カテゴリ:君の瞳に乾杯!( 1 )

君の瞳に乾杯 #1 世界には何百万の酒場があるというのに

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 世界には何百万の酒場があるというのに、よりにもよって、なぜ彼女はこんな地の果てにある私の店に来なけりゃならないんだ?(Rick's Cafe Americain の店主の酔いどれたすえの独白)

 酒の味をおぼえ、酒の飲み方を学び、「本物の酒飲み」を志してから30年以上が経つ。30年。長い年月だ。そのあいだに数えきれないほど「君の瞳に乾杯!」と言ってきた。酒の味はさまざまで、酒の飲み方はいまだ身につかず、幾度となく口にした「君の瞳に乾杯!」はとうの昔に手垢にまみれた。それでもなお、「本物の酒飲み」への道は長く遠い。酒飲みのとば口に立っているにすぎないとさえ感じる。

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 映画の『カサブランカ』はわたくしにとって酒と服飾と友情と愛についてのバイブルである。とりわけて酒の飲み方については多くを学んだ。このところ群れて飲むことが多くなっているので、自戒の意味で朝から『カサブランカ』をみた。ハンフリー・ボガート演じる主人公が遠い日に別れた恋人との思いがけない再会のあと、閉店し、人気の失せた酒場の片隅で過去の痛切を思い返しながら飲むシーンは格別である。腹にこたえる。

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 男はだれもみな心に疵を隠し持っている。おそらくは女も。女は泣けばいいが、男はそういうわけにはいかない。だから、男の涙はダイヤモンドなのだ。やせ我慢。そう。たいていのまともな男はやせ我慢をして生きつづけている。このろくでもない、素晴らしき世界で。戦場で。そして、きょうも杯をあげる。

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 As Time Goes By. 時の過ぎゆくままに。昨日のことは忘れるにかぎるし、明日にはなにひとつ期待しないが、遠く過ぎ去った日々を思いながら一人静かに飲む酒は悪くない。今宵は裏通り、場末にいい飲み屋を探しに出かけようと思う。思い出し、悔やむ過去なら手持ちはいくらでもある。
 
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by enzo_morinari | 2012-11-29 10:10 | 君の瞳に乾杯! | Trackback