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東京の午睡「ユリイカ!」と雄叫びをあげたいところだが

 
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「ユリイカ!」と雄叫びをあげたいところだが ── 。「ABC予想」の証明の件だ。わからぬ。どうにもならぬ。眠れぬ。「ABC予想」の証明のことが気になって気になって眠れぬ。本当に午睡どころではなくなってきた。

案件、取材、面談、打ち合わせはすべてドタキャン。日を繰り延べられるものは繰り延べ、できないものについてはピンチヒッターの弟子どもを投入してお茶を濁す。慶応の仏文を出たばかりの脚線美の誘惑秘書おねいちゃんが iPad を小脇にはさんでブーブーモーモー子豚ちゃん仔牛ちゃん状態だ。なんだ。えらそうに。ここで一番えらいのは吾輩だ!

「ブーブーモーモーとうるせえな。豚か? 偶蹄目か? おめえの脚線美は確かに蠱惑的だが吾輩には通用しない。世の若造小僧っ子どもとは踏んできた場数がちがうぜ」
「先生、それってセクハラです」
「セクハラだか名馬セクレタリアトだかアイルトン・セナだか巨人の原だか知らねえが、とにかくいまの吾輩に一番大事なのはABC予想が証明されたかどうかなんだ。資本家どものお先棒担ぎどころではない」
「なんですか? エービーシーヨソーって。ABCマートと関係ありですか?」
「おまえねえ、下足の安売り屋といっしょにするんじゃないよ。おまえがわかるように説明するだけで100年かかっちまう。いや、100年どころじゃねえな。最低でも350年かかる。ネットで調べてみな」
「なーんだ。先生もわからないんだ。そうなんだ」
「吾輩にわからぬことなどない!」
「じゃ、おバカなわたしにもわかるように説明して」
「いや、それがだなあ…」

埒があかぬので、早々に東京を引き上げ横須賀の隠れ家へ。

海の近い横須賀は東京とちがって風が涼しく心地いい。陽もいくぶんかやわらいでいる。テラスに長椅子を持ち出し、早速、プリント・アウトした望月新一氏の「ABC予想」の証明に関する論文、『Inter-Universal Teichmüller Theory Ⅳ: Log-Volume Computations and Set-Theoretic Foundations(宇宙際タイヒミュラー理論)』を読みはじめる。昨日から数えれば途中で投げ出したのも含めて4度目の挑戦だ。ときどき、気分転換に走水の海岸と観音崎の灯台を眺める。まだ泳いでるやつがいる。9月には帰らなくちゃいけないんだぞ。潮風にちぎられちゃうぞ。山手のドルフィンから三浦岬が見えるというのは大うそだぞ。

望月論文を読みこなし、読み解くには現代高等数学、わけても「整数論」のいくつもの理論が頭の中に入っていなければならない。基礎の基礎の基礎がまず必要なのだ。望月新一氏が架けた巨大な橋を渡るためにはその橋にさらに橋を架け、架けた橋にさらにまた橋を架け…という七面倒くさいことこのうえもない作業が求められるのだ。土台、それは無理な話である。おまけに望月氏は新しい数学メソッドをコンピュータを駆使して開発したうえで証明を展開しているため、望月氏以外の者が無謬性並びに無矛盾の検証作業に取りかかろうとしても、そもそも共通のエピステーメーがないから暗号を解読するような困難な事態となる。

しかし、さすがの吾輩は望月論文を四苦八苦しつつ読み進みながらあることに気づく。うん? これは日本人の英語じゃねえぞ! 気色の悪い「東大話法」英語とはまったくちがうじゃねえか!

早速にネットで望月新一氏の経歴を調べてみた。案の定だ。こいつは日本人じゃねえや。国籍も見た目も日本人にはちがいないが、頭の仕組みと中身、ハート、ソウル、スピリットはアメリカ人だ。なるほど。そういうことか。だから超難問を解くことができたんだ。せいぜいが因数分解を解くのがお似合いの腐ったようなDOS-Vが乗っかったPC98でもってMac OS Xの最新版が搭載されたMac Proのフラッグシップ・モデルをブンブンぶん回して構築された超難解理論を解析しようったって無理な相談というものだ。そのように納得し、さらなる大脳辺縁系並びに大脳新皮質の錬磨にいそしむことを決意した初秋の吾輩であった。


かくして、(横須賀の隠れ家でも)本日も東京はラマヌジャン・タクシーの乗車拒否のごとくに天下太平楽である。


注記:東大話法(安冨歩・東大東洋文化研究所教授による)
その01:自分の信念ではなく、自分の立場に合わせた思考を採用する。
その02:自分の立場に都合のよいように相手の話を解釈する。
その03:都合の悪いことは無視し、都合のよいことにだけ返事する。
その04:都合のよいことがない場合には関係のない話をしてお茶を濁す。
その05:どんなにいい加減で辻褄の合わないことでも自信満々に話す。
その06:自分の問題を隠すために同種の問題を持つ人をこれでもかというくらいに批判する。
その07:その場で自分が立派な人だと思われる言動をする。
その08:傍観者の立場で発言者を分類してレッテルを張り、属性を勝手に設定し、解説する。
その09:「誤解を恐れずに言えば」と言って嘘をつく。
その10: スケープゴートを侮蔑することで読者・聞き手を恫喝し、迎合的な態度を取らせる。
その11:相手の知識が自分より低いとみたら、なりふりかまわず難しそうな概念を持ち出す。
その12:自分の議論を「公平」だと無根拠に断言する。
その13:自分の立場に沿って都合よく話を集める。
その14:羊頭狗肉。
その15:わけのわからない「見せかけの自己批判」によって誠実さを演出する。
その16:わけのわからない理屈を使って相手をケムに巻き、自分の主張を正当化する。
その17:「ああでもない。こうでもない」と理屈を並べて賢いところを見せる。
その18:「ああでもない。こうでもない」と引っ張り、自分に都合のいい地点に話を落とす。
その19:全体のバランスを常に念頭に置いて発言する。(話の中身が「総論」だけなので退屈)
その20:「もし○○であるとしたらお詫びします」と言って謝罪したフリをして切り抜ける。

補遺:ぜんぶ当てはまる……(ションボリルドルフ)


by enzo_morinari | 2012-09-21 19:20 | 東京の午睡 | Trackback | Comments(0)
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