カテゴリ:OPUS ONE( 2 )

セリアのスパイス・ボックスをピン・クッションにした彼女の人生の抜き差しならない事情

 
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大巨人ガルガンチュワの息子にしてのどカラカラ国王、その名も高きパンタグリュエルのものすごく恐ろしい武勇伝と少しだけ関わりのある話。でも、ほんの少しだけ。問題は「布と色」なのか「布十色」なのかだ。


リュ・カンボン通りを隅から隅まで知りつくし、オテル・リッツの裏口をヴァンドーム広場への抜け道に使うほどの彼女が、なぜいまアラスカで鮭の見張り番をしているのかについては諸説ある。

彼女の「チェスをしましょう」のひと言がフォルケン男爵の逆鱗に触れ、かもめ食堂の皿洗い兼床掃除兼水拭き掃除主任補佐、魔女の宅急便屋事務員、マルタのやさしい刺繍屋経理係、愛を読むひと係長、さかな君に読む物語師、勝つためには戦わない事件屋を次から次へとたらいまわしされ、ついにはダーティー・ダンサーとして死の舞踏を踊らされてアラスカにたどり着いたという説。めまぐるしいし、たいへんそうだが、考えようによってはゴドーの待ち針のように後光が射した人生であると言えないこともない。

アララト山の隣りのスパイス山を、伝説の縫い師にして棹師、スティングレー・ステープルス・ニードルス・ステッチソーントーンそっくりの男前な容れ物にしようと企てて失敗したうえに、綺麗なリバティ柄のお手玉に詰めるものをフェレットとペレットを取りちがえて入れたばかりか、ふたつ目のお手玉に綿と肩をまちがえて入れてしまったにもかかわらず、「これ、このミスマッチがいい感じでしょ」と言い張ってオークの森の主の不興を買ったという説。

もっとも信憑性が高いのはアズカバン社製防寒鞄に重態の飛鳥とパンタグリュエル・パンをパンパンになるまで詰めてしまったことにより、バンダナでごまかしごまかし人生のチャゲ禿おやじに101回目のプロポーザルな不法行為に対する損害賠償請求訴訟を提起されて敗訴し、ハイソ生活に終止符を打たざるをえなくなったという説。

いずれが真実であれ、「真実は勝つ (Veritas vincit)」と彼女は信じてきょうもアラスカの鮭たちとともに朝を迎える。この抜き差しならない状況は名張毒葡萄酒事件を生き延びた名針使いである彼女なら、いつの日かきっとなんとかするはずだ。そして、作りながら繕いながら寛げる日々を彼女は手に入れるのだ。


そして、Ooooooooopus!!!な人々の物語の一端(ほぼ年刊実話)

濃密な夜だ。匂い立つような夜。街のあちこちからプラーナが聴こえてくる。かつては、大抵の場合、時間は苦痛、借財、失態を消去することができたが、いまや、command+delete、HDの破壊、ネットワークの崩壊以外に苦痛、借財、失態を消去する方法はない。それが「ネットワーク時代」である。恐ろしいが、その一方で、確実に世界の秘密はすべて解けてしまった。そんな夜だ。

ホンジュラス・マホガニーの黒い扉を押す。いかにも恐ろしげな満面の笑みをたたえた顔面熔解男、タツロー・ヤマシータにクリソツのマダムが荷物を受け取る。やさしい笑顔のメートル・ド・テルがテーブルへと導く。ダイニングのテーブルは完璧にセッティングされている。床は完璧に磨き上げられている。神殿に足を踏み入れたような気分だ。礼儀正しいが決して慇懃ではなく、とても感じのいいセルヴールがアペリティフの注文を取りにくる。

フランボワーズのクレームを垂らしたシャンパーニュを楽しみながら、シンプルなカルトを広げる。「ルジェのポワレのオリーヴオイル風味セップ茸添え」をアントレに、「仔牛のウィーン風セップのリゾット白トリュフ添え」をプラに選ぶ。ワインはピュリニー・モンラッシェの90年とポムロールのシャトー・ベルグラーヴ90年。フランス猿野郎のムシュ・ボリーが神に捧げる聖なる糧を堪能するにはうってつけだ。

アミューズはブレス地鶏のブイヨンを使ったブルーテにレンズ豆とブレス地鶏の肉と肝が入ったもの。これはアントレの選択肢の中にあった。「ラ・キュイジーヌ・ドゥ・ロオジェ」のアミューズは、アントレとして客が注文しなかったものを少しだけ出している。香り高いブルーテはとても上品な味わいだ。ていねいにとられたブイヨンはクレームのコクに負けていない。ブレス地鶏のうま味をじゅうぶんに楽しませてくれる。この先への期待がいやがおうにも高まる。

アントレ。ニンニクの風味をつけてソテーされたセップの上に、三切れのルジェ。オリーブ・オイルで皮をパリパリに焼いたルジェの火の通し方は完璧である。セップの濃厚な香りに包まれたルジェは落ち着いていて、馨しい風味を主張する。まわりにめぐらされた酸味のあるソースが味を引き立てる。ひと口食べるごとに舌が次のひときれを貪欲に求める。

おねいちゃんが注文したのは軽く燻製したソモン。これも絶品である。鮭は厚めに切られている。温かい。熱いのではなく温かいということ。ここが重要なところだ。鮭は冷たいのを食べるよりも燻製の風味がおさえられ、まろやかになる。キャビアのクレームを乗せるとゆっくりクレームが溶けていく。見ているだけでうっとりだ。半溶けの状態で口に入れると口の中でクレームが消え入るように溶ける。心地よい余韻を残して消滅。いや、昇天。あとにはキャヴィアの弾力とソモンの「存在の気配」が残る。ワインはピュリニーらしく香り高く溌剌とした味。わずかに藁が焦げたような香りがする。

