オレンジ色で
Turn Leftの文字がプリントされたカフェ・オ・レ・ボウルを両手で捧げるように持つ女の子に、ゴールデン・デリシャスをかじりながら「ついてくるかい?」とたずねた。女の子は薄桃色の頬を少しふくらませ、くちびるを尖らせて言った。
「リンゴはきらいよ。においも味も色もかたちも。わたしはカフェ・オ・レがいいわ。でも、あなたにはついていく。」
女の子がカフェ・オ・レを飲み終え、私がゴールデン・デリシャスを食べ終えてから私と女の子は手をつないで出発した。途中、バグダッド・カフェの前でプティ・デジュネ・ボル型円盤に乗って男性型単数形定冠詞と粉砂糖をかけた角型のドーナツとチコリ入りのフレンチ・ロースト・コーヒーが支配するクレーム・ブリュレ帝国を目指した。
女の子の名前はペリエ・エビアン・ボルビック・ソス=ベニエ・プティ・デジュネ。実に変わった名前だが、女の子に罪はない。名前がエキセントリックなのは私もだ。ポール・ガー・マッカーニ・ムケタニー。
こどもの頃からポール・マッカートニーに似ていると言われつづけた。名前も顔も声も。Dirty Macに似ているなんて御免蒙りたかったが、ひとの口に戸は立てられない。いまでは、似ても似つかない。殺し屋稼業をつづけて人相はすごく悪くなったが、もう後戻りはできない。私の心のかたちはハートではない。私の心のかたちはバート・レイノルズだ。バニシング in Trans Am 7000だ。アーメン。…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。アッハ! プフィ! 倍音が! ナンカナプッシッケ! 女の子はリナリア・プルプレアの鉢を大事そうに抱えている。
Turn Left!Are You Going With Me? - Pat Metheny (Offramp/1982)