カテゴリ:異世界レストラン( 4 )

異世界レストラン#3 ひときれのナン

 
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昔々の大百足昔、タゴール系インド屋としてインドをほっつき歩いていた頃のこと。パンジャブ州のフランチスク・ムンテヤーヌ村で何日かを過ごした。村を離れる朝、村の長老が鮮やかなサファイア・ブルーのインド更紗の包みをくれた。

「旅のお方。本当にお腹がすいたときに包みをあけて食べなさい。ナンが入っている。この村はとても貧しいので、このひときれのナンでひと家族の晩ごはんです」

長老がくれた包みをふところに入れ、村をあとにした。その後、旅のあいだ、カネがなくなってまともな食事にありつけないとき、ふところの包みを服の上から何度も何度も撫でた。空腹は変わらなかったけれども、撫でるたびに心だけは満ち足りた。

旅はずっと貧しく孤独で空腹つづきだった。インドでは「死」は日常のごくありふれた一部なので、行き倒れていてもだれも気にもとめてくれない。

万事休す。文無しで、いよいよ「そのとき」がやってきたようだった。ふところのインド更紗の包みを取り出し、ゆっくりと開いた。包みの中にはさらにオレンジ色のインド更紗の包みがあった。それをあけると今度はバイオレットのインド更紗の包み。それをあけるとさらにダークブラウンのインド更紗の包み ── 。

そんなことがしばらくつづいた。そして、漆黒のインド更紗の包みをあけると、一枚の紙切れが入っていた。紙切れには下手糞な字でこう書かれていた。


艱難汝を玉にす。なんとかなる。ナンなだけに。「インド人もビックリ!」なんてナンセンス。インドのことをなんにも知らない南京玉すだれ野郎だ。そんな野郎の口には南京錠をかけて南極に軟禁しろ。「なんでも見てやろう」の心意気でいい旅を!


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以来、インドもインド人も、そして、インド更紗も大好きだ。インコの丸焼きは因業な味がする。『陰翳礼讃』はインポータントにしてインティメートな愛読書だが引用しないと決めている。ハンバーガー用のバンズにハンブルガーSVの往年の名フォワード、Uns Uwe=ウーヴェ・ゼーラー以外のなにを挟もうとうまいわけがない。ワインはチリのサンタ・カロリーナで必要にして十分だ。

いまどき、「オシャレ」などという死語を使う輩の気が知れない。そんなようなテスタ・ディ・カッツォでファッチャ・ア・クーロでファンクーロな餓鬼畜生下衆外道は大方、精神の飢餓にでも見舞われているにちがいあるまい。
 
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by enzo_morinari | 2013-09-02 11:43 | 異世界レストラン | Trackback

異世界レストラン#2 多世界解釈とマントル芝海老のパスタとタイム・ダイバー

 
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異世界レストランのテーブルにはもう一人の自分が座っている。 E-M-M


チネリちゃんとエヴェレットくんと多世界解釈とマントル芝海老のパスタとタイム・ダイバー
非局所性と局所性をめぐる光速度の応酬を経て、青山1丁目交差点HONDA青山2丁目伝説ビルとグレングールド・ベルトの右腕の二局間に分かれ、リーマン幾何学平面上の直線距離にして12700kmを隔てて対峙していたチネリちゃんとエヴェレットくんの同在性あるいは非在性を根拠とした議論は羽田沖で獲れた芝海老の腰のひと振りによって木っ端微塵にされてしまった。もっとも、F-1, 2, 3のダダ漏れ特売ストロンチウム・アーンド・プルトニウムに曝露された影響による芝海老のうちの1匹のオリオン右腕の変異が局所泡を発生させたのがチネリちゃんとエヴェレットくんの議論崩壊、破綻の直接の原因である。

二人のテッラ級の恋物語も同時に終焉を迎えるかと思われたが、プロフェッサー・スティーヴン・ウィリアム・ホーキングCBEが太陽系第3軌道を周回する回転楕円体を担保にマントル芝海老を主たる食材としたパスタの制作をリストランテ・テッラのオーナー・シェフ、ピエール・ルイ・モーペルテュイに依頼したことによって、事態は一応の収束に向けて動きだした。

チネリちゃんとエヴェレットくんの和解和睦のテーブルに並んだリストランテ・テッラの午後の最後のマントル芝海老のパスタはモホロヴィチッチ不連続麺を軽々と突き破り、マントル対流さえもしのぐおどろおどろしき態は瞠目に値する出来映えである。味つけは酸素とケイ素が主体で、以下アルミニウム・鉄・カルシウム・ナトリウム・カリウム・マグネシウムなどの金属元素が含まれる。このほかには微量だが砒素やニッケルも用いられている。マントル芝海老のパスタが放つ香りは地表から上空約100kmまでの範囲に及ぶ。それがこれだ。

