カテゴリ:バトンガの男( 1 )

バトンガの男

 
c0109850_17362213.jpg

 
 朝、窓をあけるとアンジェリック・キジョの『BATONGA』が聴こえた。音のするほうに目をやると、髪を短く刈りこんだいかつい男がこちらを見ていた。男は短躯でいかつかったが、どこか愛嬌のある顔をしていた。アンジェリック・キジョが「バトンガ!」と歌うところで、同時に男は漢字の「大」の字のかたちに両腕両足をひろげてジャンプした。目を凝らしてよくみると、男の左肩上には黒いしみのような点がジャンプのたびに浮かんだ。犬だ。男は犬と言いたいんだと私は理解した。私が理解すると同時に男はとても気持ちのよい笑顔みせた。
「あれ? ぼくの考えていることがわかるのかい?」と私が考えると、男は笑顔をテンコ盛りにして何度もうなずいた。
「そうか。わかるのか。キミはもしかして、一昨年、虹の橋に出かけたっきり帰ってこない、ぼくの親友だったフレンチ・ブルドッグのバトンガ?」
 男はからだがばらばらになってしまうのではないかと心配になるくらい全身を激しく動かした。男は私の唯一の相棒であり、用心棒であり、友だちだったフレンチ・ブルドッグのバトンガだった。
 私はほぼ2年ぶりの再会がとてもうれしかった。それだけじゃない。うれしかっただけではなくて、すごく感動していた。涙がじゃぶじゃぶ音を立ててあふれでた。
 私がいつもしていたようにあごをしゃくる仕草でバトンガを呼ぶと、バトンガはものすごい勢いで私のところにすっ飛んできた。私とバトンガは再会のよろこびをわかちあい、抱き合い、それから隅田川沿いを散歩し、上野の不忍池あたりに沈む夕陽をいっしょに眺め、さくら橋のたもとでさよならをした。バトンガはしょんぼりした足取りで、ふりかえりふりかえり、虹の橋へと帰っていった。 
 次にバトンガに会えるのはいつだろうな。いまからたのしみだ。朝起きるたびに『BATONGA』を聴いて、バトンガが犬の字ジャンプをみせてくれるときを待つことにしよう。バトンガ!

 Angélique Kidjo - BATONGA
 
[PR]
by enzo_morinari | 2013-07-13 17:39 | バトンガの男 | Trackback