が現れた。

「お願いいたします。肉が裂けるくらいに強くお願いいたしま ──」

女が言い終える前に全身を撓らせてスパンキング・ラケットをふるう。クロノスの大鎌をふるう気分で。大審問官の威厳と傲岸と不遜をもって。

裸電球ひとつの暗い地下室に大きな破裂音と肉の裂ける音が反響した。その残響はいつまでも消えない。死神の笑い声とも聴こえる。

「XYZで乾杯したい気分だ」
「え?」
「これでおしまい。おさらばってことだ」
「どういうことでしょうか?」
「私がおまえを殺しにくる”あのひと”だってことだよ」
「まさか。そんな ──」
「そのまさかだ。おまえはこの地下室で死ぬんだ。闇の中でな。娘のことは心配するな。すでに私の手中にある。そして、調教の第2段階はもうすぐ終了だ」
「やめてください! いやな冗談は!」
「右の第三肋骨にある大きな傷痕に蝋燭を垂らすとすごくよろこぶよ」
「まさか ──」
「そのまさかなんだ。おまえのことが憎くてしょうがないそうだ。早く死んでほしいといつも言っている」
女の大きな眼がさらに大きく見開かれ、大粒の涙が溢れ出す。その涙のゆくえを見届けぬまま、地下室を出た。扉を閉めるときの音はいまでも耳に残っている。4年前の春の盛りのことだ。
 
by enzo_morinari | 2013-06-17 17:18 | GRIP GLITZ | Trackback | Comments(0)
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