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食後、「多世界解釈」をめぐって議論は再燃し、思わぬ人物/存在の登場を見ることとなる。その人物/存在からのメッセージがこれだ。

私はタイム・ダイバーだ。2036年から来た。「APPLE Lisa 4200」を手に入れるためだ。タイム・ダイビングに使用したのは Model-CHGELG420 Gravity Distortion Time Displacement Unit である。2034年にヨーロッパ素粒子物理学研究所が開発に成功し、Hyundai General Electric & LG Company が実用化した重力制御装置だ。Model-CHGELG420 Gravity Distortion Time Displacement Unit は重力場を形成する。重力場を作りだす技術は「量子異常による対称性の破れ」の研究の過程でヒッグス粒子とグラヴィトンが発見されたことによって確立された。

タイム・ダイビング中は上昇するエレベーターに乗っているような感覚が継続する。装置が加速するにつれて周囲の光が屈曲し、紫外線が爆発的に放射される。次第に暗くなり、完全な闇の世界が訪れる。設定した「時空間」に転移すると景色は元に戻り、タイム・ダイビングは完了する。出力最大で10年間分の時空間転移をするのに1時間かかる。タイム・ダイビングが可能な範囲は前後約60年だ。それ以上の過去や未来に時空間転移しようとすると、世界線のずれが大きくなりすぎてまったく異なる世界に時空間転移してしまう。そこは我々が知る歴史とは異なった歴史を持つ世界だ。

60年以内の時空間転移であっても世界線にわずかなずれが生じることは避けられず、タイム・ダイバーは「限りなく似通った並行世界」に時空間転移することになる。銀河系も太陽系も高速度で宇宙空間を移動しているから、タイム・ダイビングが成功したとしても、そこに地球はなく、宇宙空間に投げ出されてしまう可能性がある。この問題は技術的にもっとも困難な部分だ。現在地における重力の正確な測定を行うことによって地球上での空間座標を特定し、この問題に対処している。タイム・ダイビング中、可変重力ロックンロール機能によって空間座標は一定に保たれ、プルトニウム時計の発信周波数を基にエラー修正プロトコルを用いて制御する。可変重力ロックンロール機能の動作限界は60年間である。

エヴェレットの「多世界解釈」はほぼ正しい。エヴェレットの多世界解釈における「世界」は時間の異なる別の世界線上にあり、無限に存在する。異なる世界線を移動するのがタイム・ダイビングだ。過去を訪れたタイム・ダイバーが自分の親を殺しても、自分がいた世界とは別の世界の親を殺したことになるのでタイム・ダイバーは消滅しない。「親殺しのタイム・パラドックス」は起こらないということだ。同様に、異なる世界線の自分を殺しても世界線が分岐するだけである。タイム・ダイビングを行うことに起因して世界線が分岐するのか、あるいはタイム・ダイビングをする以前からその世界線は存在していたのかという問題は私のいた世界でも議論になっている。

帰還の際は往路で収集した重力の測定データを基に時空間を遡らなければならない。潮汐力が地球の重力に影響を与えているため、帰還するタイミングは一年に2回しかない。しかし、まったく同一の世界へ帰還できるわけではない。誤差は非常に小さいものの、そこは「よく似た別の世界」であることに変わりない。 世界線は無限に存在し、そのどれかにピン・ポイントで時空間転移する方法が見つかっていないためだ。ピン・ポイントの時空間転移は光速を超えないかぎり不可能である。アインシュタインの呪縛から逃れることはできていないのだ。もっとも、確率的には低いが、自分の望む世界にたどりつく余地はある。世界線のずれがない世界(同一の時間軸上にある世界)に帰還したタイム・ダイバーは少数だが存在する。

APPLE Lisa 4200 の入手があなた方の世界に来た目的である。APPLE Lisa 4200 にはマニュアルにはないコンピュータ言語の翻訳機能がある。イースター・エッグの一種だ。私の使命は2年後に迫っている「2038年問題」に対応することであり、過去から受け継いだコンピュータ・プログラムをデバッグするために、どうしても APPLE Lisa 4200 が必要なのだ。どうか記憶士であるあなた方の力を貸して欲しい。


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by enzo_morinari | 2013-07-29 17:21 | 異世界レストラン | Trackback