プラの仔牛。細かいパン粉をまぶして焼かれたふた切れの肉の横にセップとフロマージュの香りに包まれたリゾットがふたすくい。リゾットの上に白トリュフのスライスが恥ずかしそうにのっている。旨味を閉じ込めた仔牛は繊細に火が通されている。フランス野郎のムシュ・ボリーの人柄のあらわれでもあるか。どちらかと言えば淡白で控えめな味だ、濃厚なリゾットが丁度いいソースとなる。ベルグラーヴのできはそこそこ。もう少したくましいものを選んでもよかった。

デセールは極薄のショコラのタルト、ポワールのソルベ、ポムのシャルロット、トロピカル・フルーツのスポンジケーキ添え、ポワールのババロワのカラメル風味。これらを少しずつもらう。絶品。まさに至福のときである。

世紀の料理人、ジョエル・ロビュションの料理は元気でダイナミックだがジャック・ボリーの料理はいつも控えめで、その魅力を少しずつしか見せない。こちらからあとを追いかけていきたくなるが深追いは禁物である。「スープの冷めない危険な関係」が肝心だ。なにごとも大切なのは適度な距離感である。料理だけでなく、店の内装やメートル・ド・テル以下のセルヴールたちにも言えることだ。

そして、2杯目のエスプレッソ・ダブルを飲んでいるときに生涯にわたって忘れえぬおセレブさんはやってきた。Dior POISON の地獄の大釜で煮立てた馬房のような毒々しいにおいをふりまきながら。藤色のヴェルサーチのスーツを着て髪を茶色に染めた親子ほども齢の離れた若い男を従えて。野村沙知代だった。
 
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by enzo_morinari | 2013-09-05 03:46 | OPUS ONE | Trackback

OPUS ONE#1 Opus de Funk

 
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 初夏の陽射し。よく冷えた Opus One がボトルに3分の2。きれいに霜のついたワイングラスがふたつ。エシレのクロワッサンがみっつ。グリッシーニが13本。Signifiant/Signifié のパン・オ・ヴァンがひとかけら。RARE HAWAIIANのオーガニック・ホワイトハニーをたっぷりとかけた悪魔のフォルマッジオ、カッチョ・マルチョがヴェール・ボールに山盛り。そして、ルッコラと西洋梨とサンチェス・ ロメロ・カルバハルの生ハムと今朝方森の秘密の場所で摘んだ木苺のサラダ。サラダにはローストした胡桃がかかっている。ドレッシングはザクロのバルサミコとオリーブ・オイル。冬眠を忘れた熊のお手製だ。アール・クルーの弾く『Summer Song』が適度な音量で聴こえる。私は冬眠を忘れた熊に言った。
「これで死体がなけりゃ、最高の昼下がりになるんだがな」
「死体はあとふたつみっつ増えそうな風向きだぜ。おれとおまえさんとギャルソンと」
「ん?」
「ゆっくり左斜め後ろを見てみな」
 いつでも引金を引けるように身構える男が二人。どちらもサヴィル・ロウの SR Executiveをかけている。背格好も身なりもほぼおなじ。双子だ。そう思ったすぐあとに自分の考えがまちがっていたことに気づく。おなじ男が一人増えた。三つ子だ。今度はどうやら正解だ。神様もずいぶんと気の利いた問題を出してくれるものだ。
「さて、どうする?」
「残った Opus One とテーブルのごちそうを片づけちまおう。それがおれたちの夏の始まりにおけるプライオリティの第一番目だ。三つ子を片づけるのはそのあとでいい。この機会を逃したら、あとは次のローマ法王様決定のコンクラーベがつつがなく終わって、煙突から白い煙りが上がるまで、こんなごちそうとよく冷えた Opus One と贅沢な時間にはありつけない」

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 私は冬眠を忘れた熊とともに初夏の気持ちのよい陽射しを浴びながらルルティマ・チェーナをゆっくりと味わった。ただし、われわれの「最後の晩餐」ではない。三つ子のだ。曲がミルト・ジャクソンとヒューバート・ローズの『Opus de Funk』にかわったと同時に私と冬眠を忘れた熊は黄金に輝く視えない自由を撃ち抜くための視えない銃を抜き、三つ子に人生最後のデセールをお見舞いしてやった。三つ子が深い沈黙の闇の奥に沈んだのを見届けてから、私と冬眠を忘れた熊は初夏の気持ちのよい陽射しの降りそそぐテーブルに戻った。冬眠を忘れた熊がプールサイドで震えているギャルソンを手招きする。
「命拾いしたギャルソン! よく冷えた OPUS ONE をもう1本だ。それと、『Opus de Funk』をもう一度最初から。ホレス・シルバーのもだ」
 ギャルソンは笑い顔のひん曲がったイギリス貴族に追われる臆病なスウィフトギツネのように走り出す。
「まじめな若造だな。だが、それがいつか奴の命取りになる」
「真面目で勤勉な奴ほどな」
「おれとおまえのように」
「おれとおまえのように」
 残りの OPUS ONE をワイングラスに注ぎ、乾杯する。陽射しがワイングラスの淵で踊っている。まだしばらく、夏の初めの昼下がりにふさわしい時間はつづくだろう。まだしばらくは。街が闇に沈むまでの数時間は。

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by enzo_morinari | 2013-06-11 09:54 | OPUS ONE | Trackback