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アルマジロと宇宙と僕と#2

 
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ヒメノくんはPink Fairy Armadillo. Lesser Pichi Ciegoとも言う。ヒメアルマジロだ。本人はPink Fairy Armadilloが気に入っている。Lesser Pichi Ciegoはレッサーパンダとまちがわれるので好きではないらしい。ヒメアルマジロは女の子みたいだからやはり気に入らないという。「PFA」と呼ばれるのが一番いいそうだ。

ヒメノくんはアルマジロに変身するとからだの大きさは10cm足らずになる。体重は100グラムほどだ。とても小さい。性格は激変する。ものすごく臆病になるのだ。その臆病さと言ったら、平日の午前8時42分の新宿通りに放り出されたサボテンミソサザイの雛のようだ。それだけではない。音と光にとても敏感になる。だから、ヒメノくんはアルマジロのときは僕のポケットの中で息をひそめている。

ヒメノくんはうす桃色の甲羅をピカピカと光らせることがあるが、それは「いまはすごく気分がいい。講談社と竹書房につづけて殴り込むことだってできるくらいだ」という意味らしい。本人がそう言ったのだからまちがいない。そのことを彼に初めて聴いたときは、彼はピンク色の甲羅を一層ピカピカさせ、「ぼのぼのとアライグマのやつはいつか子分にしてやる」とも言った。

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さて、僕とヒメノくんは麹町警察署とイギリス大使館のちょうど中間にある「ソウル・エコロジカル・パティスリー シーツのあいだ」という変わった名前の店に入ったわけだが、これには深い理由がある。新宿2丁目のゲイ・バー「ポパイ」の隼人ママことサモトラケのニケに呼び出されたのだ。なにを隠そう、ヒメノくんとサモトラケのニケは熱烈恋愛中なのだ。

待ち合わせの時間をすぎていたがサモトラケのニケはいなかった。「シーツのあいだ」の店内にはどういう理由なのかわからないがマーヴィン・ゲイの『What's Going On』と『Mercy Mercy Me』、アイズレー・ブラザーズの『Between The Sheets』の3曲が繰り返し流れていた。僕とヒメノくんはクリスマス・イヴにはそぐわないうえにヘビー・ローテーションでかかる曲にややうんざりしながら、サモトラケのニケの慈悲と恵みによってもたらされた巨大でとてもおいしそうなクレーム・ブリュレからほのかに立ちのぼるエロティシズムにかなり動揺した。
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「はやくあたしを食べて」と巨大なクレーム・ブリュレが突然言った。僕とヒメノくんは顔を見合わせた。
「いまここは空耳アワー?」と通りかかったウェイトレスの女の子にヒメノくんが尋ねた。ウェイトレスは表情ひとつかえずに答えた。
「そのとおりです」
「やっぱり」
「でも、そのクレーム・ブリュレがおしゃべりしたのは空耳アワーとは関係ありませんよ」とウェイトレスはやはり無表情に言った。
 
by enzo_morinari | 2012-12-23 16:30 | アルマジロと宇宙と僕と | Trackback | Comments(0)
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