禁じられた遊びに弄ばれた禁忌

 
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 アンドレス・セゴビアの弾く『Concierto de Aranjuez』とナルキッソス・キンキキッズス・イエペスの弾く『禁じられた遊びに弄ばれた禁忌』が交互に反目し合いながら流れるパティオではいままさにキチジ・メンメ・フレソイ・キンキ・キッズを屠り奉った空前絶後のカスエラの宴が始まろうとしていた。
 宴の口火を切ったのはハーポ・ハッカラモケソケ・ヘッケレピーノだった。
「強いアンダルシアの風が吹きつけるグラナダの丘でグルーチョ・グラノーラ・グラシアスが目にしたものは"弄ばれた禁忌"なんだ。われわれはそのことを忘れるべきではない」
 パティオに集う善男善女一同は思わずウスターソースを喉を鳴らして飲んだ。まったくなんて欽公一味のはしのえみ並みにはしたないやつらなんだ。極楽とんぼ山本が化けて出るぞ。
 まことに極楽とんぼ山本はかわいそうなことをした。欽公一味にまんまとハメられて無頼の徒に身を窶したうえに、ガッチリマン・デーカトーにまで見捨てられるとは。蒲焼き用に皮を剥がれた獺のようにかわいそうな極楽とんぼ山本がメチャ池の冷たい水の中に入水した日曜のトーキョー・ブロードキャスティング・システムな朝、ガッチリマン・デーカトーは大カトー理容師の最新髪型にチェンジした。恥を知らぬ輩だ。

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 それはそうと、網走からやってきたキチジ・メンメ・フレソイ・キンキ・キッズは旬外れにもスコブル付きの脂ちゃんだった。その脂の乗り具合は快楽愉悦とも言いうるもので、夜明けのススキノの裏通りに流れる『484のブルース』のようにもかなしくせつなくウマウマだった。体長42cmにもおよぶキチジ・メンメ・フレソイ・キンキ・キッズの右の胸鰭には「定吉二人きりキンキ」なるタトゥーが彫り込まれていて、そのタトゥーの1文字1文字から実にうまそうな脂がいくらでも滲み出てきた。遊びに興じる幼子の残酷を知ってか知らずか、滲み出た脂を指先にとって舐める者が続出した。これから至福のカスエラを堪能できるというのに。彼らの行為はまぎれもなく禁忌だ。弄ばれた禁忌。遊ばれる紅くれないのキンキ。イッちゃってる堂本剛よりさらにイッちゃった眼をしている者たち。禁じられた遊びによってすべては台無しになってしまうではないか!
 もうこのようにも堕落した場にはいられない。禁じられた遊びに弄ばれたキンキを欣喜雀躍して近畿地方まで追尾尾頭し、ついには錦旗翻る禁忌の王宮に焦がれる志ある者たちとともに金気を忌避し、錦綺に身を包み、金器を打ち鳴らし、琴碁で日暮らし、金櫃にはお宝をキンキン詰めにして、100円均一ショップで成金買いしたキンキンにクソまずい金ちゃんヌードルを欽公一味にぶっかけ、喉元まで詰めこみ、近畿鉄道の禁煙席を禁煙化で均一化し、金運をつかむ旅はいま始まる。キンキンに冷えた金鶏ミルクカレーを愛川欽也にアド街天国報告したのは、なにを隠そうノーマン・キングズレー・メイラーだ。ただし、『裸者と死者と愚者の夜』が書かれるのは近日中としか判明していない。

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by enzo_morinari | 2013-05-23 22:15 | 異世界レストラン | Trackback

異世界レストラン#1 ミセス・クロスティーニとミス・ブルスケッタの立ち位置をめぐる暗闘

 
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 ミセス・クロスティーニとミス・ブルスケッタの立ち位置をめぐる暗闘
 極東極北の漆黒の夜空を轟音とともに凶兆の彗星が超高速で飛翔して焦がし、祇園町の清楚な裏通りを稽古を終えた芸妓の二人連れが楚々として歩き、百獣の王とバッファローの午後のダンス・ダンス・ダンスが終わり、シロクマくんのジャンプ・ジャンプ・ジャンプ・レッスン、「氷山上のアリア」が山場を迎え、ネフェルティティの微笑が昼の光から夜の闇の中へ移ろおうとしているとき、J.S. バッハの『平均律クラヴィーア』とおなじレベルの完璧さでセッティングされたダイニング・テーブル上で、いままさにミセス・クロスティーニとミス・ブルスケッタの積年の恩讐に関する解答が出ようとしている。だが、この闘いはまだ代理戦争であって、闘いの矢面に立っているのは双方の刃の将たちである。本当の闘い、ミセス・クロスティーニこと黒ネフェルティティとミス・ブルスケッタこと白ネフェルティティの立ち位置あるいは役回りをめぐる暗闘はまだその緒にさえ着いていない。

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by enzo_morinari | 2013-04-27 01:01 | 異世界レストラン | Trackback