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遠い夢からさめたジャンゴ

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 今日はジャンゴ・ライハルトの誕生日だ。明け方からずっとMJQの『DJANGO』を聴いている。誕生日のお祝いと強弁してすべての予定をキャンセルし、安ワインを飲みながら。もう3本目が空いた。虹子も呆れ顔だ。たばこは夕べのうちに『Gitanes』を1カートン用意してある。iTunesにジャンゴの演奏音源のコンプリートを呼び出し、PLAY IT. これであとはムール貝をバケツ一杯ほども喰えばパーフェクトなジャンゴ・バースデーだ。世界で一番ガッツのあるギター弾きを祝うのにこそふさわしい。降りかかる災厄をものともせずに何度でも立ち上がったジャンゴ・ライハルト、本名ジャン・バティスト・レナールにこそ。

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 何度でも立ちあがる男、ジャン・バティスト・レナールが遠い夢からさめたとき、あたりは炎に包まれていた。放浪漂泊キャンプの民は愚劣卑劣な悪意の炎によって、ジャンゴの左手の指の自由と、かれら自身の自由と放埒の日々を失い、風と雲と光だけが手元に残った。
 かれらが遥かなる空に描く夢は永遠にたどりつくことのできない「故郷」だったろう。だが、それでもなお、放浪漂泊の民はまだみぬ「故郷」を求めて歩きだす。ジャンゴのように何度でも立ちあがり、何度でも夢をみ、何度でも目覚め、何度でも「故郷」をめざすのだ。
 ジャンゴは夢の中でさえ動かぬ左手を身じろぎもせずにみつめ、「私の左手を計測する。私の左手の時間、私の左手の死」といつまでもつぶやきつづける。

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 ワインの空き瓶が5本、McIntosh MC-275の前に転がっている。部屋は紫煙でもうもうと煙っている。曲は『Minor Swing』から『Swing from Paris』を経て、『Time on My Hands』に変わった。夢は遠く、「故郷」はさらに遠い。見果てぬ夢よりもなお遠い。世界が目覚めるのはいったいいつなんだ? ジャンゴが軽やかにマイナー・スウィングしている。

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by enzo_morinari | 2013-01-23 14:30 | あなたと夜と音楽と | Trackback | Comments(3)
Commented by r_magnolia at 2013-01-23 19:42
MJQのジャンゴは好きだ。
味わい深くて沁みる。
ただ、ジャンゴが人の名だと知らずに聴いていた。
恥ずかしいな^^;
これからは、聴こえ方が違ってくるかもしれない。
Commented by enzo_morinari at 2013-01-24 01:24
ジャンゴ。すごい男がいたものだ。こどもの頃にいやがらせの放火でやけどを負って、左手の指でまともに動くのは人差し指と中指と親指の3本になった。中指は半分しか役に立たない。親指の仕事のほとんどはネックを支持することくらいだから、ジャンゴは1.5本の指で「スウィング」に革命を起こしたことになる。スウィング・レヴォリューション・マン。まったくもってすごい男がいたものだ。「この男、強靭につき」ということだね。ジプシー、ロマの民が受けてきた差別と迫害を思いながらジャンゴを聴いているとノリノリの『Minor Swing』や『Swing from Paris』でも泣けてしまう。涙を隠すために吾輩は酒を浴びるのさ。グビビビビー。
Commented by r_magnolia at 2013-01-24 14:27
私の好きなホレス・パーランも指が足りない。
なのにあの素晴らしい鍵盤さばき。
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