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クマグス先生、漱石と鴎外の「沈黙合戦」を一蹴。

 
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 漱石と鴎外の「沈黙合戦」を一蹴。テンギャン・クマグスここにあり!


 履き古した軍靴の行進のような腹にこたえる地鳴りを響かせて到着するなり、漱石山房の御一統様と鴎外を首領首魁とする帝国陸軍メディカル・ギャングスターズの面々は秋艸堂の幽けき庭で対峙した。漱石と鴎外の両陣営の総大将による直接対決、「沈黙合戦」「黙殺合戦」が始まるのだ。漱石、鴎外ともに独自の軍配を固く握りしめている。漱石は「個人主義」というカーライル博物館色の軍配を。鴎外は「闘う家長」という大黒柱色の軍配を。その場にいる者の全員が息をのんで事態の推移を見守る中、この極上至極の緊張、威厳をぶち壊したのは「闘わない課長」の月亭可朝だった。闘わない課長・月亭可朝は性懲りもなく「可朝は七年間不倫してきてその結果~ 警察に御用やで~ 『嘆きのボイン』も今は昔のことやで〜 だれも『嘆きのボイン』なんか知らへんで〜 ウケへんで〜」と歌うも、だれもぴくりともしない。唯一、例外的に、帝国陸軍メディカル・ギャングスターズの特務曹長、北里柴三郎が土筆ヶ岡養生園で秘密裡に開発された細菌兵器を月亭可朝に投げつける素振りをみせた。鴎外が北里柴三郎を制した。

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「コッホ先生が泣くぞ。今度はノーベル医学賞を獲れるように塩梅するからここはこらえなさい。余は石見人、森林太郎である」
「吾輩は神経衰弱の個人主義者である」
 やや斜に構えて事の成り行きを見守っていた漱石が言った。横では久米正雄がチビた赤エンピツを舐め舐め、競馬ブックと競馬エイトと優馬の競馬新聞三紙を微苦笑しながら睨みつけていた。生意気にも根岸競馬場場長と目黒競馬場場長の二人をお供に従えている。そうかと思えば、菊池寛の鈍牛野郎は銭勘定に余念がない様子だ。岩波のボンクラ茂雄はいがぐり頭を恒藤恭に瀧川幸辰直伝の「構成要件充足違法性阻却自由皆無人格的責任硬め麺柔らかめ固め」によって締めつけられている。百鬼園・芥川龍之介はと言えば地獄から蜘蛛の糸を遮二無二強欲に躙り登ってきたアソコガ・カンジタ犍陀多のような形相で河童然と牛に繋がれている。
「芥川、なんだその態は?」
 大白牛車のフェイクものを牽くべこ牛よろしく馬銜を禍福は糾える縄のごとくに繋がれた芥川に向かって、慈悲観世音菩薩のような悲しいお顔でクマグス先生はたずねられた。
「テンギャン先生、僕の透明な歯車と侏儒の言葉とに彩られた或る阿呆な人生には牛になる事がどうしても必要だったのです。そんなことより、芋粥を喰わせてください。羅生門際の藪の中で獲れた山芋の粥を。そうでないと、僕の悲しいことにはエボナイト棒でオールナイト・ニッポン百叩きの刑がお待ちかねなのです。どうか、僕のいつかの遠い日の夏の木登りのときに地べたに堕ちて折れちまった鼻高々の鼻をさらにさらにへし折ってください」
「承知したぞ、芥川。そのかわり、おまえが嫌悪し、憎悪した字の下手糞な女子どもの始末はどうつけるのだ?」
「テンギャン先生、その件は芋粥を食しながら」
「そうか。そうだな。それがいいな」

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 クマグス先生は再び虚空に右の指先で梵字を切り、羅生門際の藪の中で獲れた山芋を百と八本、鍋、薪ざっぽうふた抱え、椀と箸の一揃えを出現させた。一同から「おお」という感嘆の声が上がったが、クマグス先生は意にも介さず、次にいまだ沈黙合戦中の漱石と鴎外に一瞥を加えてから二人に向かってふた息の息吹を吹きかけた。漱石と鴎外は瞬時に寒山と拾得の置物に変わってしまった。そして、「そこになおっておれ。業突く張り強情っ張り偏屈爺どもめが!」とクマグス先生は吐き捨てた。クマグス先生が吐き捨てたものからは大瀬崎のお社の古代の神々たちの息吹とおなじ山梔子の匂いがした。

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by enzo_morinari | 2013-05-10 01:22 | クマグス・デイズ | Trackback | Comments(0)
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