カテゴリ:SALINGER WALL( 1 )

サリンジャー・ウォール再び

 
c0109850_1130052.jpg


レイの奴めが火星人の襲来にも生き残り、華氏451度の炎にさらされても生き残り、この期におよんでタンポポでこさえた密造酒で50年ぶりに酔いどれようと、ハルの小僧がノーベル小学校を放校されたあげくにカフカ海岸で津波にさらわれようと、はたまた、アーネスト爺さんがファンドシエクル銃を取り損ねて石野卓球との「意志の脱臼合戦」に敗れようと、おれは壁から一歩も出ない。もちろん、誰であろうと、理由事情のいかんを問わず壁の内側には入れない。理由は先刻承知之介のはずだが、オムツの取れないおつむテンテンどものために言っておくことにする。

c0109850_11303592.jpg


おれが壁を出ず、だれも壁の中に入れないのはおまえらが大嫌いだからだ! そして、おまえらとおまえらが生き、呼吸し、糞やら小便やら精液やらを垂れ流している世界を心の底から憎んでいるからだ!

おまえらの声を聞き、においを嗅ぐだけでおれは吐き気がする! もちろん、いい声の奴やいいにおいの奴はわずかだがいる。だが、そいつらだっていつなんどき気色悪い声になったり、気持ち悪いにおいになるかわかったもんじゃない。わけのわからない質問をしてきたりする奴もいるしな。だから、もうおれ様をほっておいてくれ! そして、100歳まで生き、バナナ魚を好きなだけ喰い、そっと死なせてくれ!

すべての「答え」はライ麦畑に埋めてある。それでじゅうぶんじゃないか! 「答え」が知りたきゃ、えっさかほいさか掘り返してみるがいい。おまえたちの薄汚い「本音」が出てくるぜ。

c0109850_1131647.jpg


グラフィティ:サリンジャー・ウォールの塗り替えをやる。手伝いたい奴はライ麦畑球場にこい。くれぐれも靴下はきれいなやつを履けよな。汚れた靴下はきれいさっぱり死籠の中に捨ててくるんだぜ。


そして、雨の朝、ライ麦畑に死す。
冷たい雨の中、夢の球場の入口で僕は待っていた。銀河系宇宙一の捕手を。背番号42を。彼が帰ってくるのを。クソまずいバナナ魚をむさぼり喰いながら。何年も何年もだ。「くさいオトナは立入り不可!」とヘタクソな字で記された看板の脇にうずくまり、「きっといつか彼はやってくる。再会することができる」と夢見つづけて。しかし、彼、ホールデン・コールフィールドはついにやってこなかった。

オーケイ。もうなにも、なにごとも待たない。期待しない。ひとつの「確かな時代」は確実に鋭く深く終わったのだ。変わったのではない。終わったのだ。ゴドーとモリアーティは死に、そしていまホールデン・コールフィールドもついに死んだ。そのことは素直に受け入れなければならない。

オーケイ。僕は筋金入りのハード・ボイルドだ。なにがあったって負けやしない。くじけやしない。いくらでも立ち直り、何度でも立ち上がる。内角高目。ビーン・ボールぎりぎりの胸元の球だっておそれやしない。だが、とも思う。「ずっとこどものままでいさせてくれてありがとう」と。

J.D.サリンジャー。91歳。雨の朝、ライ麦畑に死す。キャッチ・ボールはこれで終わり。しかし、世界中にあまねく存在する「サリンジャー・ウォール」は、いったいだれがぶちこわすんだ?
 
[PR]
by enzo_morinari | 2013-03-16 11:32 | SALINGER WALL | Trackback